70507ゲッター、AKARIサマへ愛をこめて

機。





 「いいか、まずはこのアイテムだ!」



そう言ってサンジは自慢げにポケットから白いハンカチを取り出した。



 「・・・・ベタだな」

 「・・・うるせー!!」













ゾロが『彼女』に初めて会ったのは、高校入学して間もない頃だ。

中学は地元だったので自転車で、時には走って通っていたのだが、
高校のまわりの地理には疎かったため、しばらくはバス通学をすることにしていた。

金がかかるから慣れてきたらチャリにしよう、などと考えつつ、
その日もゾロはぼんやりと眠い目を閉じかけながらバスを待っていた。
立ったままで器用に舟を漕ぎ、中途半端な意識のままでやってきたバスに乗り込む。

運良く座ることができ、窓際に肘を付いてゾロはぼんやりと外を眺めた。
すぐにバスの扉は閉まり、ゆっくりと動き出す。
これから20分は安眠だな、とゾロは背もたれて寝る準備を整えようとした。
だがふと何かが視界をかすめた気がして、体を起こしてまた窓の外に目をやる。


既に動き出しているバスを追って、一人の少女が駆けていた。
だが無情にもバスは止まることなく、セーラー服の少女の姿はどんどん後ろに流され、
ゾロは周りの様子を伺いつつ出来うるかぎり顔を後ろに向けて少女の姿を追った。


少女は膝に手を当てて体を曲げ、肩で息をしていた。
それから顔を上げてなにやら叫んでいる。


(止まってやりゃいいのに)

ゾロはぼんやり思った。
学生にとってバス1本分の時間は死活問題だ。
自身も遅刻常習者なので、あのときの気持ちはよく分かる。
実際この次の、いつも乗っている時間のバスでは遅刻は決定なのだ。
今日は早起きに成功し、1本早いバスに乗ることができたため余裕もあるが。

それから椅子に座りなおして背もたれ、目を閉じた。



(派手なアタマだったな)



肩ほどの長さの、少女の眩しいほどのオレンジ色の髪を思い出して、ゾロは一人で口端を上げた。
自分もよく珍しい色の髪だと言われるが、あの女もなかなかだ。

短い間しかこの目に写せなかった少女の姿を思い出しながら、ゾロはバスに揺られて眠りに落ちる。





(あぁ、それに)



(なかなか可愛かった)

















翌日、この日はゾロは寝坊した。
やはり早起きは2日も続かない。

バス停に向けてダッシュしたが、バスはゾロを待つことなく発車した。



(昨日と言い今日と言い、もう少しルーズになってもイイんじゃねぇか運転手さんよぉ!!)



ゾロはそれでも止まってくれる可能性に駆けて脚を緩めることはしなかった。
もちろん止まることはなく、中途半端に追いついてしまったことが逆に虚しい。

バスの後部座席に座る数人が、哀れみの混じった無関心な目をチラリと寄越す。


それを一瞬見上げて、ゾロは足を止めた。



あのオレンジ頭の少女が乗っていたのだ。



昨日自分が座っていたあたりの席に座り、
昨日自分がそうしていたように、ゾロを見下ろしていた。

目が合ったように思えたが、一瞬だったので気のせいかもしれない。


走り去るバスを見送りながら、ゾロは舌打ちした。

あのバスには乗っておくべきだった。






さらに翌日、ゾロは早起きに(目覚まし5つ体勢で)成功した。

期待しつつ、だが期待しすぎないように、バス停へと足を運ぶ。

まだバスは来ておらず、バス停には5,6人の人間の列が出来ていた。
その真ん中あたりに、あの少女はいた。
サラリーマンやOLに囲まれて、ぼんやりと地面を見つめている。

ゾロは一瞬足を止め、それから何事も無かったかのようにまた歩き出した。
列の一番最後に並ぼうとしたところで、下を向いていた少女がふと顔をあげてゾロの方見た。

一瞬体を強張らせたゾロは、それでも平静を装って列に並んだ。
何となく少女の視線を感じたが、顔を上げて横を見ても目が合うわけでもない。

気のせいか、と妙にヘコんでみたりしつつも、
ゾロは明日からも早起きしようと心に決めたのだった。


















 「で? それから進展は?」

 「・・・・・・進展?」

 「・・・お前、話しかけもしてねぇの!!??」

 「・・・・・・・」



夕方のバス停のベンチで、サンジは隣に座るゾロの顔を覗き込んだ。
ゾロは居心地悪そうにその視線から逃れようと顔を逸らす。

サンジはわざとらしく大きな溜息をついて、ベンチに背もたれ首を反らした。



 「ほんっっっとお前、ダメだな!」

 「・・・うるせ」

 「毎朝顔合わせてんだろ!? ただ並んでるだけかよ!!!!」

 「・・・・・・・・」



首を振りながらサンジはゾロの肩を抱いた。
ゾロは身をよじってその腕から逃れようとするが、サンジはニヤニヤと笑いながらさらに密着してくる。



 「いいかゾロ、とにかく動け」

 「・・・動けっつったってなぁ」

 「恋愛マスター・サンジ様が協力してやっから!」

 「・・・女にフラれまくってるお前に指南されてもなぁ・・・」

 「フラれてねぇ!!」



ゾロの呟きをサンジは急いで否定した。



 「でも逃げられてんじゃねぇか」

 「おれはなぁ、世のレディたちが美しき蝶のごとく外の世界に飛び立っていく、その手助けができればイイんだよ・・・!」

 「ようは踏み台か、当て馬か・・・・」

 「がーーー!!てめぇムカつく!! もう何も教えてやらん!!!」



サンジは頭を掻き毟り、腕を組んで子供のようにフンっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

ゾロはくっくっと笑ってその後頭部を見つめる。
他のヤツからは自分よりも精神年齢が上に見られてるくせに、こういう子供のような親友の一面を、
ゾロはなかなか気に入っていた。



 「冗談だよ」

 「うるせぇ! てめぇとはもう口をきかん!」

 「機嫌直せよ、お前はイイ男だって」

 「・・・・・・」



サンジの肩に手を乗せて、ゾロはいつもより優しい声色でそう言った。



 「おれが女だったりソッチの趣味があったりしたら、多分お前に惚れてたなぁー」

 「・・・・・・」



サンジはジロリとゾロを睨む。
だが機嫌が直っているのは傍目にも分かる。
さっきまで逆立っていた猫の毛が、今ではぺたんこだ。



 「・・・おれはてめぇより女の子のがイイ」

 「知ってる」



何とも扱いやすい。
ゾロは当然口には出さず、上機嫌になった親友を眺めながら1人で笑った。



 「よーし、じゃあ教えてやろう!」

 「おぅ」



そう言ってご機嫌なサンジは、ポケットに手を突っ込んで白いハンカチを取り出した。



 「まずはこのアイテムだ!」

 「・・・・・・ベタだな」

 「・・・うるせぇ!」



サンジはゾロの顔にハンカチを投げつけた。
顔にへばりついてきた布きれをつまみとって、ゾロはしげしげとそれを見つめる。



 「落としませんでした? て声かけろ」

 「・・・・・・・・・本当、ベタだな・・・」

 「ベタでも何でも、第一歩が出りゃイイだろ」



サンジはフンと鼻を鳴らして、ゾロからハンカチを取り返してポケットにしまった。



 「で? そっから話しかけんのか?」

 「いや、間違えました、でとりあえず終わりだ」

 「・・・そのまま帰んのかよ」

 「あぁ、まずは彼女にお前の存在を印象づけねぇと。 毎日同じバスだからこその技だぜ。
  翌日だ、もし彼女がお前に悪い印象を持ってないなら、目が合ったときに何かしら反応してくれるぜ」

 「反応、ね・・・」

 「良くて会釈程度かもしんねぇけどな。笑いかけてくれりゃ言うことナシだが・・・
  ま、気味悪がられたらあのバスじゃもう会えねぇだろうな」

 「ふーん・・・」



ゾロは呟いて、自分のポケットの中をゴソゴソと探る。



 「・・・ハンカチ、無ぇ」

 「じゃあ姉ちゃんから借りてこい! 手間かかるヤツだな」




ゾロは小さく息を吐いて、空を見上げた。
上手くいくとは全く思えないが。
(もちろん口には出しはしない)



 「ちゃんと結果報告しろよ!!」

 「・・・おう」



自分のアイデアに一人満足気なサンジに、ゾロは苦笑しつつそう答えた。















サンジに『指南』された翌朝、バスを待つ列に並んだゾロは、
ズボンの左ポケットに忍ばせたハンカチを握り締めた。

姉から借りてきた、オレンジ色のハンカチ(選んだわけではない、誓って偶然だ)。

目的の相手は、左側のサラリーマン一人を挟んで立っている。
両手でバッグを握り締め、顔を少し俯けて立っている。
横目でその様子を見ながら、ゾロはタイミングをうかがっていた。


『落としませんでした』だと?
どういう状況だよ、よく考えたら。
ずっと同じ場所に突っ立ってんのに、いつ落とすんだよ!!!


今さらながらそんなツッコミを心の中でサンジに送りつつ、ゾロはこっそりハンカチを取り出した。
バスが来て、皆が歩き出したときがチャンスか?

色々と脳内でイメージしているうちに、二人の間に立っていたサラリーマンが携帯を耳に当てて列から離れた。


突然に、隣同士になってしまった。

固まっていたゾロだが、右隣に並んでいたOLに間を詰めるように無言で責められて、
仕方なく少女との距離を縮めた。
それに気付いた少女が、ふと顔を上げてゾロを見た。
だがすぐに視線を伏せてしまい、ゾロは安心したような残念なような微妙な思いを抱きつつ、
その隣に並んで立った。





 「あ」



突然、少女が声を出した。



 「あ?」



釣られて思わずゾロも変な声を出す。


少女に目をやると、ゾロの左手を見下ろしていた。
そういえば、ハンカチをポケットから出して握り締めたまま忘れていた。

悪ぃなサンジ、作戦は実行前から失敗確定だ。

心の中で舌打ちしつつ、ゾロのハンカチをじっと見つめている少女を見た。



 「・・・・・」

 「・・・あ、ごめんなさい!」



はっと気付いた少女は、頬を染めてゾロの顔を見上げた。
こんなに間近で少女の顔を見たことはなかったので、思わずゾロも顔を赤らめる。



 「あの、ハンカチが」

 「・・・ハンカチ?」

 「あの・・・」



少女はそう言って、クスクスと笑いながらバッグを腕にかけなおして何かを取り出した。



 「ね?」



少女は出したのは、ハンカチだった。

淡い、緑の。



 「逆だな、と思って」



そう言って少女は、自分の髪の毛先に触れながらゾロの髪を見た。

ふふ、と楽しそうに笑う少女を見て、ゾロも思わず頬を緩める。




 「本当だな」

 「ね」



目と目を合わせて、お互いクスクスと笑う。



 「・・・私、イースト第一高校の1年だけど、あなたも1年?」

 「あぁ」

 「やっぱり、制服新しいもん」



クイズに正解したあとのような得意げな顔で、少女はまた笑った。



 「・・・毎日、このバス?」

 「あぁ・・・」

 「明日も?」

 「・・・あー、あぁ」




顔が赤いのが相手にバレているのはもう確実だろうが、それでも誤魔化すように正面を向いてゾロは答えた。

少女は嬉しそうに笑ってから、ゾロと同じように正面を向く。



それからバスが来るまでの数分間、会話は無かった。

だがそれでもゾロにとってはかなりの進展だった。




明日も二人はきっと、このバスに乗るだろう。

明日も二人はきっと、こうして隣同士に並ぶだろう。



だが少なくとも、明日はおれから話しかけなければいけない。
そうでなきゃ男がすたるってモンだ。


ゾロはこっそりと心の中で決意しつつ、バスが当分来なけりゃいいのになどと考えていた。




とりあえず、学校に着いたらサンジに報告だ。

お前の作戦、ベタだけどアリだな、てな。





2006/09/24 UP

70507キリリク。
ゲッターはAKARIサマでしたv
リクは、『仲良しサンジ&ゾロ(+ナミ)で学生パラレル』

何か・・・こう、もっとゾロとサンジを仲良しにさせたかったのですが。
無念。
ゾロ→ナミ色のが強くなってしまいました。

サンジくんの作戦をちゃんと実行しようとする律儀なゾロ。
ゾロはハンカチを持ち歩かない子です。
ズボンで拭いちゃうヨゴレです(酷)。
部活とか体育の後の汗はタオルで拭くからイイんだよ!!

ナミさんもゾロに一目惚れしてた、というね。そういうオチでね。
うん、ひとつヨロシク!

まぁそんな感じで、AKARIさんに捧げますv
・・・クーリングオフは適用されません(笑)。

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