契。










町で声をかけられたのが、最初の出会いだった。


『おれの子供を産んでくれ』と、彼は言った。











妙なナンパだと思ったが、彼は至って真面目な顔だった。

自分の名はロロノア・ゾロ。

彼はそう名乗ったあと、自分が余命わずかであることを私に告げた。
その前にどうしても、自分の子供を見たい。
だからおれの子供を産んでくれないか、と。




彼は通帳を私に見せた。
開いてみると、私がどれだけ働けば貯まるのかというほどの数字が並んでいた。

妊娠すれば、この金が私のものになるという。
おそらく自分はその子が育つまで生きてはいないだろうが、
養育費に関しては遺言状にもきちんと書いておくので、心配は無いと彼は言った。


こんな話を受ける女がいると本気で彼は思っているのか。
妊娠して子を育て、しかも父親となる男はその子が育つ前に死ぬことが分かっている。
愛する男との子供ならまだしも、今日初めて出会った男の子供など。


呆れ半分、興味半分で彼の顔をじっと見た。

精悍な顔で、充分ハンサムと言える顔だった。
相変わらず真面目な顔でこっちを見つめていた。
見た目には健康そうで、とても早死にしそうには見えないが、
ウソをつけるような人間にも見えなかった。



その時の私は恋人もおらず、
かといって仕事が恋人、と言えるほど打ち込めてはいなかった。
毎日退屈な生活で、刺激が欲しいと思っていたのは事実だった。

今まで付き合ってきた男は、年が年だけに、当然のように結婚の話を持ち出してきた。
その瞬間に、いつも私は急激に冷めていった。
そしてジ・エンド。
彼らを愛していなかったわけではない。
ただ、私に夫という存在は必要ではなかった、それだけだった。

結婚になんて、興味はない。
夫という存在も求めてはいなかった。

だが、子供は欲しかった。




結婚はしたくないけど、子供は欲しい。
結婚はできないけど、子供の顔は見たい。


私とゾロの利害は一致していた。
通帳の金額に心惹かれたのも事実。




結局私は、彼の頼みを聞くことにした。
仕事のことや将来のことなどは、この際考えないことにして。


契約は成立した。





ついでに、どうしてこんなにお金があるのかも聞いてみた。
彼はあっさりと、金持ちだからな、と答えた。

私がこのお金目当てで、妊娠したと嘘をついて逃げるという可能性もあるのに、
ゾロはそれでもいい、と言った。


おれがあんたを選んだんだから。


自分の責任さ、と笑う彼の顔は、結構好みだなと思った。












その日にいきなりホテルに連れ込むほどゾロは野暮ではなかった。
一応それなりに段階を踏んで3度目に会ったとき、セックスをした。
さすがに1回目で妊娠することはなかった。
その後も少なくとも月に1回は会ったが、なかなか妊娠はしなかった。
検査もしてみたが、どちらも異常はなかった。

運がいいのか悪いのか、半年たっても妊娠することはなかった。



最初は排卵日前後にしか会わなかったが、
段々と回数が増え、半年経つ頃には週に二度三度と会うようになった。
セックスはしたりしなかったり。
当初の目的をお互い忘れていたわけではなかったが、
まるで普通の恋人同士のような日々を過ごしていた。


1年が経ったとき、ゾロの調子が急に悪くなった。
そのまま入院してしまい、1ヶ月の間毎日見舞いに行った。























医師や看護師がバタバタと慌てている。

どうしたらいいのか分からない。
しばらく呆然としていたが、唐突に彼らの動きが止まった。



ゾロは延命措置を、拒否していたのだ。



ゾロが死んでしまうのに、どうして先生は何もしないの?
非難がましい私の視線に、医師は首を振るだけだった。




ふらりとゾロの傍に行き、その手を握る。

ゾロは笑っていた。


あんなに子供が欲しいと言っていたのに。
その願いも叶わぬまま、この人は死んでしまう。






 『・・・ゾロ、私、妊娠したよ。だから、早く治して・・・・』

 『・・・・・・』

 『・・・・さ、三ヶ月だって、だから・・・・』






涙を抑えられない私の顔を見て、ゾロは掠れた声で嘘つけ、と言って笑った。






 『面倒かけたな』

 『そんなこと』

 『あの金、お前にやるから。遺言状も書き替えた。今までの礼だ・・・』

 『・・・・・いらないよ、そんなの』

 『お前を選んで、よかったよ』

 『・・・・ゾロ!!!!』












彼とは、決して恋人同士ではなかった。

子供という共通の目的のために、隣に居ただけの関係。








妊娠することのなかった、自分の体が憎かった。


病に侵された哀れな男の子供を、産んであげたかった。
その胸に抱かせてあげたかった。




いや、違う。

私が、ゾロの子供が欲しかったのだ。

私が、私との子供を胸に抱くゾロの姿を見たかったのだ。








彼が死んでから気付くなんて。





ゾロ。


お金なんていらないよ。





私は


あなたと恋人になりたかったんだわ。





不謹慎なのは承知の上・・・・。
あーーまたイタイの書いちゃった・・・・。
悲恋好きでごめんなさい。
死にネタ好きでごめんなさい。

2006/02/19

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