魅。






嫌な目つきだな、と思った。



すれ違う間際まで、体の上から下まで気持ちの悪い視線を送ってきていた。
注意していたつもりだったけど、まさかこんな人通りの多いところで襲われるなんて思ってなかったのだ。
荷物で両手が塞がっていたのも運が悪い。

背後からいきなり口を塞がれて、
そのまますぐ横の、建物の隙間にできた細い道に連れ込まれた。

太腿の棍に手を伸ばす前に、両腕を捕まえられる。
しまった。
相手は3人。
背後から口を塞がれ両腕も捕らわれ、壁に押し付けられる。
叫んで人を呼ぼうにも、騒々しい大通りではどうにか声を出したとしても聞こえる者はいないかもしれない。
そのうえ仲間の一人、図体のでかい男が間で塞いでいて、通りからここは見えていない


それでも暴れて少し男の手がズレた隙に、誰か!と叫んでみたが、
もう一人の男に頬を叩かれ再び口を塞がれる。
口の中で鉄の味がした。

首をねじって男を睨みつけても、何の効果もなかった。
体の向きを変えさせ、口をまた塞ぎ今度は頭の上で両腕を掴まれる。
残りの一人が、キャミソールの胸元に手をかけ一気に引きちぎった。


ちくしょう。
ちくしょうちくしょうちくしょう。

こんなヤツらにやられるなんて。


悔しさでぎゅっと目を瞑ると、唐突に男の動きが止まり、拘束が緩んだ。




瞼を開けると、男2人は空ろな目をして膝から崩れ落ちて行った。
その後ろには、鋭い目で男たちを睨みつけながら刀の血を払うゾロの姿があった。




 「・・・ゾロ」

 「・・・・・・」

 「あ、」



何か言おうとしたが、顔の筋肉が強張って上手く言葉が出てこなかった。
ゾロは無言で、羽織っていたシャツを脱いで放り投げてきた。



 「自分でなんとかできねぇんなら、ンな格好で歩き回んじゃねぇ」

 「・・・・・・っ」



冷たいゾロの声色に、また体が強張った。















船に戻ったナミは、そのまま女部屋へと急ぎ足で引っ込んで行った。



 「・・・何でナミさんがお前のシャツ着てんだ」



ナミに声をかけようとしたがそのタイミングを失ったサンジは、
その後姿を見送って、後から上がってきたゾロを睨みつけた。



 「変態野郎に襲われてた」

 「なにぃ!!?? それでナミさんは!?」

 「服破られただけみてぇだ、心配無ぇ」

 「あぁナミさん・・・!!」

 「自業自得だ・・・」



ゾロが小さくそう呟くと、
女部屋の方へ向かって手を組み合わせていたサンジは一瞬動きを止め、
ゆっくりと振り返った。



 「・・・あぁ?」

 「あんな格好でウロウロしてりゃ、襲われても文句言えねぇよ」

 「・・・・・・てめぇ、ナミさんにそれ言ったんじゃねぇだろな」

 「言った。それがどうした」



あっさりとゾロが答えると、サンジは額に血管を浮かび上がらせてゾロに掴みかかった。
ドン!と音を立てて壁に押し付ける。



 「ふざけんなよ・・・」

 「・・・どこが」

 「あのなぁ、何でクソ変態野郎に合わせて、レディが自分のファッション変えなきゃいけねぇんだよ?」

 「・・・・・・」

 「お前まさか本当にナミさんが悪いと思ってんじゃねぇだろな」

 「・・・別に、おれは」

 「襲われて一番ショック受けてんのはナミさんなんだぞ」

 「・・・・・・」

 「それなのにそんなこと言いやがって、しかもナミさんはお前が―――」



そこでサンジは口を噤んだ。



 「・・・何だよ」

 「・・・うるせぇ」



サンジは舌打ちをして、もう一度ゾロを壁に押し付けてから手を離した。
ゾロは軽く咳き込んで、サンジを睨む。



 「・・・・・・」

 「ナミさんに謝って来い」



















女部屋に行くと、ナミはベッドの上でシーツにくるまって横になっていた。



 「ナミ」



反応がなかったので、もう一度呼ぶと小さな声が返ってきた。



 「・・・もうあんな格好しないわ」

 「・・・」

 「長袖のぶかぶかのシャツ着こんで、ジーンズ履いて、帽子だって被ってあげる」

 「・・・おい、おれは別に」

 「そしたらあんただって、いちいち助けに来なくてもいいもんね」

 「・・・・・」



傍まで近づいて、ベッドの端に腰掛ける。



 「面倒かけるつもりなんて無いのよ」



シーツの上から、ナミの肩に手を置いた。
震えている。
声も。




あのときせめて、優しい言葉の一つでもかけてやるべきだったのだろうか。
だが、無性にムカついてそれどころじゃなかった。
おれがあと少し遅ければ、こいつはあの変態野郎共の手に堕ちていた。

ナミの服装や、変態野郎の存在にムカついたんじゃない。


ナミを一人であの状況にさせてしまった自分にムカついたんだ。




 「ナミ」

 「もう助けてくれなくていいから」

 「ナミ」

 「もうあんな格好しないし、人の少ないところにも行かないし、ずっとタクト握りしめとくから」



半ば意地になっているナミの言葉を聞きながら、シーツの端から覗くオレンジの頭に触れる。



 「ナミ」

 「・・・・・・」



ゆっくり撫でてやると、ナミは口を閉じた。
小さく鼻をすする音がする。



 「別に、服を変えなくていい」

 「・・・」

 「あの方が似合ってる」

 「・・・さっきは着るなって言ったくせに」

 「・・・あぁ、だから――」

 「だから?」



ナミがシーツを少し下げて顔を覗かせる。
目が合ったので、口端を上げて笑ってやった。



 「外出るときは、おれと出ろ」

 「・・・・・・」

 「そしたら変態野郎も近づかねぇ」

 「・・・・・・上陸のたびに?」

 「あぁ」

 「・・・・・・ふふっ、分かった」




鼻の頭を赤くしたナミは、ようやく笑った。






コイツにはああいう格好が似合ってるし、

やっぱり笑った顔のが似合ってる。



それを無くしちゃいけねぇよな、と改めて思った。





『見知らぬ男に迫られるナミを助けるゾロ、そんな姿をゾロに見られて泣くナミ』
あれ、何かリク内容に沿ってないなぁ・・・。
迫られるどころか襲われてるよ・・・。
微妙にまだゾロ×ナミじゃねぇしな・・・。

9/30にリクくれたなみサン、ゆ、ゆるして・・・!

てかさ、『魅』て漢字・・・・。
決して『ばけもの』の意味の方ではない(笑)。
こればっかりは重ねた意味を使えなかった・・・。

2006/11/04 UP


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