義。





 「あ、お母さん、今日私夕食いらないから」

 「あらそうなの?」

 「ナミ、どこ行くんだよ」

 「ん? 合コンよ」

 「・・・・・・」







ゾロの父親・ミホークと、ナミの母親・ベルメールが再婚したのは去年の春。


受験生になったゾロと大学に進学したばかりだったナミは、それぞれ唐突にお互いを紹介された。

ミホークとベルメールも子供たちが上手くやっていけるかを多少は心配していた。
だが自分たちの子供だ、という妙な自信があったし、事実ナミたちは上手くやってきた。
最初こそは戸惑っていたが、既に人に気を遣える年齢だったこともあったし、
新しい家族4人でなかなか平和な生活を過ごせている。



ナミは昔から弟が欲しかった。
物心つく前に父親を亡くしたため、母が再婚でもしないかぎりはその希望は叶いようがないので、
ミホークとの再婚には大賛成だった。
いきなりこんな大きな弟ができるとは思っていなかったが。


中学生というわりには大人びた、でも時折子供らしい表情を見せる義弟。
初めて会ったときは警戒心丸出しだったが、一緒に暮らし始めて1ヶ月経つ頃には大分打ち解けてきた。

小学生の頃から剣道を習っていて、全国でもそれなりのところまで進むほどの実力だ。
頭も良く、第一志望どおりのかなりハイレベルな高校に通っている。
顔も悪くないので、ナミにとっては出会ったときから『友人に自慢できる弟』であった。




一方ゾロは、顔にこそ出さなかったが内心かなり動揺していた。
いきなり再婚すると言われ、いきなり自分と年の近い女を『姉』だと紹介される。
心の準備も何もあったもんじゃない。
だが数年前に母親を病気で亡くして以来、元気の無かった父親が幸せそうに笑っている。
反対などできるわけはなかった。
問題は、ゾロが感じた戸惑いが、『新しい家族』へのモノではなく、『ナミ』という一人の女へのモノだったことだ。


紹介を兼ねた食事会で、ゾロは初めてナミを見た。

オレンジ色の髪の女は、白いワンピースを着て現れた。

玄関に出迎えに来たナミは、ゾロとミホークの前に立つとペコリと頭を下げた。
ふわりと甘い匂いが漂ってきて、ゾロは思わず1歩後ずさってしまった。
男2人の生活にはありえない香りだった。
それからベルメールが現れて、2人を中に招き入れた。
ミホークは彼女と嬉しそうに話をしていて、それを見てゾロは苦笑した。
父親のあんな顔は久しぶりに見た。
それから、ナミもその2人を見ていることに気付いた。
頬を染めて、自分のことのように嬉しそうに。
ゾロの視線に気付いたナミは、にこりと微笑んでから母たちの後を追った。

ゾロはその笑顔を見て、父親に呼ばれるまで動けなかった。

大きな瞳に長い睫毛。
うっすらピンクに染まった頬と、濃い化粧をしているわけでもないのに、こちらもピンクの唇。
ワンピースから伸びた白い手足も眩しかったが、この笑顔はかなりヤバイ。

自分に向けられたその笑顔に、ゾロはこれからの生活に一人嵐の予感を感じていた。














合コンに行く、と今朝言ったナミは、授業が終ってからいったん家に戻ってきた。
既に帰ってきていたゾロは部屋から出てきて、隣の自分の部屋に行こうとするナミを呼び止める。



 「ナミ、勉強教えてよ」

 「あら珍しい、どうしたのゾロ?」

 「テスト前」

 「あ、そっかー。でもゴメン、今から出かけなきゃ・・・」

 「・・・」

 「・・・もう、しょうがないわね」




ナミが自分に甘いことを、ゾロは知っていた。
すがるような目で見れば、大抵ナミはゾロの言うことを聞いてくれる。
困った顔をしたナミは、バッグから携帯を取り出して友人に電話を始めた。



 「あ、もしもし? ごめん、今日キャンセルしてもいい? 急に用事が―――」



ナミが欠席の電話を入れるのを、ゾロは黙って見ていた。
パチンと携帯を閉じて、ナミはゾロに向き直る。



 「全く世話のやける子ね。 で、どこでする?あんたの部屋?」

 「どこでも」

 「じゃあゾロの部屋でしよっか」



そう言って笑って、ナミはゾロの部屋に入る。








それから1時間ほど、テーブルに教科書を広げて真面目に数学の勉強をした。
キリのいいところで問題集を閉じて、ゾロの隣に座っていたナミはうーんと伸びをする。



 「お母さんたち遅いわね」

 「あ、今日2人でメシ食ってくるってさ」

 「え!? 早く言いなさいよ! じゃあ夕食私が作んないといけないじゃない!」

 「うん」

 「もう・・・今から作ったら時間かかるわよ・・・簡単なのでいい?」

 「うん」



ナミが立ち上がろうとすると、足元に置いていた携帯が震えた。
開いて、ナミは苦笑する。



 「どうした?」

 「ん? 今日の友達。来週はキャンセル禁止よ!だって」

 「・・・来週も合コンなのか?」

 「うん、乗り気じゃないけど、メンツ足りないって泣きつかれて」



携帯の画面を見ながら返信しようとしていたナミは、ゾロの表情に気付かなかった。

眉間に皺を寄せて、ゾロはぎゅっと拳を握る。





 「・・・なよ」

 「え?」



ナミは顔を上げて、ゾロを見た。
携帯のボタンを押すナミの手を、ゾロは乱暴に掴んで止めた。



 「ゾ、ゾロ?」



あまりに強く握られて、顔をしかめたナミの手から携帯がゴトっと落ちる。
ゾロはナミを睨むように見つめ、低く呟いた。



 「行くなよ」

 「ゾロ、どうしたのよ急に・・・」

 「合コンなんて、そんなモン行くな!!」



ゾロはナミの両手首を掴んで、勢いのまま床に押し倒した。



必死な顔で見下ろすゾロを、ナミは唖然と見つめ返す。



 「・・・ゾロ、痛いよ」

 「・・・・・・あ、・・・ごめん」



痕が付くほど強くナミの細い手首を握り締めていたゾロは、
はっと気付いたように慌てて手を離し、ナミの上から体を戻した。

ゾロはナミに背を向けてあぐらをかき、俯く。
ナミも手首をさすりながら起き上がり、スカートの裾を正した。



 「・・・・・・私、晩御飯作ってくるから、・・・あとで呼ぶからね」

 「・・・うん」



そう言ってナミは立ち上がりゾロの部屋から出て、静かに扉を閉じた。
そのまま扉に背もたれてズルズルとしゃがみこむ。



びっくりした。
あんな男の顔をしたゾロを、初めて見た。

・・・そうじゃない、自分が気付かないようにしてただけだ。



自分を見るゾロの視線に、ナミは気付いていた。
だがゾロの方も、自分たちは姉弟だという意識があったためか、
先程のような行動に出ることはなかった。
それでも視線はいつも感じてた。

自分のことを女として見ているゾロ。

じゃあ、私は?

ナミは自問して、真っ赤になった頬を両手で覆って、膝に額を押し当てて俯く。


どうして友達にゾロの自慢ばかりするの?
どうしてゾロに、合コンの話をしたの?

押し倒されたのに、どうして嫌な気持ちにならなかったの?



火照る頬を引っぱりながらうんうんと唸るナミが、腹を減らしたゾロに扉をぶつけられるのはそれから1時間してからだった。




2006/08/18 UP

『義姉弟ナミ&ゾロ、ゾロの必死なアプローチに最後はナミも?』
6/22にリクくれたひらりんサン、中途半端に終わらせてごめんなさい・・・!!

ゾロをちょっとカワイイ子にしてみました(返事は『うん』で)。
基本的には仲良し姉弟。
ゾロは一人で悶々してます。
尻切れとか言うな、分かってる・・・。
え? 続き? うーむ・・・・?

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