覚。









空気に違和感を感じて目が覚めた。


頭が痛い。
目の奥がチカチカする。



あぁそうだ、私は階段から落ちたんだ・・・・・。



・・・・・階段?

・・・・・どこの?

・・・・・いつ?

・・・・・私は・・・・・・?











体を起こすと、見知らぬ部屋のベッドにいた。
痛む頭を押さえながら、薄暗い部屋に目をこらす。


隣には、男がいた。
ベッドの傍に座り込み、シーツの上に突っ伏して眠っている。

そして、私の左手を、その男がしっかりと握っていた。




私が起きたことに反応して、男がもぞ、と動いた。



 「ナミ・・・・? 起きたか・・・?」




ナミ?
それが私の名前?

知らない男に手を握られていることに唐突に嫌悪感を覚えて、慌てて振り払う。




 「ナミ?」

 「・・・・だれ」




だんだんと体を恐怖が支配する。

ここは一体どこなの?
私は何でここにいるの?
この男は誰?

パニックになって、私は意味を成さない単語を発しながらベッドから転がりながら這い出て、
部屋の隅で自分の体を抱えて丸くなる。




 「どうしたナミ、大丈夫か?」





こわい。

こわい。

私はだれ・・・・。





 「ナミ」




優しい声に導かれるように、顔を上げて男を見る。


緑色の髪、三連のピアス。
目つきは悪いが、それでも心配そうにこちらを見ている。




 「ナミ」




私を呼ぶその声は、だんだんと体の中に沁みてくる。



















初めて会う男たちが、馴れ馴れしく話しかけてくる。
おそらく『今までの私』に接するのと同じような態度のクルーたちに、
戸惑わずにはいられなかった。
私にとってここは初めての場所なのに、そこに居るのが当然かのように扱われる。
少年のような幼さを持つ男が船長で、そしてこの船がが海賊船という事もまだ信じられないというのに。

私が記憶を失ってから5日。
シカのようなヒトのような可愛い生物(でも医者らしい)は毎日診察をしてくれるけど、
相変わらず私は何も思い出せない。

それでも、クルーたちのさり気ない気遣いのおかげか、
この船に乗っている自分、というものに何となくは慣れてきていた。





キッチンで、私は金髪のコックさんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。
彼はどうやら女好きらしい。
私にも、そしてこの船の唯一の女性であるロビンという人にも、同じように鼻の下を伸ばしている。

キッチンには他にもロビンと、鼻の長いウソップという男もいる。
彼は話好きらしい。
私を安心させようとしてくれているらしい、そんな心配りが感じられて、彼には好感が持てた。
彼が話すことはどうにもウソっぽいのだが、でも私は何も覚えていないのだからもしかしたら真実かもしれない。
それに、面白いことには変わりない。



 「で、そのときだ! おれは棒切れ1本を持ってそのバカでけぇ海王類に・・・・」



コーヒーを飲みながらウソップは身振り手振りを交えて冒険談を話す。
私とロビンはクスクスと笑いながらそれに耳を傾ける。









突然、皮膚がざわめく。
足元から全身がザワリと総毛立つような感覚。
体の内側を何かがピリピリと走る。
これはなに?
何の感覚?




 「・・・・嵐が来る」




意図せず口から漏れた。




 「何だって、ナミ?」

 「え? ・・・嵐が・・・・・って何で私そんなこと思ったんだろ・・・・」



戸惑って口元を押さえていると、ウソップたちはいっせいに立ち上がった。



 「野郎どもーー! 舵きれーー!! 嵐だとよ! 回避回避ぃーー!!!」

 「おーーー!!!」



ウソップがキッチンから飛び出して声をあげる。
ロビンたちも後に続き、甲板へと降りていく。

甲板にいた他のクルーたちもそれに応えて、船内が慌しくなる。


私も急いでキッチンの外に出て、手すりに手をついて空を見上げる。



真っ青な空。
風もなく、波も穏やか。

嵐なんて、微塵も来る気配はない。




 「ちょ、ちょっとウソップ、何で!?」

 「何でって、嵐だろ?」

 「そんなの、何の根拠も無いのよ! ふと思っただけなんだから・・・こんな晴天で嵐なんて!」

 「いいんだよ」



必死に言い訳するが、ウソップは平然としている。



 「・・・なんで・・・」

 「お前はこの船の航海士なんだから、お前が思ったんなら船をそう動かすのが当然だ」

 「・・・でも、私何も覚えてないのに、航海士なんて・・・・」

 「覚えてるさ」

 「え?」



ウソップが、にっと笑ってこっちを向いた。



 「お前はお前なんだから」














本当に嵐は来た。
クルーたちのの機敏な行動で直撃することは避けられたものの、
それでも少しは影響を受け、甲板で作業をしていた皆はびしょぬれになってしまった。


何も手伝えなかった私はせめてタオルを取ってこようと、風呂場に足を運んだ。




扉を開けると、誰かとぶつかりそうになった。



 「きゃ」

 「っと、悪ぃ」



長身の逞しい男は、目覚めた私の手を握っていた、その人。

ロロノア・ゾロ。



 「・・・・・ゾロ」

 「・・・タオルか?」

 「う、うん。 みんなの・・・・」

 「ほらよ」



ゾロは風呂場にいったん引っ込んで、タオルを数枚取って私に寄越す。



 「・・・ありがとう」

 「・・・・・」



ゾロは何か言いたげに口を開いたが、何も言わずに私の横を通り過ぎる。





 「・・・ねぇ、ゾロ」

 「・・・何だ」



思わず声をかけると、ゾロは立ち止まり振り返った。


ずっと疑問だった。

あのとき、何故あなたは私の手を?




 「・・・・私とゾロは、恋人同士なの?」

 「・・・・・・・・・・」



もしそうなら、記憶を失っている私を、この男は今どんな目で見ているのだろう。
ゾロとはあまり話していない。
避けられているとまではいかないが、他のクルーたちからも「あんなモンだ」と言われていたので気にはしなかった。
でももし、私がゾロの恋人なら。
私の目の前の男は、一体どんな気持ちでこの5日間を過ごしてきたのか。



 「・・・違うの?」

 「・・・・まぁ、簡単に言えば、そうだ」

 「そうって、恋人ってこと?」

 「あぁ・・・・」



ゾロは苦笑している。


どうしてもっと早く言ってくれなかったのか。
でも言われたところで、私は何も覚えていない。

でも、思い出したい。

私はあなたと、何を話した?
どんな時間を過ごしてきた?


あのとき私を呼んでくれたあなたの声は、とても優しかった。



今の私を、あなたはあんな声で呼んでくれる?





 「・・・・私がもし、このまま全部忘れたままだったらどうする・・・?」

 「別に・・・戻るモンはほっといても戻るしな」

 「戻らなかったら?」

 「・・・その時はその時だ」

 「・・・・・私と、別れるの? 無かったことに?」




あなたの恋人だった『ナミ』はここにはいない。

じゃあ私は何?




 「・・・・さぁな、少なくともおれはその気はねぇぜ」

 「・・・・・・・・なんで?」

 「何でって」

 「私は前の『私』じゃないのよ」

 「・・・お前だろ」

 「でも、忘れてるのよ・・・」

 「でもお前だ」

 「・・・・」

 「変わんねぇよ」

 「・・・・・・・・」





この船のクルーは、みんなそう言ってくれる。

私は私だ、と。




それなのにどうして私は、忘れてしまったの。






 「ナミ」




ゾロがあの声で私を呼ぶ。




 「行こう」



伸ばされた手は、私に向かって。






この手の暖かさも、この声の優しさも。

胸に湧くこの感情も。


私は全部忘れてしまったけど、今またこうして感じてる。




もう決して、忘れはしない。






2006/07/21 UP

『記憶喪失ゾロナミ』
6/8にリクくれた方、オールキャラは出てきませんでした・・・スマン!

ウソプーの台詞は本来船長の発すべき類のものでしょうけど、
今回はウソプーです。
船長出番ナシ。
・・・記憶の戻らぬまま終了(笑)。

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