進。






ネオン輝く夜の街。
普通のマジメな人間ならばあまり足を運ぶ事は無い、華やかな世界。
そこへ私は重ねて足を運ぶ。


恋人が働く、いわゆるホストクラブへ。











その店の人気ホスト、ロロノア・ゾロ。

私の恋人であるその男は、どう贔屓目に見てもホストなんてガラじゃない。
小さいときからいつも一緒にいたのだ。
私が一番よく分かってる。
それでも、ゾロがそこで働くのを私は止めることはできない。


彼には、夢があるから。




ゾロの夢は、カメラマン。

小学生の頃だったか、ゾロが初めて両親に買ってもらったカメラで写したモノは、私だった。
きょとんとした顔で少しボケたその写真は、今も私の部屋に飾ってある。

ゾロはいろんなものを写真に撮った。
空や草、電線や車。野良猫や鳥たち。

ゾロが撮る写真が私は大好きで、現像されたその写真をゾロはよく私にくれた。


自然の、というかある意味当然の成り行きで高校の頃から付き合い始めて、
それからゾロのカメラに写る人間は、私だけになった。




写真を職業にしたいのかは、私にはまだ分からない。
だけど大学4年のときに、ゾロは写真の勉強をするために外国に留学することを決めた。

ゾロは学費も生活費も全部自分で出していた。
両親から勘当されているというわけではないが、そういう方針らしいから仕方ない。

留学資金も、当然自分で用意しなくてはならない。
手っ取り早く資金を貯めるために、ゾロはホストのバイトを始めた。
高校時代の友人が勤めている店が急募していたので、そこにもぐりこんだのだ。

元々顔とスタイルは、ホストとしては充分だった。
問題は性格で。
人間嫌いなわけではないが、男だろうと親しい間柄にでもならないかぎりは打ち解けてはくれない。
無口で、無愛想で、口も悪い。

そんな男が、ホストのバイト。

だが、人生何が幸いするか分からない。
どう考えても客商売には向いていないその性格とストイックさを匂わす立ち振る舞いが、
逆に現代の女性の心を掴んでしまったらしい。
ナンバー1にこそならないが、常にナンバー2か3の人気を確保していた。

(ちなみにナンバー1は、ゾロを誘った友人、金髪碧眼の『女性命!!』な男である)





大学卒業後も、ゾロはホストの仕事をそのまま続けた。
別にハマってしまったわけではなく、単にお金の問題。
もう1年やる、と私に言って、
もうすぐその『1年』が経つ。

貯金がどれほどになったのか知らないけど、他にお金を使っているのを見たことはないので、
留学費用も滞在費も、充分に貯まっているはずだ。


ホストの仕事をやめる、つまりゾロが他の女の隣に座ることがなくなるのは嬉しい。
でもそれは、ゾロが遠くへ行ってしまうことを意味する。














胸中複雑なまま、私はこの日も店に行った。

もちろん、客として行く。
ゾロを指名することもあるし、忙しそうなときは他の人を指名する。

みんな私がゾロの彼女だと知っているので、
客として、というよりは友人の彼女として若干砕けて接してくれる。




今日は、ゾロが他のテーブルに付いていたので、私にはサンジくん ―― 金髪碧眼のナンバー1 ―― が付いてくれた。




 「いらっしゃいナミさんv 今日もお綺麗で!」

 「ありがとうサンジくんv ・・・ゾロ、今日も忙しい?」

 「あぁ、あそこのレディが・・・・」



そう言って、サンジくんはゾロのテーブルをチラリと見ながら苦笑した。



 「いいお客さんなんだけどね、ゾロにご執心で離してくれないんだよ」



見たところ年齢はかなりイってそうだがスタイルは抜群の女性が、
ゾロの肩に手をまわして豪快にドンペリを開けていた。

ゾロは相変わらずの無愛想な顔で、それでも一応は女性の話に軽く相槌をうっているようだった。



 「あんな態度で、よく客が付くわよねぇ本当・・・・」

 「あれがイイんだってさ。 頃合見て声かけるから、ゾロこっちに来さすよ」

 「うん、ムリはしなくていいから。 ありがとね」














 「お前なぁ、店に来んなって何回言ったら分かるんだよ」

 「いいじゃない、ホストゾロの格好って面白いんだもん」

 「あとで店の連中に散々からかわれるんだぜ・・・」



他の客に聞こえないように、ヒソヒソと話す。

先程の女性はゾロが逃げたことに不満そうだったが、そこはナンバー1、サンジくんが上手く相手をしていた。




 「だってゾロに逢いたかったのvv」

 「わざわざ来なくても、毎週逢ってんだろうが」



わざとらしく首をかしげて言うと、ゾロは呆れたように私の頭を軽く叩いた。

ふーっと息を吐いて私の隣に座る。
それでも一応は店の中、端から見れば『客とホスト』に見えるように、
私にお酒を作ってくれたりする。



 「フルーツとか頼もうか?」

 「ムリすんな」

 「ムリしてないわよ。たまに来る店でぐらい贅沢しなきゃ。それともゾロのツケにしてくれる?」

 「てめ・・・・」

 「冗談よ、冗談」




結局フルーツだけ頼んで、すぐさま運ばれてきた皿からオレンジを取る。



 「あ、美味しいjじゃない。意外と」

 「意外とって何だよ」

 「ゾロってば、お客さんといっつもこんな美味しいオレンジ食べてるのーー」

 「食わねぇよ、客が食う」

 「ふーん、あ、お酒何か追加しよっか? ドンペリとか頼んじゃう?」

 「おい・・・」



笑いながらまたフルーツ皿に手を伸ばす私の腕を、ゾロが取った。



 「・・・なに? ゾロも食べたいの?」

 「じゃなくて。 何だそのカラ元気は」



ゾロが私を睨む。
手にしたオレンジがポトリと皿に落ちた。



 「・・・・別に、普通に元気よ?」

 「ウソつけ。 そういや一昨日も妙に大人しかったな」

 「・・・ウソじゃないもん」

 「・・・・」


























 「おいサンジ、おれもうあがるわ」

 「はぁ!? これからだぞ!!?」



店の奥にサンジを引っぱっていって、ゾロはそう告げた。
客に聞こえる距離ではないが、2人とも一応声をひそめる。



 「ナミがちょっとヘンなんだ」



そう言われて、サンジは壁からひょいと顔をのぞかせて、ナミの居るテーブルに目をやる。

ナミは自分の手をテーブルの上で握り締め、ぎゅっと唇を噛んでいた。



 「・・・どうしたんだ? 喧嘩か?」

 「知らねぇ。 だからもうあがる」

 「・・・・・勝手にしろ、その代わり来週は姪一杯入ってもらうからな。オーナーにはおれから言っとく」

 「あぁ悪ぃ、じゃあな」

 「泣かすなよー」

 「うるせ」



サンジの肩をポンと叩いて、ゾロはナミの元に戻った。











2人で店を出て、駅までの道を行く。


ナミはゾロの少し後ろを歩いていた。
遅い時間なのに、この界隈の通りには人が溢れている。
気がつくとゾロとの距離が開いてしまっていた。

振り返ったゾロはナミの手を取って、繋いで歩いた。
それでもナミは無言だった。

ゾロははーーーっと溜息をついて、ビルの隙間の裏道に足を向けた。



 「・・・・ゾロ?」

 「ナミ、どうしたんだよ。 ちゃんと言え」



細い道でナミと向かい合い、手を繋いだままでゾロは優しく言った。
ナミは俯いていたが、しばらくしてポツリと呟いた。



 「・・・・・もうすぐ、1年でしょ」

 「何が」

 「ゾロ、ホストずっと続けるの?」



どこか必死な顔で、ナミは顔を上げた。
ゾロは片眉を上げて呆れたような顔をする。



 「あぁ? ンなわけねぇだろ、アレは金貯めるための・・・・あぁ、1年ってそれか」

 「もうすぐでしょ?」

 「だな・・・もう大分貯まったしな、そろそろか」



ゾロは空を見上げて呟いた。
それを見てナミはまたぎゅっと唇を噛んで、俯く。



 「・・・外国、行くの」

 「あぁ、行く」

 「・・・・・・・」



ナミは俯いたまま顔を上げようとしない。
ゾロと繋いだ手を力一杯握っている。



ゾロはその繋いだ手を持ち上げて、マッサージするようにナミの手をさする。



 「・・・・お前さ、結婚したら専業主婦になるっつってたよな」

 「・・・・うん」

 「別に日本じゃなくてもイイだろ?」

 「・・・・・・・・・え?」

 「だから、お前も来いよ」



思わずナミは顔を上げる。
目が合ったゾロは口端を上げて笑っていた。



 「2人分の金は貯まってんぜ? 結構頑張ったからな、おれ」

 「・・・・・・何よそれ、プロポーズなの?」

 「まぁ、そんな感じで」



ナミが唖然としていても、ゾロは平然とナミの手を揉んだり指を引っぱったりして遊んでいる。





 「・・・こんな場所で、急にそんなこと言うなんてズルいわ」

 「ズルいて、何が」

 「もっとムードとか」

 「うるせぇな、とにかく返事しろ」



段々とナミの目が潤んできて、笑顔になってくる。
ゾロは指をからめてナミの手を握り、引き寄せる。



 「・・・・私、英語とかそんなに得意じゃないけど」

 「勉強しろ、それに行きゃ慣れる」

 「・・・・なんか、すごい強制的じゃない?」

 「嫌なら断れ」

 「・・・嫌なわけないでしょ、バカ」




ナミは笑いながら、片方の手でゾロの胸をばんと叩いて、それから抱きついた。









 「確実に貧乏生活だけどな」

 「何とかなるわよ、よく言うでしょ?」

 「何て」

 「『愛があれば大丈夫』って」

 「・・・・お前の口からそんな殊勝な言葉が出るとはな・・・」

 「失礼ねっ!」



2006/08/03 UP

『ホストゾロとお客ナミ。幼馴染で恋人同士な設定、甘々で』
6/15にリクくれた方、いろいろゴメンナサイ。
どこがホストだと怒ってくれて構わない・・・・・orz

肝心のホスト場面が無いよmarikoさん!!
逃げたよこの人!!
むしろ『夢追いゾロ』だよこれじゃ!!

生誕'06/NOVEL/海賊TOP

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