瞬。






朝のHRの時間。

転校生だと担任に紹介されたオレンジ頭の女子は、
ナミです、と自己紹介したあと若干緊張した顔でペコリと頭を下げた。

それから顔を上げて微笑んだ、その姿にしばらく魅入ってしまったのは、

おれの生涯唯一の不覚。





     *********





 「クラス委員のビビです。よろしくね、ナミさん」

 「うん、よろしく!」



青い髪の少女の隣の席に腰を下ろした。
にっこりと優しい顔に、思わずほっとして笑顔を返す。



 「おれは幸せですナミすわぁんv また一人、このクラスに女神が増えるなんてぇっ!!」

 「え、え?」

 「サンジと申します、宜しければ私めに校内のご案内などさせてくださいませ!!」



突然机に駆け寄ってきた金髪の男子生徒に戸惑って、ビビに救いを求める。
ビビは苦笑しながらも、それに慣れた様子だった。



 「サンジさんったら・・・私がするからいいの!」

 「じゃあビビちゃんと一緒に3人で!」

 「あ、あの・・・・・」



さりげなく私の手を取って立ち上がらせようとするサンジという男子、
そしてそれを阻止しようとしているビビ。
挟まれてどうしたらいいのかと、2人の顔をオタオタと見るしかできなかった。

そうしたら、また背後に人の気配。





     *********





女たらしのサンジの野郎が、あの転校生に目をつけないはずがない。
案の定担任が教室から出て行った瞬間に、ナミの席に飛んで行った。

ナミはサンジの勢いに押され、若干引きつっている。
転校してきたばっかのヤツにあのノリが通じるわけがない。
おそらく当分はナミの防護壁になるであろうビビも、
久しぶりに新しいターゲットを見つけたサンジの勢いを止めるのは苦しそうだった。


しばらく見ていたが、サンジがナミの肩に馴れ馴れしく触れるのを見て、立ち上がる。





     *********





突然背後から現れた別の男子生徒。
振り返ると、無愛想で目つきの悪い顔と目があった。
思わず体をすくませる。
だがその男子は私の席の隣を通り過ぎ、そしてその間際にサンジくんの頭を思いっきり殴った。



 「ってぇなゾロ!! 何すんだよ!!」

 「気のせいだ」

 「気のせいって何だー!!!」



素っ気無く言い捨てて緑頭のゾロという男子は、そのままスタスタと教室から出て行った。
サンジくんも怒鳴りながらその後を追った。



 「・・・・えーと・・・・・」

 「ごめんねナミさん、ビックリしたでしょ?
  サンジさんっていつもあんな感じの人だから、あんまり気にしないでね」

 「う、うん、・・・あの目つきの悪・・・いやその、ゾロって人はサンジくんと仲悪いの?」

 「Mr.ブシドー?」



目つきの悪い、と言う部分にビビはクスクスと反応する。
どうやら誰が見ても『アレ』は悪いようだ。



 「ブシドー?」

 「うん、ロロノア・ゾロって言って、剣道部の主将なのよ。だからブシドー」

 「へぇ」

 「すごく強いの。次の大会では全国3連覇するだろうって言われてるわ」

 「そんなに強いんだ・・・・」



確かにそう言われると、確かに体つきもよかったし、
剣道とか居合いとかが似合いそうな・・・精悍な顔だった。
あの目つきの悪さも、眼光鋭い・と言えばなかなかだ。



 「あの2人は仲いいと思うけど・・・中学も一緒だし」

 「ふぅん・・・」




ぼんやりと出入り口を見つめる私を、ビビがニコニコと笑いながら見ているのに気付いて、
慌てて視線を外した。





     *********





 「おいゾロ、さっきの何だよ」

 「・・・・・・」



トイレで用を足すゾロの隣に立ち、サンジもモゾモゾと動く。



 「・・・・転校初日の女子にからむなよ、ビビってたじゃねぇか」

 「何だよその珍しい気遣いは・・・・・・・ははーん、さてはお前・・・」

 「・・・・何だよ」

 「惚れたな?」

 「・・・・・・・・・・」



ゾロはサンジには見向きもせず、用を済ませて手を洗う。
サンジは首だけを後ろに向けてニヤニヤと笑う。



 「へーー、ふーーーん、ほぉーーーーー」

 「何だその目は」

 「いやいや、お前も人の子だったかと・・・・」

 「どういう意味だよ」

 「まぁ頑張れや」

 「余計なお世話だ」



キュ、と水を止めたゾロは、サンジの傍まで戻りそのシャツの裾で手を拭いた。



 「ちょ、何しやがる!!」

 「小便長ぇなお前」

 「それこそ余計なお世話だ!!!」





     *********





サンジなんぞを待たずにさっさと教室に戻ると、
ナミが困ったような顔をして、ビビがそれに笑いかけていた。
”サンジ・ショック”の後遺症か?



 「私の貸すから、一緒に見ましょ?」

 「うん、ごめんね」

 「どうした、ビビ」



話しかけると、ビビは笑顔でこっちを見た。

この顔のせいで初対面の人間は大概おれにビビる。
現にナミのヤツは(転校初日で大人しいという可能性もあるが)なかなかこっちを向こうとはしない。
これが普通だ、特に女子の場合。
だがビビのヤツは、会ったしょっぱなから笑顔で話しかけてきたなかなかのヤツだ。
さすがは委員長。

その時の笑顔と変わらぬ顔で今日もビビはおれを見上げてくる。



 「ナミさんの数学の教科書がね、ウチで使ってるのと違ったの」

 「急な転校だったから揃えるの間に合わなくて・・・・」

 「・・・おれの貸してやるよ」

 「え?」



素っ気無く言うと、ナミも驚いた顔で見上げてきた。
デカイ目をさらにデカくして、おれの顔をじっと見る。


・・・落ち着け。



 「でもMr.ブシドーはどうするの?」

 「サボる」

 「え!? ダメよそんなの!」

 「今の範囲なら授業聞かなくても解る」

 「でも・・・」

 「見逃せ、委員長」



ニヤリと笑ってそう言うと、ビビは仕方ない、という風に苦笑する。
物分りがいいのも、コイツの長所だな。



自分の机から教科書を出し、ナミのところに戻ってそれで頭をポンと叩いた。



 「落書きナシ、綺麗なモンだぜ」

 「あ、ありがとう・・・!」



ナミは頭を押さえつつ、ぎこちなく礼を言ってきた。
若干顔が赤い。

・・・・・・だから落ち着けって、おれ。



そのままポケットに手を突っこんで、教室から出て行く。
扉のあたりで一部始終を見ていたらしいサンジが、間際にまたもニヤニヤとした目線を寄越してくる。

ムカついたので、また頭を殴っておいた。





     *********





ゾロから渡された教科書をじっと見下ろす。
本当に綺麗。
落書きも全然無い、というか書き込みも全く無いけど。



 「もう、Mr.ブシドーったら」

 「本当によかったのかしら・・・?」

 「いいわよナミさん、Mr.ブシドーは言い出したら聞かないから」

 「ねぇビビ、ゾロって頭いいの?」

 「えぇ、いつも学年の上位5人には入ってるわよ? 特に数学は毎回ほぼ満点ね・・・」



綺麗なままの数学の教科書を見下ろして呟く。



 「・・・すごいのね、文武両道ってヤツ?」

 「えぇ、・・・あのサボリ癖がなければね!」

 「あと愛想があればな」



困ったように笑いながらのビビのセリフに続いて、サンジくんが乱入してくる。



 「あら、Mr.ブシドーって愛想は確かに無いけど、とっても優しいわよ? ねぇナミさん?」



ビビに言われて、手の中の教科書をまた見つめる。
確かに・・・優しい、・・・かしら?



 「・・・まさかビビちゃんあいつに惚れてんのぉー!!??」

 「やーだ違います!! 何言ってんですかサンジさんったら!」



泣き出しそうなサンジくんの言葉を、ビビは笑いながら否定した。

何故だか、ちょっと胸がきゅうとなる。





     *********





1時間目が終わって、ビビに聞いてから屋上へと向かった。


気持ち程度の南京錠がぶらさがっていたが、鍵はかかっていない。
ゆっくりと扉を開けて、屋上に出る。

キョロキョロと見渡すと、寝転がっている男子の姿を発見。





 「・・・・ここがお気に入りなの?」

 「・・・・あぁ?」



傍に近寄って声をかけると、ゾロは片目を開けて見上げてきた。

その隣にストンと腰を下ろす。


ゾロは何だか不思議そうな、変な顔をしていた。
寝起きらしいその顔は、目つきの悪さがちょっと抜けて年相応な感じがした。


何で私は、転校初日でロクに会話もしていない男子の隣に、こうやって座ってるんだろう。



 「・・・おれがココって、よく解ったな」

 「ビビが教えてくれた」

 「あぁ、なるほど」

 「・・・教科書、ありがとう」

 「おぅ・・・・」




ゾロは欠伸をしながら体を起こした。
足を伸ばしたまま後手をついて、首をコキコキ鳴らしながら空を見上げる。



 「あーーだりぃ、次もサボるかな・・・」

 「ビビに怒られるわよ」

 「んーー」

 「・・・・ビビと、付き合ってるの?」

 「あー? ンなわけねぇだろ、腐れ縁だ」

 「ふぅん」



ゾロの視線を横に感じたけど、恥ずかしいので目を合わせないように前を向いていた。
いきなりあんな質問をして、変な女だと思われてるのかもしれない。



 「教科書、役に立ったか?」

 「うん、でも学年トップの恩恵には預かれなかったわ、綺麗すぎて」

 「ははっ! 教科書に書くのはキライなんでな」

 「進みが前の学校より早いみたい」

 「・・・まぁ、解んねぇトコあったら教えてやるよ」

 「・・・・本当に?」

 「あぁ、おれでよけりゃな」

 「じゃあ、お願いする!」

 「おぅ」



笑いかけると、ゾロも笑ってくれた。
思いのほか、笑顔は優しかった。




あぁもう、転校初日に好きな人ができるなんて、結構ビックリだわ。





     *********





何故だかうっすら頬を染めてナミが笑う。



 「これからヨロシクね、・・・ゾロ!」

 「・・・あぁ」



ふわりと微笑むその顔に、早くも生涯二度目の不覚。




あぁクソ、転校生に惚れるなんざ、何てベタな男だおれは。






2006/07/23 UP

『転校生ナミに一目惚れゾロ、猛烈アタック』
6/8にリクくれた方、・・・ゾロの猛烈ぶりが浮かびませんでした・・・。
隠れ家ゾロはシャイボーイなんで(真顔)。
ポイントは『女』ではなく『女子』と言うゾロです(笑)

視点や場面がコロコロ変わって読みづらいですか、そうですか。
・・・ガンバレ!(おい)

生誕'06/NOVEL/海賊TOP

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