間。





普通の高校生なのだ。


身長は平均よりは少し高いくらい。
頭の方はまぁ学年で上位30人以内には入るとしても、トップを取るほどの秀才ではない。
運動神経はあるみたいだからスポーツもできるのだろうけど、
授業では手を抜いているのか女子生徒から黄色い声援を受けるほど活躍するわけでもない。
顔だって、分類で言えばかっこいいほうだけど、
バレンタインの日に大量のチョコをもらうほどモテるわけではない。

普通の、今時のどこにでもいそうな16歳。



それなのに、何でこんなにドキドキするのかしら?

















この日、ナミの勤める高校は体育祭だった。
別に保護者や外部の人間が応援に来るわけではない、単なる生徒たちのスポーツ大会のようなものだ。
クラスの生徒はそれぞれ必ずひとつの種目に出場する。
団体種目は野球・バスケ・バレー、個人種目として陸上競技があり、
もちろん人数の関係で一つのクラスから全部の種目に出場できるわけではないが、
この高校の場合一学年が8クラスあり、学年は関係無しで試合をするので、
試合数はそれなりに多い。

優勝したからと言って別に何か特典があるわけでもない(せいぜい賞状くらいだ)が、
やはり10代という若さからか、いざ始まると面倒くさがっていた生徒も燃えてしまい、
丸一日かけて行われる体育祭は結構な盛り上がりを見せる。


ナミはこの高校に赴任して1年目だった。
以前の学校ではこのような催しは無く、生徒が一体となって汗するこの体育祭をナミ自身も結構楽しみにしていた。

当然教師は出場はしないが、時々審判をすることになるので、
ナミは気合を入れて下はジャージ、上はTシャツという「いかにも体育祭」な格好でグラウンドを歩いていた。
先程自分のクラスの女子がバレーの試合で負けた。
思わず泣き出してしまった生徒たちを慰めた後
、ナミは今度は男子が出場している野球の試合を見に足を運んだのだ。



スコアボードを見ると、今は4回表が終わったようで、ナミのクラスが3−1で2点リードしている。

よしよしと頷いて、生徒たちに声をかけようとベンチに近づこうとしたが、
少し離れたところに緑色の頭を見つけた。

ロロノア・ゾロ。

ナミのクラスの生徒だ。


決してタチの悪い生徒ではないのだが、授業中によく居眠りをしているのでナミは何度も起こしていた。
一度起こしてもすぐにまた目を閉じてしまうので、最終的にはいつもナミの鉄拳制裁が下る。
それを見ているせいか、他の生徒は決してナミの授業で居眠りをすることはない。
だがゾロは懲りずにいつもいつも、ナミから拳骨を食らっているのだった。







 「なにサボってるの、ロロノアくん」

 「よぉ、先生」



ナミは近づいて声をかける。
地面に座り込んで欠伸をしていたゾロは、ナミに向かって呑気に片手をあげてみせた。



 「ちゃんと参加しなさい」

 「ウチのクラス、今攻撃中」

 「じゃあなおさら応援しないと」

 「おれが応援したって勝つときは勝つし、負けるときは負けるさ。それにさっき1本打ったぜ」

 「全くもう・・・・若いうちにこういう事に熱中してないと、年とってから後悔するわよ?」

 「年寄りくせぇな」

 「先生にその口の聞き方は何?」

 「はいはい、すんませーん」



どうにもやる気の見られない様子に呆れながらもナミは注意するが、
それにもゾロはわざとらしい口調で謝るのみだった。

ナミは溜息をついて、ゾロの隣に腰を下ろした。



 「じゃあここからでいいから、ちゃんと試合見てなさいよ?」

 「一応見るには見てる」

 「本当に〜?」





ナミは、眠そうなゾロの顔をからかうように覗き込む。



そのせいで、ファウルボールに気付くのが遅れた。






 「あぶな・・・・!!!」





生徒の誰かの声がナミの耳に届く。

それを聞いて顔をそちらに向けたときには、既にボールはナミの方に飛んできていた。

白いものが自分に向かってまっすぐ飛んでくるのを神経だけで判断はしたが、咄嗟に動くことはできなかった。





当たる、と思った瞬間、ナミは突然強い力に押し倒された。













 「ごめん先生!! 大丈夫ですか!?」



打った本人らしい男子生徒が、慌てて駆け寄ってくる。

ナミは呆然として、今の自分の状況が理解できなかった。


どこも痛くない。

とりあえずボールは当たらなかったらしいが、何故?
目に入るのは、青い空。
いい天気ね、体育祭日和だわ、などとどうでもいいことを考えて、それから気付いた。


ナミの上に、ゾロが覆いかぶさっている。
地面に目を移すと、白いボールがひとつ転がっている。
また視線を上に戻すと、ナミの顔を挟んで両腕を地面についたゾロと目が合った。



 「・・・・・・ロ、ロロノアくん!?」

 「・・・・・ぼーーっと見てねぇで、少しは避ける努力をしろ」



どうやらゾロが自分を押し倒してボールから避けさせてくれたらしい、と悟ったナミは、
心配して寄ってきた生徒に囲まれた自分たちの状況に気付き、
見下ろしてくるゾロの目に少し顔を赤くして、慌ててその下から逃れようとした。



 「あ、ありがとう」

 「・・・・・」



暴れるナミに気付いたゾロは、若干不満そうな顔をしてナミから離れた。
体を起こして自分の後頭部に手をやり、その手を見る。




 「・・・・ロロノアくん? 怪我したの!?」

 「・・・・ちょっと当たったみてぇだな」

 「ちょっとって! モロに当たったんじゃないの!?」



ゾロの右手には赤い血がついていた。
ナミは慌てて傍に寄り、その頭に手を伸ばす。



 「触るな」

 「じっとしてなさい!!」



膝立ちになってゾロの頭をがっちり掴む。
髪を分けてみると、よくは見えないがどうやら少し切れているらしい。



 「悪ぃゾロ・・・大丈夫か?」

 「あぁ、カスリ傷だ・・・気にすんな」



ボールを打った生徒が申し訳無さそうにゾロに謝るが、ゾロは一向に気にしていないようで平気な顔をしている。



 「保健室に行くわよ、ロロノアくん」

 「あー? ほっときゃ治るよこんなモン」

 「ダメよ!! 血が出てるのよ!!!」



怒鳴り声に圧倒され思わずゾロが固まると、
ナミはその隙にゾロの手を取って立ち上がらせ、保健室へと猛進した。

取り囲んでいた生徒たちはその剣幕を呆然と見送っていた。





















保健室でサボる大義名分ができたゾロは、そのままベッドで眠りこけていた。
体育祭の準備を終えた生徒たちは皆下校しており、夕焼けで赤く染まった教室にはゾロの鞄と着替えだけがポツンと残っていた。
私服に着替えたナミはそれを持って、保健室に向かった。

先程職員室で、保健医から鍵を預かっていた。
どうやらゾロはいまだ保健室で眠っているらしい。
いくら揺すっても起きない彼に諦めて、保健医はナミに施錠を頼んだのだ。



保健室に入るなり、爆睡しているゾロに溜息をつく。

保健医から手当てをしてもらったあと、病院に連れて行くと言ったのにゾロはそれを頑なに拒否した。
何度行っても、ほっときゃ治るの一点張りなのだ。
幸い出血も大したことはなく、あれから頭痛や吐き気が起きたようでもないのだが、
当たった場所が場所なのでナミからすればきちんと病院に行ってほしかったのだ。
その原因が、自分の不注意なだけに。




 「ロロノアくん、起きなさい」

 「・・・・・・・お? 朝か?」

 「夕方よ!! もう体育祭も終わって、みんなほとんど帰っちゃったわよ」

 「ふーん、じゃあおれも帰るか・・・・」



起き上がったゾロは体を伸ばしながら大きな欠伸をして、ベッドから下りた。
ナミは着替えを差出し、背中を向ける。



 「送るわ」

 「あ? ガキじゃあるまいし、一人で帰れる・・・」

 「だって、あなた病院にも行かないって言うし・・・もし帰り道で何かあったりしたら・・・・
  それに保護者の方にもちゃんと説明しないと」

 「父親は海外赴任中。誰もいねぇよ」

 「え、そうなの?」



父子家庭だとは知っていたが、父親が海外にいることまではナミは知らなかった。
思わず振り返ると、着替え終わったゾロは立ち上がりナミの手から自分の鞄を取った。
それからまた大きく伸びをして、ナミにニヤリと笑いかける。



 「でもまぁ、送ってくれるっつーんなら、お言葉に甘えるか」















 「頭はどう? 痛くない?」

 「あんなモン、痛くもねぇよ別に」

 「あんなモンって・・・・硬球よ?」

 「あんたの拳骨のが痛ぇ」

 「失礼ね! 女の細腕と硬球を一緒にしないでくれる!?」

 「後ろ」

 「・・・え?」



ゾロと並んで歩いていたナミが振り返ると、自転車がすぐ後ろにせまっていた。
慌てて道をあけようとする前に、ゾロがナミの手を掴んで自分の方に引き寄せた。



 「トロトロしてんなよ」

 「・・・・先生に向かってその口の聞き方やめなさいって、何度言ったら分かるのロロノアくん?」



気恥ずかしさを誤魔化すように、ナミはゾロは睨み上げる。

ゾロはそのナミの顔を見て、意地悪く笑った。



 「おれがいなかったら、あんた今頃鼻血まみれになってたんだぜ? ついでにチャリに轢かれてたな」

 「・・・・・・・・まったく、礼儀知らずな子供ね」



それを言われるとナミは何も言い返せないので、せめてもの抗議の言葉を出してみた。
しかしそれにもゾロは面白がった顔をするだけで、前を向いて歩き出す。



 「まったく、恩知らずな大人だな」

 「・・・・・・口の減らない子供ね!」

 「融通のきかねぇ大人だ」

 「・・・・・・」

 「もうオシマイか?」



またニヤリと振り返ったゾロに、ナミは口を尖らせるしかできなかった。


それから、ようやく気付く。




 「・・・・ロロノアくん、手を・・・・」

 「・・・・・誰も見てねぇよ」



先程から掴んだままだったナミの手を、ゾロは離す気がないようでそのまま歩いていた。




2人で並んで歩いて、手を繋いで。

こんなの、まるで。




 「誰か見たら・・・」

 「誰もいねぇって」

 「そんなの分かんないでしょ」

 「このへん学校のヤツら住んでねぇし、こんな暗くなっちゃ顔なんて分かんねぇって」




そういう問題ではない、と手を振り払うべきだったのだろうが、ナミはそのままにしてしまった。


自分たちは教師と生徒で、恋人同士でも何でもない。

それでも、
耳の後ろをうっすら赤く染め、口調とは裏腹に緊張しているのか少し手に汗をかいた少年を、
何故だか愛しいと思ってしまったから。





この子は私の生徒。

そう自分に言い聞かせようとしても、ナミは鼓動が早まるのを抑えることができなかった。




2006/07/02 UP

『パラレル・先生ナミと生徒ゾロ』
6/1にリクくれた真牙さん、こんなんで許してください。
バカップルにする予定が、くっつく前の2人になってしまった。。。。

ちなみにバッターはルフィ、保健医はウソップです(カケラも出てこない設定)。
・・・保健室の先生が男だなんて、夢も希望もありゃしねぇ・・・(サンジ談)。

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