授。
空を優雅に飛ぶ海鳥たち。
彼らは海を旅する海賊たちに、時折思いもかけない贈り物を落としていく。
「なぁゾロー、あいつら、あれ何くわえてるんだろう・・・・?」
「あぁ?」
チョッパーがぼんやりと口を開けて、晴れた空を見上げていた。
傍を通りかかったゾロも、同じように上を向く。
メリー号の真上に、鳥が1羽。
シルエットから見るに・・・鷹のようだ。
どうやら陸が近いらしい。
その鷹はチョッパーの言う通り、何か塊を咥えている。
「あぁ・・・エサか何かだろ」
「ふぅん、生きたエサかなぁ」
「そりゃ、新鮮なのが一番だろうからなヤツらも」
「何か人間の赤ん坊みたいな泣き声だなぁ」
「・・・・だな・・・・」
上空で鷹が咥えている塊からは、確かに小さな鳴き声、否、泣き声がかすかに聞こえてくる。
そう、それはまさに。
「・・・・・人の子か?」
「・・・・えぇぇぇぇぇえぇぇ!!???」
いくら弱肉強食の世界とは言え、さすがに目の前で赤ん坊が鳥に食われるのを黙って見過ごすわけにはいかない。
ゾロは刀を一本抜いて、空に向けてヒュンと振り抜いた。
小さな斬撃が飛んで行き、鷹をかすめていく。
ピー、と抗議するように鷹は鳴いて、メリー号の上から離れて行った。
当然、咥えていた塊は・・・・
「わ、わ、ゾロ! あいつ落とした!」
「大丈夫だ」
そのままゾロは、落ちてきた塊をボスンとキャッチした。
「い、医者ぁーーー!!! はっ、医者はおれだ!」
「落ち着けチョッパー、元気そうだぜ」
塊、もとい毛布に包まれた赤ん坊は、ゾロの腕の中で元気一杯泣いていた。
「で、ゾロ、あんたの隠し子なの?」
「ンなわけあるか! 拾いモンだ」
ゾロがぎこちなく赤ん坊を抱く姿を、ナミは冷ややかに見つめた。
「ふぅん・・・私はまた、あんたがどっかの女に産ませた赤ん坊が届けられたのかと・・・・」
「アホ抜かせ、おれの子ならお前の子って事だろうが」
「・・・・・・」
その発言はあえて無視して、クルーたちはゾロの腕の中で眠っている赤ん坊を覗き込む。
柔らかそうにクルクルと巻いたブラウンの髪の赤ん坊は、時折もぞもぞと動きながら眠っている。
ぷよぷよとした頬や腕を、ルフィたちは面白そうに突付いてはゾロから睨まれている。
「ちっちぇな、何ヶ月だろう?」
「多分まだ8ヶ月か9ヶ月・・・くらいだと思う、ちなみに男の子だ」
「へーー、8ヶ月かーー」
クルーたちは珍客に面白がって、ゾロの手からその赤ん坊を奪う。
代わる代わる抱っこしようとすると、赤ん坊は起きて泣き出してしまった。
「あぁもう、あんたら何してんのよ」
ナミは溜息をついて、オタオタしているルフィの手から赤ん坊をもぎ取る。
「ムサいお兄ちゃんに抱っこされるのはイヤよねー?」
そう言ってナミは赤ん坊を抱き、ゆらゆらと体を揺らしながら優しく声をかける。
クルーたちが聞いたこともないような、優しい声色で。
「ねぇチョッパー、このくらいの子ってやっぱりミルクよね?」
「うん、、ミルクもいるけど・・・この船には無いよな・・・・」
「もうすぐ島に着くから・・・」
「なら大丈夫だ!」
ゾロが碇をおろす隣で、ナミは腕の中の赤ん坊を見つめる。
赤ん坊は、ナミに抱かれて安心したのかスヤスヤと眠っている。
「どうした」
「ん? 名前、どうしようかなと思って」
「名前?」
「島に着いたらどうにか海軍に届けようとは思うんだけど、それまでずっと『赤ちゃん』呼ばわりはね」
「ふーん、まぁ適当に決めろよ」
「うん」
ナミは微笑みながら、また赤ん坊の顔を見下ろす。
その表情に、少しばかり母の顔が混じっているのは気のせいか。
女ってのは赤ん坊を前にしたらこうなるモンかな、とゾロは思って2人を見つめていた。
「よし、決定」
「お、何にしたんだ?」
「ワシ」
「・・・・・・・は?」
「ワシよ、ワ・シ」
「・・・・・・・・・」
前々からネーミングセンスの無いヤツだと思ってはいたが、とゾロは汗をかく。
ナミはそれに気付かず満足気に笑っている。
「・・・一応聞くが、何でワシ」
「鷹に攫われたから」
「それならタカだろうが!」
「それじゃそのまんまじゃない」
「・・・いくらなんでも、ワシはおかしいだろう、ワシは・・・・」
「何よー、文句あるの? じゃああんた考えなさいよ」
キッと睨まれ、ゾロはしばらく空を見上げる。
それからボソリと呟く。
「・・・・・・じゃ、クウ」
「クウ? 泣き声みたいね。 何でクウ?」
「空から落ちてきたから」
「あんたの方がそのまんまでオカシイわよ」
「お前よりゃマシだ!!」
上陸した島で、ナミとゾロは2人で町に出た。
他のクルーたちはそれぞれ前々から予定した買い物があったため、
ミルクやおむつの用意はこの2人の担当になったのだ。
「てか、コイツどうすんだよこれから・・・」
「うーん、とりあえず赤ちゃんの捜索願出てないかな、と思って。
多分距離的には、鷹がこの子を攫ったのってこの島だと思うのよね」
「ほー」
「それがムリそうだったら、どうにか海軍かどこかに引き渡すしかないわね・・・・・それとも」
「・・・それとも?」
「・・・ん、何でもない」
小さく答えて、ナミはクウを見下ろす(結局ゾロが粘って『クウ』になった)。
目を覚ましていたクウは、ナミと目が合うとニコリと笑った。
見るもの全てを幸せにするようなその笑顔に、ナミは胸の中がじんわりと暖かくなるのを感じた。
赤ん坊など、もちろん育てたことなどないし、こうやって胸に抱いたこともない。
ぎこちない抱き方で、もしかしたらこの子は不安に感じているのかもしれない。
それでも、自分のナミの腕の中で幸せそうに笑っている。
触れるその温かさが心地良い。
赤ん坊は、一人では生きていくことはできない。
育ててくれる、抱いてくれる相手に自分の命の全てを賭けるのだ。
相手を無条件に信頼する、最大級の愛。
今抱いている小さな存在は、(もちろん自覚などはしていないけど)自分を信頼してその命を預け、笑っている。
その笑顔を見るだけで、守ってあげたい、愛してあげたいと思ってしまう。
子供の笑顔って、この世で最大の武器よね。
そう思って、ナミはクウに微笑みかける。
隣のそんなナミの様子を、ゾロはじっと見下ろす。
「・・・・お前、子供欲しいのか?」
「・・・えっ!?」
「なーんか、そんなツラしてたぞ」
「そりゃ・・・、欲しいわよ・・・・」
「・・・・まぁ、コイツはちゃんと親に返すぞ」
「・・・・分かってるわよ」
「てめぇで産めばいいだろ、欲しいんなら」
「・・・・・いつの話よ」
「そりゃ、お前が欲しいと思うときだ。おれはいつでもOKだしな」
「っっっ・・・何で父親があんたで決定なのよ!」
「あぁ? おれじゃなかったら誰だよ」
「・・・今はあんただけど、そんなのまだ分かんないじゃないっ!!」
「何だとコラ!?」
顔を赤くしたナミと、顔を引きつらせたゾロが声を上げた途端、
クウは顔を歪ませて小さなうめき声を出す。
「お、おい、泣きそうだぞ」
「あんたのせいよ、バカ! ごめんねクウ、いい子だからねんねしよ?」
ナミはクウを抱きなおし、その背中をポンポンと軽く叩く。
「ほら、ねーんね」
ナミが優しくそう言うと、クウはコテンとナミの胸に頭を落とした。
「・・・・やだ、カワイイ!!!」
「・・・・・・」
ナミの体にしがみつくように、クウは大人しくしている。
「ゾロ、見た!?」
「・・・見た」
「もいっかい!クウ、もいっかい!! ねーんね!」
顔を起こしたクウにナミがもう一度声をかけると、クウはまたもコテンとナミの胸に顔を埋める。
その様子を、ナミもゾロも思わず凝視してしまった。
「かわいすぎるわ・・・・」
「・・・・・・と、とりあえず、買うモン買うぞ」
「う、うん・・・」
ゾロは自分を誤魔化すようにさっさと歩き出し、ナミも慌ててその後を追う。
小さな島で、観光客の姿は見られない。
ゾロとナミが港から歩いてきた道でも、遠目に畑仕事をしているらしい老人を見つけはしたが、
結局それ以外は誰にもすれ違わなかった。
港からその1本道を歩いていくと、この島で唯一の雑貨屋がある。
町の人間の大半はこの店で、夕飯の材料から日用品までを揃える。
置いてある品物も小さな島のわりに多種多様で、店主いわく『無いものは無い』という品揃えだ。
もちろん初めてこの島に来たナミたちがそれを知っているわけはなく、
とりあえず、と飛び込みで2人はこの店に入った。
「いらっしゃい」
2人が店に入ると、眼鏡をかけた老紳士が優しい笑顔で出迎えてくれた。
白いシャツには皺一つなく、一見高級レストランのソムリエ風に見えなくもないその紳士がこの店の主らしく、
カウンターの裏に腰掛けて広げていた新聞を畳み、立ち上がった。
ナミはクウを抱いたままキョロキョロと店内を見渡しつつ、店主に近づく。
背の高い店主は、背筋をピンと伸ばして2人に微笑みかける。
「すいません・・・あの、赤ちゃんのミルクとかおむつって、あります?」
「えぇ、ありますよ? かわいいですね、男の子ですか?」
店主はカウンターから出てきて、ベビー用品の棚までナミたちを案内する。
「え? あ、はい。でも私たちの子供じゃ無いんです」
「え?」
「実はこの子、鷹にさらわれたみたいで・・・お母さんを探してるんです私たち」
「鷹に・・・・」
「えぇ、多分この島の子だと思うんですけど」
「そういえば・・・」
ミルク缶を抱えて、店主はまじまじとクウを見つめる。
クウも大きな目でそれを見返し、それからニコっと笑う。
「この子、ご存知なんですか?」
「モリスさんとこの坊ちゃんに・・・・」
店主がそう言った瞬間、店の扉を乱暴に開けて一人の男が飛び込んできた。
「クラウディオさん!! ウチの息子が・・・・!!!!!」
「あぁモリスさん、いいところに・・・・」
30代半ばのその男は、汗をびっしょりかき顔面蒼白で店主に駆け寄る。
ナミたちの存在は全く目に入っていないらしい。
「ウチの子が、ウチの子が鷹に・・・・!!」
「鷹? じゃあこの子はやっぱり・・・・」
モリスと呼ばれた男に肩をつかまれガクガクと揺さぶられながらも、
店主は冷静にナミの方を示してみせた。
「あの・・・もしかして、この子ですか?」
「え・・・? ・・・・あぁ!! ウィリー!!!」
ナミがおずおずと声をかけると、振り返った男は目を見開いて、
ナミからクウを引き剥がすようにその腕に抱いた。
「あぁよかったウィリー!!」
「・・・意外とあっさり見つかったな・・・」
「ね・・・・」
モリス夫婦はナミとゾロを、お礼にと家に招待した。
最初は断ったが、モリスがどうしてもと言うので、仕方なく2人はその後についていった。
モリス家に着くと、夫人はクウ(もといウィリー)を涙を流して抱きしめた。
クウは母親が何故泣いているのか分からないのか、きょとんとした顔で抱かれている。
「本当にありがとうございます・・・!!! もうダメかと・・・!!」
「いえ、そんな・・・」
「ぜひお礼をさせてください!! ウチは金持ちではないですけど、おっしゃっていただければどんな事でも・・!!」
「・・・それじゃ、ひとつ」
「はい!」
頭を下げて泣きながら2人に感謝する夫婦に、ナミは笑いかける。
ゾロはその笑顔をチラリと横目で見る。
だが声はかけなかった。
「・・・・もう一度、その子を抱かせてもらえますか?」
「え? え、えぇ、どうぞどうぞ」
きょとんとした夫婦から、ナミはクウを受け取った。
ぎゅっと優しく抱きしめる。
クウはナミの顔をじぃっと見て、手を伸ばしナミの頬にぺちぺちと触れる。
ナミが微笑むと、クウも嬉しそうに笑った。
「・・・バイバイ、クウ」
夫婦に聞こえないようにそう呟いて、もう一度抱きしめてから夫人に返した。
「・・・それじゃ、私たちこれで失礼します」
「え!? あの、夕食をぜひウチで!」
「いいんです、仲間が待ってますから。それじゃ!」
ナミは半ば強引に夫婦の誘いを断って、ゾロの腕をひっぱって家を出た。
「・・・・手元に置いときたかったか」
「・・・そんなことないわ。本当のお母さんトコが一番だもん」
「じゃあ何でンな泣きそうなツラしてやがる」
「・・・・・」
俯いて隣を歩くナミの頭を、ゾロが引き寄せてポンポンと叩く。
ナミはスンと鼻をすすって、笑った。
「あんな短い時間だったのに、母性本能って湧くのね」
「みたいだな」
「・・・お母さん、見つかってよかった」
「あぁ・・・・」
そのままあとは無言で、2人は一本道を歩いた。
港に着く前に、先程の雑貨屋にぶつかる。
「・・・ナミ、酒でも買って帰るか」
「・・・そうね!」
ナミは少し目元を赤くしつつも、笑ってゾロと店に入った。
「いらっしゃい・・・あぁ、もうお帰りに?」
「えぇ、あんまりゆっくりはしてられませんから」
店主はナミの赤い目に気付いたようだが、何も言わず微笑むだけだった。
ナミも店主に微笑み返し、酒売り場に向かう。
2,3本選んでいると、ゾロが後ろから寄ってきた。
「ゾロ、あんた選ばないの? ・・・・何か買うの?」
「いるか、コレ?」
ゾロが持ってきたのは、長方形の箱。
商品名のロゴもない、シンプルな包装。
「・・・・・・」
「お前子供欲しいんなら、いらねぇか?」
「・・・・・・・・バカゾロ!!!!!!」
真っ赤な顔で豪快な音を立ててゾロの頭を殴りつけるナミを、店主は温かい目で見守っていた。
2006/07/19 UP
『ゾロナミ+子供、男の赤ちゃん』
6/8にリクくれた方、あのーー、こんなんで・・・許して・・・。
さて、クラウディオが誰だか分かる人いますか?
リスパラです、リスパラ。
分からなくても問題は全くありません。
老眼鏡紳士萌えは継続中(笑)。
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