強。








 「ナミ・・・・・・っ!!!!」








たかが十数段。

その程度の階段なのに。


どうしておれは。
















嵐の後の、甲板中が水浸しになったメリー号の上では、
男連中はモップを持って掃除に励み、ナミはサボろうとするルフィたちを怒鳴りつける。

いつもの、よくある光景だった。




 「モップ振り回して遊ぶなって言ってるでしょ、もう!」

 「はいはーい、ちゃんと掃除するってーー」



ルフィとウソップはモップを刀がわりにチャンバラごっこをして遊んでいた。
ナミは溜息をついて、キッチンでお茶をするため階段を上る。

上りきる前に、後甲板を掃除していたゾロの姿が目に入った。
珍しくマジメに掃除しているゾロを褒めてあげようと、ナミは少し足を速めて声をかけようとした。




 「ゾ・・・・・」





その声に気付き顔を上げたゾロの目に飛び込んできたのは、
足を滑らせ階段から落ちかけているナミの姿だった。







 「ナミ・・・!!!!」






モップを放り出して駆け寄ったゾロだが、ナミの手を掴む事はなかった。






階段の一番上で足を踏み外したナミは、そのまま甲板へと落下した。




















頭を打ったらしいナミは目立った外傷が無いにもかかわらず、3日が経っても目を覚まさなかった。

航海士が居ない状態で船を無闇に動かすことはできない。
メリー号は碇をおろし、その場に留まっていた。

女部屋から出てくるチョッパーが首を振るたび、メリー号は暗い空気に覆われる。
ルフィでさえも、ロクに口を開こうとしなかった。







この日の午後、キッチンに集まったクルーたちにロビンが提案する。



 「残酷な事を言うようだけど、航海士さんがこの状態のままなら・・・船をここに停めておくことに意味は無いわ」



その言葉に、クルーはそれぞれ顔を伏せ小さな息を吐く。



 「まずは島を見つけないと」

 「そうだね・・・・」

 「狙撃手さん、ログポースは読める?」

 「あ、あぁ、前にちょっとナミから・・・・」



慌てて答えたウソップに、ロビンは頷きを返す。



 「じゃあ一緒にお願い。私も航海術は昔かじった程度だし、
  彼女のように気候を読むことはできないけど・・・どうにか凌ぐしかないわね」

 「だな・・・・」

 「船医さんは海鳥から一番近い島の位置を聞いてもらえる?
  ルフィは見張り台から島を探して、コックさんはいつもの仕事と、あとは舵をお願い」



冷静にロビンは指示を出す。
今この場でそれが出来るのは彼女だけだった。


分かった、と頷いて、皆は体に力を入れなおし各々の仕事をするためにキッチンから出て行く。



事態は全く好転などしていないが、それでも自分がすべきことを与えられ、
それに没頭していれば少なくとも今の状況が少しは良くなるような気がする。
錯覚にすぎなくとも、クルーはそれにすがるしかなかった。

航海士がいなければ、ナミがいなければ、
この船は前に進めないというのに。





 「剣士さん」

 「・・・・・」



椅子に座ったまま動こうとしないゾロに、ロビンは優しく声をかける。



 「貴方は、航海士さんの傍に」

 「・・・・・・・・・あぁ」



ボソリと言葉を返したゾロの肩にそっと手を置いてから、ロビンは出て行った。
















女部屋に下りたゾロは、ナミのベッドに静かに近づいていく。


まるで眠っているようだった。
実際に眠っているだけなのかもしれない。
ただ、目を覚まさないというだけ。

そっと頬に触れて、温かいことを確認したゾロは床に座り込みベッドに背もたれた。

そのまま目を閉じる。


聞こえてくるのは、ナミのかすかな息遣い。
それが聞こえなくなってしまわないよう必死で耳を澄ませながら、ゾロはそこから動かなかった。









人の命が脆いことを、おれは知っている。

それなのにどうして。
どうしてあの手を掴めなかった。
どうしてもっと早く駆け寄ることができなかった。

あれほどこいつのことを見ていたのに。


視線の先の存在を、おれは必死で守らなければならなかったのに。

守るべきだったのに。


守りたかったのに。




自分の弱さに吐き気がする。










シーツの上に頭を倒し、ゾロは片手で自分の顔を覆った。






大事なモノを守れもしないで、何が大剣豪だ。

自分が求める強さは、こんなときに何も役に立たないのか。

女一人も守れない男に、強さを求める資格があるか?





歯を食いしばり、舌打ちしそうになるのをゾロは耐えた。


たかが女一人に、ここまで動揺させられるなんて。



ゾロは体を起こして向きを変え、ナミの手を取って握った。




 「ナミ」




眠り続けるその顔を見つめながら、思わず声に出してしまった。
返ってはこない言葉に、ゾロは今度は舌打ちをした。




 「馬鹿野郎」




永遠に続くかのような沈黙に、目を閉じて耐えるしかなかった。
















 「・・・・・・ロ」



あまりに突然で、あまりにか細いその声に、最初ゾロは空耳だと思った。



 「・・・・ゾ・・・ロ」

 「・・・・っナミ!」



両手で握り締めたナミの指が、ピクリと動く。





 「ナミ・・・」



ゾロはもう一度名を呼んで、ナミの顔を見つめる。


ナミはうっすらと目を開けて、見返してきた。



 「ナミ」

 「ゾ、ロ・・・・・」



ぎこちない、でもそれは確かにナミの笑顔だった。
まだ頭がぼんやりとしているのか、もどかしそうに唇を動かそうとする。



 「ナミ、ナミ」

 「・・・・だい、じょ、・・・ぶ」



手は握ったまま、片手で頬にかかった横髪をすくってやるとナミはまた微笑んだ。






 「なに、泣いて・・・の」

 「・・・泣いてねぇ」

 「私・・・・どのくらい」

 「3日だ」



一瞬ナミは驚いたようだったが、納得したのか小さく頷いた。



 「・・・・船は? 動いてる・・・?」



部屋の揺れに気付いたナミが尋ねる。

ゾロはナミの髪を撫でながら頷いた。



 「あぁ、今日から進めてる。ロビンとウソップでどうにかな」

 「そう・・・・」

 「でもお前じゃねぇとムリだ」

 「・・・・ロビンたちなら、安心でしょ・・・?」

 「お前がいねぇと・・・・ムリだ」

 「・・・・・泣かないでよ」

 「・・・・・・・泣いてねぇ・・・」



ナミはゆっくりと体を動かし、ゾロと繋いでいない方の手を伸ばしてゾロの目元を拭う。



 「あんたは・・・そんな弱いヤツじゃないでしょ・・・?」

 「・・・・誰のせいだよ」

 「なによ・・・」

 「お前みてぇな女に会っちまったせいで、おれは」

 「・・・・・」




小さく鼻をすすって、ゾロは立ち上がろうとした。



 「待ってろ・・・チョッパー呼んでくる」

 「・・・や」



離そうとしたゾロの手を、ナミは強く握った。



 「もう少し、居てよ」

 「調子は」

 「平気、だから、もう少し」

 「・・・・・」



ゾロはもう一度床に腰を落とし、またナミの手を握った。





 「私は、あんたの傍に居るよ、ずっと」

 「・・・・・」

 「だから泣かないで」

 「・・・・・泣かねぇよ、もう・・・」











昔に掴めなかったあの腕を。
今目の前のこの腕を。
おれは二度と離さない。




おれは強くなる。



大切なものを、この手で守り続けられるように。




2006/07/01 UP

『階段関係の話』
5/22にリクくれたAIさん、こんなんになりました。

ナミ誕一発目からシリアスでゴメンナサイ。

生誕'06/NOVEL/海賊TOP

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