通。
「女一人に何人がかりだ」
初めて出会ったその瞬間に、自分の感情を自覚した。
最初にその名を見たのは、ノジコの家の新聞でだった。
それはまだ、小さな記事。
一人の賞金稼ぎが、一気に3人の首を獲ったと言う。
×印のつけられた、東の海の懸賞首リスト。
次に見たときは、相手の懸賞金の額も前より高くなっていて、
その賞金稼ぎの話で単独の記事が書かれていた。
それから、少なくとも一月に一度はその名を目にした。
――『海賊狩りのゾロ』――。
載るたびに記事は大きくなって、時には一面を飾ることもあった。
その風貌と年齢、そして刀を3本操るという部分が読者の心を掴む要素になったのだろう。
写真は無く、文章のみで紹介される『ロロノア・ゾロ』に、私はかなりの幻想を抱いていた。
―――なのに。
『ゾロ、起きなさーーーーい!!!』
『んぁ? 朝か?』
『夕方よ馬鹿!!!!』
この万年寝太郎が、あの『海賊狩りのゾロ』だなんて。
あのときの私の恋心を返してよ。
「でもナミ、結局惚れちまったんだろ?」
「・・・・・・・だって、あの登場の仕方はナイでしょ?」
「顔赤いぞ、顔」
真っ暗な海面で、メリー号だけがぼんやりと明かりを放っている。
季節は夏とはいえ、まだ夜の空気はシンとして肌に心地よい。
そんななか、ナミはウソップと甲板で2人、話していた。
風呂上りの時間に涼んでいるウソップのところへ、ナミはたまにやって来る。
それは武器の調節の注文だったり、船の進め方の相談だったりで、
ある意味この船で唯一の常識人であるウソップに、ナミはこうして夜に話をもちかける。
そして最近では、それに『恋の相談』が混ざってきている。
メリーを挟んで2人は手すりに寄りかかり、
団扇で顔を扇いでいるウソップに向かってナミは妙に高いテンションで話しかけていた。
「だってね、さっきも言ったけど新聞とかでね、私すごく想像してたのよ?
背は高いのかなとか、どんな顔なのかなとか、声は低いのかなとかね?
それがいきなりあんな風に登場して・・・・・・」
「『女一人に・・・・』ってヤツか」
「そうソレ! ズルイと思わない!?」
「いやおれに言われても・・・・」
「あぁやっぱり想像どおりの素敵な人なんだわ!とか思ったのに・・・寝てばっかだし、迷子だし!」
「・・・・・だから、それでも惚れてんだろ?」
ウソップが苦笑しながら言うと、ナミはまた頬を染めてクルリと向きを変え、
手すりに両肘をついて海面を見下ろす。
「・・・・だって隣で寝られるとさ、信用されてるんだなーとか、
迷子になるのもそれはそれでまぁカワイイかなーとか・・・・・」
「わかったわかった・・・で、お前はどうしたいんだ?」
「どう、って?」
ナミはきょとんとした顔をウソップに返した。
ウソップは呆れながら、団扇をナミに突きつける。
「だーから、ゾロが好きなんだろ? ゾロと付き合いたいのか?」
「・・・・・・・・分かんない」
「何だよそれー?」
ナミはそのままズルズルとしゃがみこみ、手すりの隙間から船の外に顔を出して小さく唸る。
「だってあいつ、そういうのに興味無さそうじゃない? 私のこと女として見てるかも疑問だわ」
「でも『女一人に』って言われたんだろー?」
「それは単純に生物学的な女ってだけで、なんていうか、精神論よ問題なのは」
「恋愛対象として見られてるかどうかって事か・・・」
「そうそう。もし告白なんかして、向こうに全然その気無かったりしたら立ち直れないかもしれない・・・」
「ふーん・・・・・」
手すりに顔を突っこんだままウンウン唸っているナミを見下ろしながら、
ウソップは小さく溜息をついた。
不思議でたまらなかった。
それだけゾロを見ているくせに、何でナミは気付かないのか。
今自分とナミが2人きりでいるこの状況で、
倉庫の方から射殺さんばかりに殺気を飛ばしている剣士の気持ちに。
これ以上巻き込まれて痛い目を見るのは嫌なので、
当人たちが気付くまでは傍観しておこうと決意したウソップだった。
2006/07/07 UP
『ゾロにベタ惚れナミ』
6/1にリクくれたショコラさん、これじゃあ・・・ダメかな・・・。
ウソップには素直に自分の気持ちを吐いちゃうナミさんです。
そして実はそれにヤキモキしてる剣豪。
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