請。








男と女が夜中の部屋に2人きり。
することと言えばひとつしかない。


そのはずだが。


おれたちに限ってはそうではなかった。












 「あ、てめぇ、勝手に開けんなバカ!」

 「文句言わないの、いっつもあんた私のお酒勝手に飲んでるくせに!!
  たまには私に寄越しなさい!」

 「だからって」

 「だめーー」



キッチンで2人、互いの酒を持ち寄って飲み交わす。
お互いの酒の量につきあえる人間のいる心地良さか、
おれとナミはこうして夜中に飲み合うことがよくあった。

この日持ってきた酒は、アルコール度数96のなかなかに強力な、もはや『酒』とは呼べない酒。
さすがのおれでも、こんなモノを瓶ごとあおる気にはなれない。
酔っ払っているわけではないが気分が良くなっているナミは、
ラベルに目をやりもせずおれの手からその酒を奪い取った。

自分のグラスに豪快に注ぎ、制止も無視してナミはグラスを一気に飲み干した。




 「・・・・その酒、度数めちゃくちゃなんだぞ?」

 「えぇ〜・・・・・・?」





呟いた瞬間、ナミは一気に顔を赤くしてテーブルの上にバタリと崩れた。



 「・・・・おいナミ、・・・・・・・・・死んだか?」

 「・・・・・・・・・・・・・誰が死ぬのよバカ・・・・・」

 「おぉ、生きてたか」

 「生きてるわよぉ〜・・・・?」



そう言ってナミはヘラリと笑った。



 「・・・・・酔った、か?」

 「ん〜?」




あの酒をなみなみ注いだグラス一気飲みで、ほろ酔い程度か。
呆れつつもとりあえずナミの手から瓶を奪い返し、隠した。




 「あははー、何かゾロ変な顔ーーー」

 「余計なお世話だ」

 「近くで見たらどんなの〜?」

 「は?」




立ち上がったナミは、おぼつかない足取りでフラフラと近づいてくる。

椅子に座ったままのおれの顔を両手でつかんでグイと持ち上げ、その上にかがみこむように顔を近づける。




 「近くで見ても変な顔〜・・・・」

 「喧嘩売ってんのかてめぇ」

 「キスしていい?」

 「・・・・・・は?」








ナミと2人きりでキッチンにいて、邪な感情が湧いたことはない、とは言わない。
いやむしろ、年中湧いている。
それをナミに気取らせるつもりさらさら無いし、おそらくコイツも気付いてはいない。
気付いていたら、2人きりで夜中に酒を飲んだりしないだろう。
まぁコイツは魔女だから知ってて知らないフリってのもありうるが。

とにかく、おれがこの女と2人でいて色々と我慢しているのは事実なわけで。



その女から、先程の発言。



さすがに動揺した自分が憎い。
精神修行が足りないようだ。








 「ねー、キスしていーい?」

 「・・・・何考えてんだお前」

 「なーんもv ただキスしたいだけ〜」

 「・・・・・・酔っ払いか・・・」



人の顔を相変わらず両手で挟んだまま、にっこりとナミは微笑む。
酔っ払うとキス魔になるヤツはたまにいる。
よりにもよって、お前がか。


目の前数cmにあるナミの顔は、酒が入ってほんのり赤い。
風呂上りのシャンプーの匂いが、空気を甘く変えていく。
とろんとした目はまっすぐにおれの目を覗き込んでくる。
化粧しているわけでもないのに紅く染まっている唇が、おれの目の前でキスを求めている。



・・・・・・自制しろ、おれ。





 「・・・お前、さっさと部屋帰って寝ろ」

 「なによー、私とキスしたくないの?」

 「・・・・・・・・・寝ろ」




理性を必死に保っているこっちの気も知らず、ナミは不満そうに座っていた椅子に戻った。
テーブルに伏せ、じたばたと両手でその上を叩く。



 「キスしたいキスしたい〜〜・・・・」

 「・・・・・・頼むからお前、寝てくれ・・・」

 「ゾロとキスしたいの〜〜〜」

 「・・・・・・・・」



ここまでせがまれて逃げては男がすたる。
いい加減理性制御に疲れたおれが立ち上がりかけた次の瞬間、
目の前の女はグーグーと気持ち良さそうな寝息を立て始めた。








 「・・・・・・このヤロウ・・・・・」



上げた腰が下ろしづらい。































翌朝、ナミは重い頭を抱えてキッチンにやってきた。



 「おはよ〜・・・・」

 「おはようナミさんv 今日もお美しいv ・・・・あれ、二日酔いですか?」

 「そうみたい・・・」

 「珍しいなナミ、お前が酔うなんて・・・」

 「うーん・・・あんまり覚えてないのよね・・・」



サンジやウソップに何とか答えて、ナミはぐったりと椅子に座った。



 「朝食は軽いものに変えましょうね」

 「ごめんね、おねがい・・・・」



まずは差し出された水を飲みながら、ナミははーっと溜息をつく。

昨日のことはあまり覚えていない。
ゾロと2人で飲んで、何だか妙に強い酒を飲んだことまでは記憶している。
それからどうしたのか。
気付けば女部屋の自分のベッドの上で伸びていた。
ゾロが運んでくれたのか、自力で戻ったのか。
どっちにしろ、ゾロの前で醜態をさらしてしまったようだ。
弱みを握られてしまったようで、何だか悔しい。

ナミはまた深く溜息をつく。




 「うす」

 「お、ゾロおはよう」

 「早いな今日は」

 「おぅ」



ゾロが頭をボリボリかきながらキッチンに入ってきた。
そのまま、いつもの席のナミの隣に座る。



 「ナミ、やっぱり二日酔いか」

 「うん・・・」

 「昨日のこと覚えてるか?」

 「それが全然・・・・」



ゾロに顔を向けて答えようとした瞬間、ナミは唇に何かが触れるのを感じた。

二日酔いのガンガンする頭で、それがゾロの唇だと理解するまでしばらくかかった。


触れるだけで離れていったそれを、ナミは呆然と見送った。


既に席についていたウソップやルフィ、そしてサンジも唖然とそれを見つめていた。





 「・・・・・なななななな、何すんのよ!!」



つい大声を出してしまい、ナミはうぅと呻いて頭を抱えた。



 「覚えてねぇのか?」

 「何をよ・・・・・」

 「お前が言い出しだんたぜ?」

 「・・・・な・・・!?」



ニヤリと笑ったゾロに、ナミは真っ赤な顔を返す。
二日酔いにくわえてパニックになった頭では、続く言葉が出なかった。

何も言わないゾロとナミの代わりに口を開いたのは、まわりで見ていた面々だった。



 「お前らがそんな関係だったとは・・・・」

 「そんな・・・ナミさん・・・・ナミさん・・・!!」

 「ち、違うわよ・・・!!」



クルーたちの言葉にかぁっと顔を赤くしてナミは慌てて声を荒げ、
また懲りずに頭を押さえる。


妙にザワザワとしたキッチンでは、クルーは食事どころではなくなってしまった。
だがゾロは構わず、平然と朝食を食べていた。








昨日のことを必死で思い出そうとしているナミを横目で見ながら、さっさと食べ終えたゾロは立ち上がる。
ちなみに他のクルーは全く手が進んでいない。



 「ごっそさん」



そう言ってゾロは、テーブルに片手をつき腰をかがめ、フォークを握り締めているナミに再びキスをした。



 「!!!!」

 「ごっそさん」



そうしてゾロは一人で楽しそうにキッチンから出て行った。


ゾロの消えたキッチンでは、
顔を真っ赤にしたナミがクルーたちからの疑惑の目を、フォークを振り回しながら必死に否定していた。









朝食の後も、ゾロはクルーが見ていようがいまいが目が合えばナミにキスをした。

クルーも段々それに慣れてきてしまい、既に『2人がデキている』のは決定項となった。
ナミが必死に否定しても、照れるな照れるなと宥められるばかり。
ゾロはゾロでそれを楽しそうに見ているだけだった。


ナミはキスされるたびに殴ろうと手を出すのだが、ゾロはそれをヒラリとかわす。
本来、ゾロはナミ程度の攻撃なら目を瞑ってでも避ける事が出来る。
普段は避ける必要がないから避けないだけなのだ。
今日のゾロは、素直に殴られて止める気などさらさら無いらしい。


まわりのクルーはともかく、ナミはゾロらしからぬその行動にパニックになり慣れることなど到底できなかった。
キスされるたびに真っ赤になり固まってしまう。



 「この程度で固まんなよ」

 「だって、ゾロが!!」

 「だからお前が言い出したんだぞ?」

 「何のことよ!!」



ナミが問い詰めてもゾロは笑ってかわすばかり。

最初のころはただ触れるだけのキス。
だが夜になるにつれ、また人目のないときなどは、ゾロのキスは徐々に濃いものに変わっていく。

ナミは必死に抵抗しようとするのだが、ゾロがいつ仕掛けてくるかも分からず、
毎回対応が遅れて結局何もできず力が抜けていくだけだった。









風呂上りのナミは倉庫の扉でゾロと出くわし、やはり唐突にキスをされた。
さっさと風呂に行こうとするゾロの背中にナミは怒鳴る。



 「あんたねぇ、本当に何考えてんのよ!!」

 「お前が昨日の夜、おれに言ったんだぜ」

 「私が!?」

 「あぁ、キスしたい〜ってな」

 「・・・・・そんなこと言ってない!!」

 「覚えてねぇか?」

 「・・・・・・言ってない・・・・・言って・・・・・・」

 「言っただろ?」

 「・・・・・・そんなような事は言ったかもしれない、けど」



うっすらと昨夜の記憶が戻ってきていたナミは、語尾を小さくしながらも意地で否定する。
ゾロはそのナミの様子をニヤニヤしながら見ている。



 「・・・大体なんで私が、あんたにキスを強請るのよ」

 「・・・知るかよ」

 「それにあんたも、何素直に応じてんのよ!」



ナミはゾロを睨みながら言う。
頬を染めた顔では迫力は全く無いのだが。

ゾロはふんと鼻を鳴らしてナミに近づく。





 「・・・・ンなの、決まってんだろ」

 「・・・・なによ」

 「したいからだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」




胸がぶつかるのでは、というくらい近づいて、
ゾロはニヤリと笑いナミを見下ろしながら言った。







 「そろそろ日付が変わるな」

 「え?」





ゾロはスッと顔を近づけて、ナミの額にこの日最後のキスをした。





 「おやすみ、ナミ」



優しく微笑んで、ゾロは倉庫に消えた。






 「・・・・・・・・何なのよ!!!」



ナミは額を押さえながら、心臓がドクドクと早まるのを誤魔化すように一際大きく叫んだ。



2006/07/18 UP

『ゾロナミ、キス魔なナミ。ゾロのキスでナミさん酔わせて』
6/6にリクくれた方、むしろゾロがキス魔です。

犯罪ですよロロノアさん(笑)。
今まで抑えてきた理性はどこに行ったのロロノアさん。
ナミさんがこんな大人しく(?)されっぱなしになってるとは思えませんが。
まぁソコはアレだ、ノリだノリ。

生誕'06/NOVEL/海賊TOP

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