案。






 「ねぇゾロ、そろそろ次の島だけど、着いたら街に出るでしょ?」

 「・・・あー・・・・面倒くせぇな、船番でいい」



ナミのベッドの上で、ゾロはシャツを着ながらそう答えた。

その返事に、シーツにくるまって寝転んでいたナミはガバリと起き上がる。



 「・・・・なんで」

 「何でって、・・・別に街ですることもねぇだろ」

 「・・・・・・・・・・バカゾロ!!! もういい!!!」

 「何怒ってんだよ・・・・」

 「うるさい!! さっさと出てけ!!」



着替え終わったゾロに向かって枕を投げつける。
ゾロがブツブツ言いながら部屋を出て行く足音を聞きながら、ナミはシーツに頭まで潜り込んだ。





数日後には島に着く。
ナミはちゃんと計算して、『その日』に着くようにしたのだ。

一緒に、街に出たかったから。
いつも船の上で、上陸しても2人でいられることは滅多になかった。
だけど、その日だけは一緒に居たかったから、2人で居たかったから。

だから図々しいとは思ったけど、針路も速度もきっちり調整して、
ちゃんと『その日』に上陸できるように。




『その日』は、7月3日。



















翌日、朝食の席でナミはどす黒い影を漂わせていた

いつもならばそんなナミを宥めるのも、八つ当たりの役になるのもゾロだった。
不機嫌の原因がゾロであろうとなかろうと。

だが今回は、ナミはゾロを完璧に無視していた。
そのためおそらく原因はゾロなのだろうが、ゾロが話しかけてもナミは何の反応もしない。
こうも無視されてはゾロもどうすることもできず、結局そんなナミの態度にゾロもキレた。
隣同士に座ってはいてもお互いがお互いを無視し、
他のクルーは2人の喧嘩のとばっちりを食う形で険悪な朝食の時間を過ごす羽目になっている。



 「ウソップ、そこのサラダ取ってくれ」

 「・・・ほ、ほらナミ、ゾロがサラダって・・・・」

 「・・・・・」

 「ウソップ」

 「・・・・・・ほらよ、ゾロ」



ナミの前に置いてあるサラダボウルから、ウソップは仕方なくサラダを取り分ける。
ナミを挟んでウソップは手を伸ばしてゾロにその皿を手渡した。
その間も、ナミは完璧無視。

クルーはその様子に溜息をつくしかなかった。




















 「だってゾロ、私の誕生日忘れてるんだもん」



午後になり、お茶をしながらロビンがナミに不機嫌の理由を聞いたところ、
ナミは口を尖らせてそう答えた。



 「そんなはずないと思うけど・・・・?」

 「明日島に着くのに・・・・それなのに街には出ないって」

 「・・・・お金が無いんじゃないのかしら」

 「知らないわよそんなの。私はただ一緒に歩きたかっただけなのに・・・・・」



ナミはアイスティーのグラスをテーブルに置いて、俯く。
ロビンはその様子を見つめながら、優しくナミに問いかける。



 「別に街に出なくてもいいんじゃない?」

 「ロビンまで・・・・だって、誕生日なのに!」

 「貴女は、剣士さんと2人で居たいんでしょ?」

 「・・・・・うん」



ロビンがにっこり微笑んで言うと、ナミはうっすら頬を染め小さく答えた。
可愛らしいその姿にロビンも口元を緩める。



 「明日は剣士さん、船番するのよね?」

 「そう言ってた」

 「じゃあ、他の人はみんな下りるのよね?」

 「そりゃ、ゾロが船番するなら、・・・・みん、な・・・・・・・・・」



ナミの語尾がだんだんと小さくなっていく。
ロビンはふふっと笑って椅子から立ち上がる。



 「剣士さん、少し言葉が足りないようね」




去っていくロビンに気付きもせず、ナミは口元を押さえて固まっていた。



















翌日、メリー号は少し遅れて夕刻に島に着いた。
上陸準備をするクルーたちを、ゾロは遠巻きに見つめていた。



 「じゃあこれ、お小遣いね。門限は明日の朝10時よ。買出し組はしっかり値切ってね!」

 「はーいナミさんvvv 1日遅れになるけど、あなたのために最高の食材をゲットしてきます〜vvv」

 「ありがとサンジくんv」



普通ならサンジは必死になって、誕生日当日にナミの誕生日を祝おうとするだろうが、
何故か今回は妙に素直に船から下りて行った。
それを不思議に思いながらも特に気にはせず、ナミは船首から皆を見送っていた。







 「ナミ」



喧嘩した日から結局一度もまともに口をきかないままだったゾロは、
船首への階段を上ったところで手すりにもたれ、ナミに声をかけた。



 「・・・・なに?」

 「・・・・お前、下りねぇよな?」

 「・・・・残るわよ」

 「そうか」



ナミの答えに、ゾロは少し安心したような顔をする。
それをじっと見つめるナミは、少しずつゾロに近づきながら問いかける。



 「ねぇゾロ」

 「何だ」

 「・・・最初から、船に2人で残るつもりだったの?」

 「・・・・・・金が無くなっちまってな」



決まり悪そうに顔を背けて呟いたゾロを見て、ナミはふふっと笑った。



 「言葉足りなさすぎよ、あんた!」



ゾロも、自分と2人で居たいと思っていてくれた。
今日この日に、自分の傍に居たいと思っていてくれた。
ナミは嬉しくなってそのままゾロに飛びついた。



 「何だよお前、急に機嫌よくなりやがって・・・」

 「気にしない気にしない!」




ゴロゴロと猫のように擦り寄ってくるナミの頭を片手で撫でながら、ゾロはガリガリと頭を掻く。





 「あのなぁナミ」

 「何?」

 「おれはな・・・そっちが思ってるより、お前のこと気に入ってんだぜ」

 「・・・・・・・」



心持ち頬を染めながらそう呟くゾロを見上げ、一瞬呆けたナミはクスクスと笑い出す。




 「じゃあ、どのくらい好き?」

 「・・・・・・」



悪戯っ子のような顔でナミがそう問いかけると、ゾロはしばらく無言でいたが、
クルリと向きを変え手すりに両腕を乗せ海面を見下ろす。
ナミもつられて海を見下ろすが、別に何もない。
首をかしげてゾロを見ると、ゾロは右の人差し指を下向きに立てていた。



 「・・・・・海?」

 「の底から」



ゾロはその指を今度は上向きに立て、顎をしゃくって空を示した。



 「まで、ぐれぇかな。例えるなら」

 「・・・・・空島?」

 「・・・もっと上」

 「・・・・・もっと上って、何があるのよ」

 「さぁ、知らね。行ったことねぇからな」



そう言ってゾロは肩をすくめる。



 「・・・・・ずーーーっと続いてたらどうするの?」

 「それならそれでいい。問題無ぇ」

 「・・・・・」




はっきり口にするわけではない、それでもゾロにしてみれば最大限の愛の告白であった。





 「ゾロ・・・・」

 「・・・・とりあえず、キッチンに行こうぜ」



見つめられたゾロは、照れ隠しからか誤魔化すようにナミをキッチンに促した。



 「コックが夕食用意してる」

 「夕食? そっか、ちょっと早いけどもう食べる?」

 「あぁ」

 「でも私の分あるかな? 船に残るってサンジくんに言ってないけど・・・・」

 「ある」











2人がキッチンに入ると、テーブルの上には簡単ながら既に2人分の夕食が準備されていた。
バスケットに大量のパンも入っており、コンロには2,3の鍋が並んでいる。

首をかしげるナミに、ゾロは思わず口許を緩める。



 「スープあっためるか・・・・まだ冷めちゃいねぇだろうけど」

 「サンジくん、何でこんな準備いいの? それともこれって1人分?」

 「いや、おれが前に言っといたからな」

 「前?」

 「あー、いや。何でもねぇ」



スープを皿に取りながら呟いたゾロの言葉に、ナミはさらに首をかしげる。






テーブルの中央には、アートキャンドルが4つ並んでいた。
ナミは近づいていって、それを覗き込む。



 「これって・・・・手作り?」

 「あぁ、ルフィたちがパーティー用に作ってた。
  本当は明日の宴会で使う予定だったみてぇだが、何個か置いてってくれた」



ゾロはマッチを取り出し、それに火を点けた。
薄暗くなりつつあったキッチンが、4つのキャンドルの灯でぼんやりと明るくなる。



 「素敵ね・・・」



このキレイに出来てるのが、ウソップとロビンだろう。
オレンジ色のろうに、小さな花びらが数枚貼り付けてあるのがロビン。
ものすごく細かい花びらを象ってはいるものの、芯が誰かさんの鼻みたく長いのがウソップ。
歪な形のは、きっとルフィとチョッパー。
キャンドルにしては大きすぎる、ガラス瓶に溶かしただけのようなのがルフィ、
卵型を作りたかったのだろうけど何となく歪んでる、けど小さくてかわいいのがチョッパー。

色々と想像したナミは、キャンドルの明かりを見つめながら微笑んだ。







 「とりあえず、飲むか」

 「うん」



スープやらの準備を終えたゾロは、ワインラックから1本取り出してきた。



 「ゾロ、勝手に取っていいの? それ結構高級じゃない」

 「いいんだよ、了承済だ」

 「・・・・ふーん、ならいいけど・・・?」



ゾロはワインのコルクを歯で抜き、吐き出す。
既に席についていたナミの正面に座り、2人分のグラスに注いでから1つをナミに差し出した。
ナミがそれを受け取ってから、ゾロはその手でズボンのポケットを探り始める。



 「ほら」

 「・・・・なに?」

 「・・・・」



続いて差し出された小さな箱を、ナミはグラスをテーブルに置いて慌てて受け取った。




 「・・・・・」



まさか、と思いながら、ナミはその白い箱を開けた。





中にはまた箱がありそれを開けると、そこには小さな指輪がおさまっていた。

オレンジ色の石がついた、細い銀の指輪。




 「・・・・・・こんなの、いつの間に・・・」

 「前の島」



ナミが手の中の箱を呆然と見下ろして呟くと、ゾロは素っ気無く答えた。
気恥ずかしいのか、ナミから顔を背けていた。



 「前の島・・・って、1ヶ月くらい前じゃないの」

 「そうだな。サイズは一応ロビンに確認したが、合うかどうか分かんねぇぞ」





だから、お金が無いんだ。
だから、船に2人で残ることにして、サンジくんに頼んでまでこんな準備をしてくれたんだ。

1ヶ月も前から、ゾロは自分の誕生日のことを考えていてくれた。


ナミは箱を両手で包み込むようにして、胸に押し当てて俯いた。




 「・・・・・・・ごめんね、ゾロ」

 「・・・・何でお前が謝るんだよ・・・・まさかソレ気に入らねぇか?」



ナミはフルフルと首を振った。



 「ゾロはこんなにしてくれてたのに、私、勝手に怒って」

 「・・・・気にすんな、金が足りねぇから結局船に残ることになったしな。お前は街に出たかったんだろ?」

 「ゾロと2人ならどこでもいいよ・・・」

 「・・・・そうか」

 「最高だわ」



顔を上げたナミは、幸せそうに微笑んだ。
涙混じりのその笑顔を見て、ゾロも優しい顔をナミに返す。





 「・・・・誕生日おめでとう、ナミ」

 「・・・ありがとう・・・!!!!」




















 「ロビンちゃーん、どう?」

 「・・・・えぇ、上手く行ったみたいよ。航海士さん、嬉しくて泣いちゃったわ」



交差させていた両手を解いて、ロビンはサンジに言った。
港から離れた通りの途中で、サンジは壁に寄りかかって煙草の煙を吐いた。



 「まったくマリモの分際で、生意気な真似しやがって・・・・」

 「コックさんはやっぱり優しいわね、あんなに準備してあげて」

 「そりゃね・・・あの寝腐れ剣士がおれに頼みごとするなんて、滅多に無ぇから・・・。
  それに愛しのナミさんの笑顔のためなら!!!」



苦笑したサンジは次の瞬間には目をハートにして体をくねらせる。
それを見て、ロビンは再び手を交差させる。



 「ところで・・・・夕食はまだまだ先になりそうよ、あの2人」

 「・・・・・あ、そうですか・・・・・」



ロビンに楽しそうにそう言われ、サンジはガックリと肩を落としてうなだれるのであった・・・・・・・。





2006/07/03 UP

こむぎさん(麦わらクラブ)のナミ誕企画『LOVE+GIRL』へ投稿させていただきました!
テーマは『笑顔』。
とりあえず笑かす前に泣かせとけ、と精神で。
思いのほか甘々になってしまいました。

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