実。








 「ねぇ、みんな」




いつもと同じ騒がしい夕食の時間、
よく通る声でナミは言った。






 「私、妊娠したの」







クルーたちの動きが止まり、キッチンはしんと静まり返る。



 「だから、船を下りるわ」



ナミは微笑んで、そう言った。













 「・・・な、何言ってんだよナミさん・・・下りるなんてそんな!!」

 「そうだよ、冗談やめろよな・・・ え? 妊娠は本当か?」

 「ナ、ナミ! おれ、お産手伝ったことあるぞ! だから船の上でも大丈夫だよ!!」



クルーたちが好き勝手に口を開いて、立ち上がりナミに詰め寄る。
ナミは慌てて両手を振って皆を制する。



 「違うの、単に私が陸で・・・ココヤシ村で産みたいだけ」

 「ココヤシ村・・・」



ナミの言葉を聞いてサンジたちは思わず口を噤み、静かに椅子に腰を落とした。



 「ごめんね、我儘言って」

 「・・・ルフィ、てめぇも何か言えよ」

 「・・・・・・」



サンジは無意識に新しい煙草に火を点けようとして、慌ててそれを消した。
ルフィは何も言わず、骨付き肉を頬張ったままナミを見ていた。



 「ルフィにはさっき言ったの。お前が決めたんなら、分かったって言ってくれた」

 「ナミさん・・・本気なんですか・・・」

 「なぁナミ、それならせめてこの船でココヤシ村まで・・・」



ウソップの言葉に、ナミは緩く首を振った。



 「港にね、ココヤシ村にも来てた商船が止まってるの。
  イースト・ブルーに戻るって言うから、乗せてもらうように話はつけたわ」

 「・・・もう、決めたんですね・・・」

 「えぇ」



ナミの瞳はまっすぐにクルーたちを見つめた。
いつだって強くいつだって美しい彼女は、きっとその意志を変えることはないだろう。
クルーたちは言葉もなく、ただナミを見返すしかできなかった。



 「おいゾロ、お前はいいのかよそれで・・・」

 「・・・・・・」



ウソップが、隣のゾロにボソリと呟く。
ゾロは返事をせず、腕を組んでただナミを睨むように見つめていた。



 「・・・言わなくてごめんね、ゾロ。でももう決めたの」

 「・・・・・・」

 「・・・ゾロも知らなかったのか・・・?」



意外、という顔でクルーたちはナミとゾロの顔を交互に見た。
ナミは困ったように笑って、ゾロは小さく舌打ちをしてキッチンから出て行った。






 「・・・ナミ、何でゾロに言ってなかったんだよ」

 「言ったって・・・困るだけでしょ。私が船を下りるのは変わらないけど、ゾロは・・・」



ゾロは、こんなことじゃ船を下りない。
夢のために、約束のために、ここで船を下りるわけにはいかない。

ナミは肩をすくませて笑った。



 「もう、明日には出るから」

 「明日!? そんな急に!!?」

 「ごめんね、あっちの船の予定に合わせたらそうなっちゃって」

 「そんな・・・・」



ショックを隠せないクルーたちの顔を見て、ナミは声を張って言った。



 「これでお別れじゃないわよ、みんな!
  私の夢は世界地図を描くこと! 子供が産まれたあとだって、それは変わらないわ。
  子連れでまた、グランドラインに入ってやるわよ!」



ふふ、と楽しそうに笑ってナミは皆の顔を見渡す。



 「だから、また後で逢いましょう?」

 「ナミさん・・・」

 「ナミ・・・」










その夜は、大宴会になった。

みんな笑っていた。
お互い、見ていて辛くなるような笑顔ばかりだった。
それでもナミの妊娠と、そして新たな道を祝福するために、
笑顔で過ごした。

夜が明けるまで、皆でキッチンで過ごした。
誰も部屋に戻ろうとはしなかった。
皆、ナミと一緒になってキッチンで眠った。

ゾロだけは、一人見張り台の上から降りてこようとしなかった。









昼前になって、ナミが女部屋から荷物を出しているとルフィが近づいてきた。



 「ルフィ・・・」

 「ゾロは、いいのか」

 「・・・うん、いいの」



ナミは荷造りの手を止め、ルフィと向き合う。
いつになく真剣なルフィの目は、まっすぐにナミに刺さる。



 「一人で平気か」

 「一人じゃないわ。村にはノジコも、ゲンさんもみんないる」

 「・・・そっか、そうだよな」



ルフィはへへっと笑って、麦わらをかぶりなおす。
その姿を、ナミは眩しそうに見つめた。



 「ごめんね」

 「・・・謝んなよ、また戻ってくんだろ」

 「えぇ」

 「ちゃんとゾロと話せよ」

 「・・・うん」




















粗方の荷造りを終え、メリーの首を撫でながらお別れを言っていると、
背後から聞き慣れた足音が耳に届く。



 「ナミ」

 「ゾロ・・・」

 「・・・おれは・・・」

 「いいのよ」



振り返って、戸惑いを隠せないゾロの表情を見て笑ってみせる。
それを見たゾロの足が、少し離れたところで止まる。



 「いいの、ゾロ。 一緒に来てなんて言わない。
  あんたの夢を止められるほど、私は立派な人間じゃないもん」




あんたと離れるのは哀しい。
でも私ね。



 「楽しみなの」

 「・・・何が?」

 「いつか私の元に、私とこの子の元に」



微笑みながら、自分の腹にそっと手を添える。



 「世界一の大剣豪、ロロノア・ゾロの名が届くのかと思うと・・・楽しみで仕方ないのよ」



隣でそれを見届けると、思っていたけど。



 「ナミ・・・」



遠慮がちに伸ばされたゾロの手を取って、頬を寄せた。



 「たとえ離れても、ゾロが前を向いて走っててくれれば、必ず私のところに・・・ゾロの声が届くから」

 「ナミ」



ゾロの暖かさを忘れない。
ゾロの声を忘れない。

ゾロの手が、流れ落ちる涙で濡れる。



きっとまた、逢えるから。




だけど、離れても変わらぬ想いなど、本当にあるのかしら。

私はきっと、それを確かめたいんだ。




ねぇゾロ。

私が男だったら、あんたと死ぬまでどこまでも一緒に行けたのかしら。
女でなければ、あんたの親友として、いつも傍に居られたのかしら。

時々、そんなことを思ってた。


でもね。

今、女に生まれてよかったと、私は心から思ってる。


無茶なことばかりして、
人に血を流させて、
そうして今まで生きてきた私が、愛する人の子供を産む。

願わなかった、願えなかった夢が叶う。



ねぇゾロ。

あんたとはもう、逢えないかもしれない。
あんたと共に在るという願いはもう、叶わないかもしれない。

それでも、私は、

女に生まれて

あんたに逢えて

よかったと、心から。





















荷物を商船に運び終えたナミは、はしごから一人、港に下りた。

クルーたちは船首から体を投げ出すように、その様子を見つめていた。



 「元気でな、ナミ!!」

 「絶対にココヤシ村行くからな!!」

 「ナミさーん!! ゴハンちゃんと食べるんだよーー!!」

 「ちょっとでも体調悪くなったら、すぐ医者に言うんだぞーー!!」



口々に叫びながら手をブンブンと振るクルーたちを、ナミはクスクス笑って見上げていた。



 「それじゃあね!! みんな!!!」



ナミは最後に満面の笑みでそう叫んで、クルリとメリー号に背を向けて歩き出した。




途端に涙が溢れる。

皆の声がまだ聞こえる。


だた、ゾロの声は聞こえない。
それでも、視線は感じてる。


ばいばい、みんな。

いつかまた、逢えたらいいね。




 「おい、ゾロ!?」


クルーの誰かがそう叫ぶのが聞こえて、思わずナミは振り返った。

その目に飛び込んできたのは、こっちに向かって走ってくるゾロの姿。


呆然とするナミは、そのままゾロに抱きしめられた。



 「ナミ・・・!!」

 「・・・・・・変に、期待をさせないで・・・」



耐え切れなくなった涙が次々と溢れてきて、ゾロの首筋やシャツを濡らしていく。



 「必ず、迎えに行く」

 「・・・ゾロ・・・」



ゾロはそう言って、さらに強くナミを抱きしめる。
ナミもゾロの首に腕を回して、しがみつく。



 「おれの女は、お前だけだ」

 「・・・私だって、あんただけよ」

 「だから、待ってろ」

 「・・・迷子剣士にはあんまり期待せずに、待ってるわ」

 「期待しとけ、バカ」










離れていても変わらぬ想い。
そんなもの、あるに決まってる。

だって今の私の気持ちは、変わらない。
今もこれからも、ずっと。



ゾロも同じだと自惚れることが、夢だとしても構わない。


だって私は海賊だから。



海賊は、夢を見るものでしょう?





2006/08/21 UP

『ナミに子供ができる(ゾロナミ、原作ベース)』
6/23にリクくれた美帆さん、こんなノリで・・・ダメ?
シリアスになっちゃったよ(他人事か)。

続きのオマケがあります。
気休め程度に・・・→

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