店。




 「あれ?」



いつの間にココって店になったの?




高校からの帰宅途中の通りで、1軒のショップを見つけた。
チラリと見えた狭い店内には、若い子向けの服が並んでいるようだった。
オープン初日らしく、中には自分と同じ高校の生徒たちが溢れている。




 「ふーん?」



ちょっと行ってみようかと足を向けたが、あまりの人だかりに思いとどまる。



 「オープンセールでもやってんのかな・・・」



安いのなら覗いてみたい気もするが、元々バーゲンのあの人だかりは得意ではない。
あっさりと諦めて駅へと歩いて行った。













 「ナミ、あの店行った?」



翌朝、クラスメートが楽しそうに話しかけてきた。
教科書を机の中に入れながら首を振る。



 「オープンしたトコ? んーん、行ってない。何かすごい人だったからさー・・・行ったの?」

 「行った行った!」

 「あれ何だったの? やっぱセール?」

 「ふふーん」



そう言って、友人は携帯を取り出して画面を見せ付ける。
覗き込むと、そこにはブレてはいるが男の姿が映っていた。



 「・・・誰?」

 「店長さん。すっっごいかっこいいの!!」

 「・・・」



友人は頬を染めて興奮気味に喋り続ける。

背が高かっただの、髪が緑っぽい色で綺麗だっただの、声が渋くてかっこよかっただの、
興奮気味の友人の言葉をはいはいと適当に聞き流していた。

こういう情報はかなり怪しい。
それでなくてもここは女子高だ、極端な話だが若い男などあまり接点は無い。
そんな中で、通学路の途中に出来た店のオーナー。
(たとえおっさんだとしても)大人でそれなりの顔をしていれば、
女子高生にかかれば『超かっこいい』と判断されてしまうのだ。


まぁ、せいぜい10人並でしょうね、と自分の中で判断した。




 「ロロノア・ゾロって言うんだって」

 「名前まで聞いたの?」

 「当然。 ね、いっぺん見てみなよ」

 「・・・今日は委員会で遅くなるから、今度行けたら行くわ」

 「ヤル気ないなー」

 「何のヤル気よ」


















店が盛況なのは良いことだ。

オープン初日。
ちょうど下校時間のため、店の前を通る学生は大抵中へと足を向けた。
歩くスペースも無い、と言ってもいいほど混んでいる。

だがこいつらのうち、どれだけが買って帰るのやら。

棚に並べた服を手にとっては互いに見せ合い笑い合う女子高生を見ながら、苦笑する。


まぁイイ。
初日はこんなモンだろ。
客が入るだけでも充分だ。


そう思いながら、ふとウインドウの外に目をやった。
オレンジ色の頭の女子高生が中を覗いている。
中にいる大半の学生と同じ制服だから、同様に帰宅途中なのだろう。
店に入るのかと思いきや、クルリと向きを変え駅の方へとさっさと歩いていった。

何だよ、入んねぇのか?

無意識にその後姿を目で追った直後、背後で携帯のカメラの音がした。
振り返ると、いかにもな女子高生が笑いながらカメラをこちらに向けている。



 「・・・あのー、お客さん、そういうのは・・・」

 「やーん、店長さん声も渋ーーい!」

 「・・・・・・」



聞く耳持たず。
携帯を閉じた女子高生はケラケラ笑いながら友人たちと連れ合って店から出て行った。

やっぱり買わねぇよな。


再び通りに目をやると、もうあの女子高生の姿はなかった。
それを少し残念に思いながらも、すぐに店内の冷やかしの客の対応に追われてそれどころではなくなってしまった。























翌日、店を閉める間際。

高校の近くという立地では客はおそらく女子高生が主なので、閉店時間も遅くは無い。
とは言えもう外は暗い。
ゾロは扉の外でうーんと伸びをして、クローズドの看板を引っ張り出した。

ガタガタと位置を揃えていると、ふと人の気配を感じ、
振り返ると昨日のオレンジ頭の女子高生が立っていた。
オレンジ頭――ナミはゾロの持っていた看板の文字を見て、少し戸惑う。



 「・・・あの、もうおしまい?」

 「・・・・・・いや、どうぞ」

 「よかった!」



ゾロは看板を横にずらして、ナミのために扉を開ける。
ナミは嬉しそうに笑って中に入った。

ゾロもそれに続いて中に入り、既に切っていた空調を入れ直した。



 「随分遅くまで残ってるんだな。あんたもあの高校なんだろ?」



店内を物色するナミの姿を横目で見ながら、話しかけた。
ナミはシャツを手にとってまた畳みながらゾロを見返す。



 「委員会だったの」

 「へぇ、大変だな学生さんも」

 「でもおかげでココ空いてたわ」

 「昨日入らなかったもんな」

 「・・・何で知ってんの?」

 「・・・覗いてんの見えた」

 「あーー、なるほどね。だって昨日はすごい人だったから。閉店間際が狙い目?」



ナミはふふっと笑って、再びシャツを手に取る。



 「結構安いのね。古着がメインなの?」

 「あぁ、それとオリジナル」

 「・・・え、貴方・・・デザイナーなの?」

 「そう見えるか?」

 「全っ然」

 「・・・」

 「てか、さっきから客にタメ口?」

 「言うの遅くねぇ? それにそっちも年上にタメ口だぜ」

 「今気付いたんだもん。まぁいいけど」



ナミの子供のような言い方に、ゾロは笑いながら近づいて行った。



 「このへんに置いてあるのがオリジナル。おれじゃなくて知り合いが作ってんだ」

 「へぇー、ドスコイ・・・パンダ? かわいいじゃない」



ナミはゾロが指差したTシャツの1枚を広げた。
裾の方に、オリジナルデザインらしいパンダのシルエットがついている。
シンプルだが、細身でなかなか素材的にも着心地が良さそうだ。



 「うーん・・・安いし、買おうかな」

 「ありがとうございます〜」

 「あはは!!いきなり店員モード!!」



ナミはシャツをゾロに渡して、バッグから財布を取り出しながらレジに向かう。
ゾロはレジの台の上で、シャツを畳み袋に詰める。
ぎこちないその動きにナミがぷっと吹き出す。



 「・・・笑うな」

 「だって、慣れてないなーって」

 「こういうのは苦手なんだ」

 「バイトさんはいないの?」

 「人雇うほどの余裕は無ぇよ」



自分の手際を誤魔化すように吐き捨てて、ゾロは紙袋にそれを入れる。
ナミはその間じっとゾロの顔を見つめていた。



 「・・・結構、アタリな情報だったのね」

 「あ?」

 「独り言」

 「でけぇ独り言だな。 カードいるか?」

 「カード?」

 「2000ベリーお買い上げでスタンプ1個。20個貯まれば2000ベリー分の買い物券です」

 「ふーん、じゃあ一応作ってくださーい」

 「かしこまりました、っと」



レジ横の籠からゾロは二つ折りにしたカードを出して広げ、ポンっとスタンプを押した。
それを受け取ったナミは、カードの裏表をジロジロと眺めながらゾロに尋ねた。



 「ねぇ、これ手作りなの?」

 「知り合いのな。宣伝にもなるからポイントカードは作れ、だと」

 「このスタンプも手作り? 何この丸っこいの?」

 「・・・・・・マリモ、らしい」

 「・・・あぁーー、マリモ! でも何で――」




カードに押された緑色のスタンプを見て、それからナミはゾロの頭に目をやる。


短髪の緑色の頭。




 「・・・あぁ、マリモね」

 「・・・うるせぇ」

 「んーん、いいんじゃないのコレ」

 「そうか」

 「でもお買い物券より店長さんとデート、の方がウケるかもよ?」

 「・・・キャーキャー騒ぐガキに興味無ぇよ悪ぃけど」

 「・・・女子高生に興味は無い?」

 「『女子高生』って生き物にゃ興味無ぇな」

 「何かそんな言い方されると、現役女子高生としてはムカつくんですけど」



紙袋を受け取り、ナミはムっとして唇を突き出す。
ゾロはノートを取り出してさらさらと記録をしながら、返事をした。



 「まぁあんたはイイけど、髪型やら顔つきやらみんな同じで見分けつかねぇよ。
  何考えてっか分かんねぇしな」

 「・・・・・・それなのに女子高の近くにオープンしたの?」

 「安かったし、ここくらいしかなかったんだよ空き店舗が」

 「ま、それも運命ね。でも女子高生の気持ちを理解しなきゃ、客が付かないわよ」

 「そんなモンかね」




ナミは何かを閃いたかのようにパンと軽く手を打ち、台越しにゾロに上半身を寄せる。
思わずゾロが背を反らせると、ふふんと笑ってみせた。



 「それじゃ、私が女子高生代表として協力してあげるわ」

 「何だそりゃ」

 「お礼は服のプレゼントで良くてよ?」

 「勝手に契約進めんな」

 「嬉しいくせに」

 「・・・・・・なんでだよ」



レジに鍵をかけながら、一瞬言葉に詰まったゾロは何とかそう返事をする。
横目でナミを見ると、ニコニコ笑いながらこちらを見ていた。
思わず目をそらし、無意味にガチャガチャと鍵を回す。



 「さっきさー、『あんたはイイ』って言ったよねー」

 「・・・・・・・・・言ったか?」

 「言った。あれってどういう意味かなロロノアさーん」

 「・・・何で名前知ってんだよ」

 「女子高生の情報力を甘く見ちゃダメよ」

 「・・・」



ゾロは鍵をジーンズのポケットに突っこんで、ボリボリと頭をかく。

高校生のガキ相手に、何を動揺してんだ。

心の中で舌打ちして、またチラリとナミを盗み見る。



 「・・・おい、何してんだ」



ナミはカードを開いて、勝手にポンポンとスタンプを押していた。



 「女子高生の気持ち理解にご協力、の契約料」

 「だから勝手に・・・・」



ポンポンと軽快にスタンプでカードを埋めていき、ナミは20個を押したところで手を止めた。
満足気に笑って、カードを見せ付ける。
眼前に突き出されて、ゾロは首をかしげつつ眉を寄せる。



 「20個貯まった!」

 「・・・ズルじゃねぇかよ」

 「貯まったモンは貯まった! 引き換えて!」

 「・・・分かった分かった、次買うとき2000円分――」

 「違う」

 「あ?」



ナミはカードを畳んで、手を伸ばしてゾロの胸に押し付けた。
反射的にそれを受け取り、ゾロはカードを見下ろす。
裏面には、名前と連絡先の欄がいつの間にやら埋められている。





 「店長さんとデート、と引き換えね」

 「・・・・・・」





ふふっと笑ったナミは紙袋を手に持って、クルリと向きを変えて出口へと歩いて行った。
ゾロは呆然とその背中を見つめる。



 「あ、授業中は電話はダメよ!」

 「・・・・・・」



ナミは笑顔でそう言い残して、軽い足取りで元気に出て行った。
それを無言で見送って、ゾロはカードを見下ろしそれからもう一度ナミの出て行った扉を見つめる。




ガキのペースに巻き込まれるなんざ、修行が足りねぇな・・・。

ゾロはそう思いつつ、だがカードはポケットにしっかりとねじ込んだ。





『洋服屋を営むゾロ、そこに服を買いに来たナミに一目惚れ』
あれ、むしろナミさんが一目惚れじゃないか。
あらら。
てかタイトル・・・何この何の捻りも意味も無いタイトル・・・orz

9/30にリクくれたねここさん、こんな感じで・・・。
かなりの誤魔化しっぷりですけど許して!(笑)

2006/11/07 UP

生誕'06/NOVEL/海賊TOP

日付別一覧

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送