色。







 「それじゃ、私は買い物に行って来るわね」


そう言ってナミは船を下りる準備をする。



 「ゾロ、準備できた?」

 「何でおれまで・・・」

 「いいから」

 「あぁナミさん!おれがお供できたらどんなにか・・・!!!」

 「サンジくんは今日は船番でしょ。まぁ楽しみに待っててvv」

 「はーーーい!!!!!」






ハートを飛ばしてナミを見送るサンジを見やりながら、
ムリヤリ駆り出されたゾロは不機嫌そうにナミに言う。

 「コックに何か頼まれてんのか?」

 「今日はバレンタインでしょ?」


町へと向かいながら、ナミはゾロを振り返って言う。


 「・・・バレンタイン・・・・」

 「女の子が男の子にチョコをあげると3月には10倍になって返ってくるという素敵な先行投資の日よ」

 「・・・・・・」


前にコックに聞いた話と違うような・・・とゾロは口には出さずに思う。










 (そんな恐ろしい日がこんなにも世にはびこっていいのか・・・・・・)

店の並ぶその通りは、女で溢れている。
周りを見渡せば、黄色い声を出しそうな若い女から、子供連れの婦人、果ては婆ちゃんまで、
みんなやたらとニコニコして、甘ったるい匂いのする店に入っていく。

自分の周りの空気まで甘い気がして、ゾロは思わずしかめっつらになる。





 「じゃゾロ、私この店で買うから、そのへんで待ってて。勝手に動いちゃダメよ」

 「ところでおれは何しに来たんだ?」

 「荷物持ち」

 「つってもチョコだろ?」

 「他にも買いたいものはあるのよ!本も買うしインクもそろそろ切れそうだし」

 「・・・・・できるだけ手早く頼む」

 「・・まぁ確かにアンタにこの空気は似合わないもんね。できるだけ早くするわ」


居心地悪そうなゾロを見て、ナミは笑いながらそう言って店内へと消えた。








残されたゾロは、しばらくナミの消えた店を睨んでいたが、
そこに入ろうとした女性客と目が合い、
軽く悲鳴をあげられてしまったので、視線を回りに移した。


見るとすぐそこが広場になっていて、中央には大きな噴水があった。
そこには自分と同じように、女の買い物を待っている野郎どもが
所在なさげにぼーーーっと座っていた。


 (何で女一人で来ねぇんだろうな・・・・・・)


とりあえずゾロも同類たちに習って座っておこうと、そちらに向かって歩き出す。

その時、ワゴンの花屋が後ろから声をかけてきた。






 「お兄さん、彼女に花はいかがかな?」

 「・・・・・・」

 「貰ってばっかりの甲斐性無しじゃ駄目だよ!今日は男が女に花を一輪、贈る日でもあるんだよ!」


 「うるせぇ、失せろ」





凶悪面で振り返ってそう言うと、花屋は一瞬飛び上がったが、

 「そんなんじゃ彼女に振られちまうよ!」

という捨て台詞を吐いて、次の客を探しに行った。


それを見送って、再び噴水の方へと歩き出す。

そのまま脇のベンチに腰掛る。









しばらくは人間観察をして暇を潰していたゾロだったが、やはり眠くなってきた。


このまま寝ていたら、戻ってきたナミに殴り起こされる、というのが分かっているので
ゾロは眠気を覚ますために散歩することにした。


方向音痴の自覚のないゾロは、そうしてどんどんと、店からも船からも遠ざかっていった。




















 「ゾロは!!!???」

 「あれ?ナミさん?お一人ですか?」


船に上がるなり叫んだナミに、サンジは驚いてキッチンから飛び出してきた。



 「ゾロは帰ってきた!!??」

 「いや・・アイツはまだですけど・・・・・・・・また迷子・・ですか・・・・?」

 「待っててって言ったのに!こんな日に女を置いてけぼりにするなんて最低!!!!」


怒り心頭な様子で一人で船に帰ったナミは、
ドカドカと踏み鳴らしながら女部屋に戻っていく。


 「あの〜・・・ナミさん・・・それで・・・『お買い物』のほうは・・・・?」

 「何よ!!」

 「何でもないです〜・・・・・・・」


がっくりと肩を落として、サンジはキッチンへと戻った。




















 「店は・・・・移動したのか?」

森の中でゾロは呟く。

夕焼け色の空を見上げながら、ゾロはとりあえずナミとはぐれた事は自覚した。


途中で店に戻ろうと方向転換したハズなのに、何で森の中にいるのか。
ゾロは考えても仕方が無い、とまた適当に歩き出す。

 「とりあえず・・・こっちか」


何の根拠もなく、だが自信たっぷりな足取りではある。











一瞬、視界に何かが入る。

木の隙間から、明るい色が見えた。



 (・・・・何だ・・・?)




その正体を求めて、ゾロは木の間をすり抜けながら近づいていく。



そこでゾロが見たものは、一面の――――























 「ゾロが帰ってきたぞーーーー」




すっかり陽も落ちた頃、ようやくゾロは船へとたどり着いた。

見張りをしていたウソップが叫ぶ。


 「よく一人で帰ってこれたなぁ。今探しに行こうと思ってたんだ」

 「うるせぇよ。・・・・・・・ナミは?」

 「女部屋。かなーーーり怒ってるぞ」


ウソップはナミから貰ったチョコレートを頬張りながら、女部屋の方に視線を向ける。


 「・・・・そうか」












 「ナミ」

 「・・・・勝手に入ってこないでよ」

 「悪かったな、置いてって」

 「・・・・何でそうすぐ迷子になるのかしらねアンタは」

 「迷子言うな」

 「迷子じゃなかったら何よ。・・・とにかく最悪な一日になっちゃったわ」


椅子に座って不貞腐れているナミに近づいて、ゾロは手を差し出す。


 「ナミ、これ、やる」

 「え、?」

ゾロの手にあるのは、オレンジ色の一輪の小さな花。
突然目の前に突きつけられて、反射的にナミは受け取ってしまった。




 「どうしたのこれ・・・・」

 「・・・一面、オレンジなんだぜ」






















ゾロの目の前に開けたのは、視界一杯に広がる花畑。

 「・・・・すげ・・・」

自分とはあまりにも似合わない風景ながら、思わず声が漏れる。

誰かが育てているのか、
自生しているのだとしたら、あまりにも見事な。
一色で埋められたその風景に、ゾロは眩暈を覚えた。



引き寄せられるようにそこに近づいていったが
足元の花を折ってしまうのはためらわれたので、
立ち止まって花畑の脇で腰を落とす。







花の種類なんて知らない。

見覚えのある花でもない。

でもあの色は・・・・。



  橙、柑子、莞草、黄丹、金赤、山吹、雄黄、梔子




近づいてよく見た花は、全てが同じ色なわけではなかった。
明るい色から濃い色まで、同じ花のようなのに、それぞれ色が違う。
遠くから見たときは一色に見えたのだが。

ゾロは、目の前にあった、その時の色に一番近い色の花を、1本折った。








さっきのあの色は・・・・・。

いつも見てる色だ。






あぁ、そうだ




あれは『あいつの色』だ





















 「あんた何でそんなに色の名前知ってんの気持ち悪い」

 「言うに事欠いて気持ち悪いはねぇだろが」


ゾロは頭をがしがしと掻きながらナミを睨む。


 「とにかく、すごかったんだ」


ゾロのその子供のような感想に、ナミは思わず笑ってしまった。
ゾロはそれを見て、ナミの機嫌が直ったと安心した。



 「・・・これで誤魔化そうったって、そうはいかないわよ!!」

 「へぇへぇ」



そうは言っても、自分の手の中の小さな花を見ていると、ナミはついつい笑みがこぼれる。




 「・・・・私の色だと、思ったの?」

 「あぁ・・・・・連れてってやりてぇけど、場所覚えてねぇな・・」




 「『ナミ色』?」


わざと可愛らしく微笑んでそう言うと、ゾロもふっと笑顔になる。


 「『ナミ色』だな」


そのままナミは立ち上がって、ゾロの胸に体を預ける。












 「・・・花を探してて迷子になったの?」

 「だから、迷子じゃねぇ」


ゾロに抱きしめられたまま、手の花を見ながらナミは呟く。


 「花を探してたの?」

 「そういうわけじゃねぇが・・・・花屋の親父が言ってたしな」

 「何て?」

 「今日は男が、女に花を贈る日なんだと」

 「・・・ちょっと違うわ」

 「違うのか?・・・くそ、あの親父、騙しやがったか・・・」




ナミは顔をあげて、上目遣いで微笑む。







 「今日は男が、惚れた女に花を贈る日よ」




 「・・・・・・なるほど」

 「騙された?」

 「いや・・・騙されてねぇな」









 「ところで、おれのチョコは?」

 「・・・・ルフィが食べちゃった」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「まぁまぁ、ゾロだけには違うものあげるわよ」

 「何だよ」

 「・・・・何でしょう?」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・それならいつも喰ってるからなぁ・・・・・」

 「こういうのはムードが大事なのよ?」

 「・・・・それもそうだな・・・じゃ、もらっとこう」
















キッチンでは、ゾロの高級チョコまで食べたハズの船長が、
なかなか出てこない2人のせいで夕食の待ちぼうけをくらっていた。

サンジは不機嫌そうにはしていたが、

 「今日は特別だぞチクショウ・・・でも先に飯食ってくんねぇと片付かねぇ・・・・」

とブツブツ言っていた。


2005年バレンタインということで。
ナミさんは何故ゾロをお供させたんでしょう。
まぁ何か買ってあげる気だったんでしょう(他人事のように)。
とりあえずイチャコラさせたかったんですが。
ゾロはチョコの代わりに何を貰ったのかしらねぇ・・・ふふー。
大人なネタは書けませんので、あしからず。
皆さんでご想像してくださいな。。。

2005/02/11

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