呵。





 「エレファントカツオなんてどうだい兄ちゃん?」

 「ホンマグロは無ぇのかよ」

 「残念!でもコイツもなかなかだぜ?」




魚屋の前で、サンジは顎に手を当てて巨大な魚を見下ろして唸っていた。
チラリと目を上げると、ニコニコと愛想よく笑う店主と目が合う。




 「味はイイんだろうな?」

 「もちろん! タタキにすりゃ酒のツマミにだって最高さ!」

 「酒か・・・」



サンジの頭の中に、ぽんっとゾロの顔が浮かんでくる。
しかめっ面のゾロの顔が、一転して明るくなる。
うーむ、と再びサンジは唸った。





上陸前、サンジはゾロと喧嘩した。
喧嘩と言っても刀と足を出したわけではなく、お互い罵りあったわけではない。
サンジが一方的に怒鳴っていた。


というのも、上陸する1日前に食料が底をつき、酒にいたっては4日も前から切れてしまったのだ。


この船の航海士の読みはほぼ完璧で、よほどのことが無い限りぴったり予定通りに島に着く。
だからサンジはそれに合わせて酒や食料の計算をするので、上陸直前までの食料は確保できているはずなのだ。
食料泥棒が発生しない限りは。

今回酒が切れたのは、ゾロだけの責任ではなかった。
サンジ自身の計算が若干間違っていたのだ。
最近のゾロは隠れて酒をガブ飲みすることはなくなったし、
見張りの後に1本拝借、などのレベルはあったが、それを踏まえた上での計算をしていたはずだった。

ゾロはルフィたちのせいで食事の取り分が減っても文句は言わない。
船の食料を管理しているのがコックであるサンジで、そのサンジが決めた配分なのだから、と納得しているのだ。
酒についても、一度サンジの発言を無視して勝手にガブ飲みしたせいで2週間近く断酒するハメになった事があるので、
以来きちんとサンジの言う量を守っている。

それなのに、酒が無くなってしまった。

食料泥棒の発生でイライラしていたせいもある。
薄々自分が間違えていた事にも気付いていたのに、サンジはゾロを責めた。





サンジは思い出して舌打ちした。

ゾロが隠れて飲んだのだと責めてしまった。
自身のミスを隠したかった、という思いがあったことは否定できない。
だがゾロの方は決してサンジを責めはしなかった。
コックとしての自分を信頼しているからだ。

ゾロは飲んでいないと主張した。

それなのに自分は。






 「兄ちゃん?買うの、買わないの?」



店の主人が黙りこくったサンジを見上げながら聞いてくる。
その声にはっと我に返る。



 「あ、あぁ・・・じゃあコレ、くれ」

 「まいど!」



笑顔になった店主が巨大なサカナを持ち上げてその胴体に紙を巻きつける。
それをぼんやり見ていたサンジの後ろに、航海士ナミが近づいてきた。



 「あらサンジくん、こんなイイの買っちゃうの?」

 「あ、ナミさんv」



自分の買い物を終えたらしいナミは、紙袋を片手に抱えてサンジの隣に立った。



 「旨そうでしょう? 酒のツマミにどうかと思って」

 「ふぅん、いいわね。 ゾロに?」

 「・・・まぁ、そんなとこ」

 「ふふ、喜ぶわよ」



ナミはサンジを見上げてにっこりと微笑む。
だがサンジは肩をすくめるだけだった。



 「・・・どうかな」

 「・・・ゾロは、別に怒ってないわよ?」

 「そうだろうけど、でもやっぱりね」



寂しげに笑うサンジを見て、ナミも苦笑する。



 「まったく、いつももっと激しい喧嘩してるくせに」

 「ほんと、まったくです」





2人がそう話していると、突然その肩に誰かが寄りかかってきた。





 「きゃ!」

 「わ!」

 「何してんだ、2人揃って?」




正体はゾロだった。
間に立って、背中から2人の肩に両腕を回してくる。




 「これ買うのか?」



ゾロはサンジの顔を覗き込むようにそう聞いた。



 「あ、あぁ」

 「へぇ、ツマミにいいな」

 「あぁ、そう思って・・・」

 「なぁお前ら、これ見ろよ」




ゾロはナミとサンジの顔を交互に見て、ニヤリと笑った。
ナミを抱いた左腕はそのままに、その顔の前で親指を立てて背後を示した。

ゾロの腕を外しながら、2人は振り返る。

そこには、台車に乗せられた十数の酒の樽があった。
ゾロでなければ到底一人で運べる量では無い。




 「・・・どうしたのコレ・・・!」

 「クジで当たった」




ナミの嬉しそうな問いに、ゾロは得意げな顔で答えた。



 「すげぇ量だな・・・おれも大分買ってんのに」



既に酒の買出しを済ませていたサンジは、それの倍以上はある樽の数に目を丸くする。
同時に、だから妙に機嫌がいいのかと納得した。



 「おいコック、今日は宴会しようぜ」



呆然と酒の山を見つめていたサンジが振り返ると、ゾロは満面の笑みでそう言った。



 「・・・あ、あぁ・・・」



何とかそう答えると、鼻歌でも歌いだしそうなゾロは台車の傍に戻り、紐を肩に担いで歩き出した。



 「ゾロ、船は逆よ」

 「おう!」



ナミに突っこまれても怒らない。
これはかなり機嫌がいい。


ナミは隣に立つサンジをちらっと横目で見る。



 「・・・ね、全然怒ってないでしょ?」

 「・・・ほんと、かなりのご機嫌ですね」


そう言ってサンジはナミと目を合わし、耐えきれず噴出した。
ナミも釣られて笑い出す。

そうして走ってゾロの後を追いかけた。



とりあえず要望どおり今夜は宴会で。
ゾロには特別豪華なツマミを大サービス。



きっとゾロは、想像どおりの顔で笑うだろう。



『サンジとナミの肩に腕を回す上機嫌なゾロ』
…な、何げに難しい。
隠れ家ゾロのテンションでは厳しかった(笑)。

10/1にリクくれた方、こんなノリでも良いでしょか。

2006/11/09 UP

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