事。
ナミの気持ちが分からない。
いや、気持ちというか、行動というか。
何であんなにコックとばかり喋る?
昨日の夜、ゾロはナミに自分の気持ちを告げた。
同じ船のクルーに抱いてはいけない感情だと、
ずっと告げずにいようと思っていた、気持ち。
正直、最初はこの感情が何なのか、分からなかった。
今まで特定の女に固執したことはなく、
女は単なる欲の対象でしかなかった。
しかしナミには、それ以上の感情を抱いた。
それを何と言うのか、ゾロは知らなかった。
ただ、抱きたいというだけではない。
それだけは、はっきりと分かっていた。
ナミも、自分に好意を抱いている。
ただそれが、同じ船の仲間への好意なのか、
男としての自分への好意なのかは、
ゾロには判断できなかった。
それでも、深夜に2人で酒を飲み交わすことが幾度もあり、
いわゆる『いいムード』になったことも少なからずある。
しかし一線を越えることは決して無く、
ゾロも理性を総動員して自分の欲を抑えていた。
だが、昨日は違った。
「ねぇゾロ、ゾロは彼女とかいたの?」
「あぁ?・・・いねぇよそんなの」
「あら、寂しい青春ね」
「うるせぇ」
「・・・・じゃあ、今好きな人は?」
「・・・・・・・・あぁ?」
「今、いないの?この船に」
「・・・・・・・」
この船に、女は2人しかいない。
明らかに、ナミはゾロの答えを待っていた。
たったひとつの答えを。
ゾロは動揺する頭をフル回転させ、そう判断した。
「・・・・・・・・・・・・いる」
「・・・・だれ?」
「・・・・・・・・・・・お前」
呟くようにそう答えると、ナミは嬉しそうに笑った。
そして、私も、と答えたのだった。
「ゾロ、何か顔が緩んでるぞ?」
「・・・・あ?」
昨晩のことを思い出して、ぼーーっとなっていたゾロの顔をチョッパーが覗き込む。
「顔赤いぞ、風邪か?」
「いや、大丈夫だ」
コホンと咳払いをして誤魔化しつつ、ゾロは視線を前に戻す。
キッチンのテーブルを挟んで、ゾロとは対角の位置にナミは座っていた。
いつもは隣に座るのに。
そしてテーブルの傍に立って給仕をしているサンジと、さっきから延々と話している。
サンジがナミに話しかけるのを、ナミはニコニコと笑いながら丁寧に返事をしているのだ。
いつもならばサンジの軽口は、ナミはあっさり流しているのだが。
そんな2人の様子を見て、ゾロは眉間に皺を寄せる。
ナミのやつ、何考えてんだ?
昨日のは、まさかおれの夢か?
そりゃマズイ。
立ち直れねぇぞ。
サンジは、昨日の夜中ふと目が覚めて、
夕方に仕込んでいたスープの様子を見るため、キッチンへと向かった。
明かりが漏れているのを見つけて、
もしやまたネズミ共が冷蔵庫を漁っているのか、と
気配を消しながらキッチンに近づいた。
しかしそこにいたのは、ゾロとナミ。
ナミさんと何話してやがるクソマリモ!と思いつつ、
サンジは扉に耳を押し当て、会話を盗み聞いた。
『好きな人は?今いないの?この船に』
ナミさん何聞いてんのー!とサンジは内心大慌てだった。
ゾロがナミを想っていることは、同じ男としてすぐに気付いていた。
まぁあんな美人に惚れないほうがおかしいけどな、と納得はしていた。
とりあえずゾロが今、どんな返事をするのかが気になった。
ナミの気持ちにも、サンジは気付いていた。
いつもナミを追っているこの目は、
ナミが誰を追っているのかも、哀しいことに誰よりも早く気付いてしまったのだ。
そんなナミの、今の発言。
遠まわしながらも、充分な告白と言ってよかった。
さすがのゾロも、気付いたはずである。
クソ剣士、ここで逃げたら男がすたるぞ。
でも言っちまったら、あいつら晴れて両思い・・・。
でもナミさんにとってそれが幸せなんだ・・・。
サンジが心の中で葛藤しているうちに、ゾロが口を開いた。
『・・・・・いる』
『・・・だれ?』
『お前』
中の様子は見えないけど、
ガラにもなく顔を赤くしているゾロの姿と、嬉しそうなナミの笑顔は、
容易に想像できた。
・・・・ちっ
スープの確認は諦めて、サンジは男部屋へと足を戻した。
愛しい女性の、笑顔のために。
で、翌日。
ナミはやたらにサンジに話しかけてきた。
ゾロの隣にも座らず、目すら合わせていない。
サンジには、それがナミの照れ隠しなのだと分かっていたが、
かと言って、気を遣ってゾロに話を振ってやるなどと、そこまで人間はできていない。
腹いせとばかりにナミと楽しく談笑する。
女心の分からないゾロの殺気まがいの視線は、さっきから感じていた。
いつもなら『何見てやがる!』くらいは返すのだが、今回ばかりは完全無視。
ざまーみろ。
心の中で(敗者とはいえ)ガッツポーズをして、サンジはナミと話し続ける。
「剣士さん、どうしたの?」
「あぁ?」
いつもナミの座る位置・ゾロの隣に、今日はロビンが座っている。
さっきから不機嫌オーラを出しているにも関わらず、
ロビンは平然とゾロに話しかける。
「御機嫌斜めね」
「・・・・・・別に・・・」
「コックさんと話してるのが、そんなに嫌?」
にっこりと微笑みながら言ったロビンの言葉に、
ゾロは飲もうとしていたグラスを落としかける。
「・・・・・っ!な、何が・・っ」
「分かりやすいのね、貴方」
ふふ、とロビンが笑う。
「航海士さんもそんな意地悪しないで、素直になればいいのに」
ロビンはナミにも笑いかける。
顔をこちらに向けたナミとゾロの目が合うが、
ナミはすぐに俯いて目をそらしてしまった。
「・・・意地悪なんて、別にそんな私は・・・」
「恥ずかしくて剣士さんと目も合わせられないなんて、可愛いのね」
「べっ、別に恥ずかしいなんて、何のことよっ!」
「隠さないでいいのよ?」
ロビンの言葉にナミが動揺を隠せないでいると、
その様子にロビンは意味深に微笑む。
「・・・・ロビン、・・・見てたの昨日!!?」
「・・・・てめぇ・・・・」
ロビンの笑顔の意に気付いたナミが、
顔を真っ赤にして立ち上がる。
ゾロも悟って、ロビンを睨みつける。
「あら、私は不審な音がしたから、見張りの仕事として調べただけよ」
「・・・・やだもう!!何考えてんのよ!!!」
「大丈夫よ、すぐ『目』は消したから。そんなに見てないわ」
「あーん!!だからキッチンなんてイヤだったのよーー!!ゾロのバカーー!!」
ナミは崩れるように椅子に座り、机に突っ伏して泣き叫ぶ。
「なっ、何がだよ!お前だって嫌がってなかったじゃねぇか!!」
「だってあの時は嬉しくて別に気にならなかったんだもん!」
「おれだってそんな場所考えてる余裕なんざなかったんだよ!!」
「あーもう、キッチンなんて当分マトモな顔でいられない!!」
一連のやりとりを見ていたサンジの顔が、だんだんと引きつってきた。
「・・・・・・・お前らあの後何したんだーーー!!!!!!」
「あぁ!?てめぇも覗いてたのか!!」
「ちょろっと聞こえただけだ!オイ!さっきの会話は何だ!!」
「うるせぇ!てめぇにゃ関係ねぇ!!」
「関係ないことあるかぁ!神聖なキッチンで、おれのナミさんに何をしたーー!!」
「お前のじゃねぇ!!」
とりあえず泣くナミ、
つかみ合ってケンカするゾロとサンジ。
そしてそれを微笑ましく見守る、この騒ぎを起こした張本人、ロビン。
そんな輩と少し離れて、ウソップとチョッパーは、
本当、ここで何しやがったあいつら・・・、とうんざりとテーブルを見下ろすしかなかった。
ちなみに、
騒ぐ3人の皿からどんどんと料理が消えていくことに気付いたのは、誰一人いなかった。
おまけ。
「なぁナミ、昨日のは夢じゃねぇよな?」
「・・・・夢じゃないわよバカ」
「そりゃよかった」
「・・・・でももうキッチンは嫌よ!!」
「あぁ、・・・ここならいいんだろ?」
「・・・・・・まぁ、ここなら・・・うん」
さらにおまけ。
「ナミさぁーーーん・・・あんな筋肉マリモのドコがいいんですかぁ・・・・」
泣きながらキッチンのテーブルに突っ伏すサンジ。
「・・・・・・」
フンフンと鼻を鳴らして、テーブルの上を匂ってみる。
「・・・・っておれは変態かぁ!!くそぅマリモめ!!今に見てろ!!」
一人寂しく己のボケにツッコミしつつ、
サンジは打倒ゾロを心に刻んで、固く拳を握り締めた。
「ゾロナミ←サンジで嫉妬ゾロ」
11/4に掲示板でリクくれた安季さま!
あんまりロビンちゃん参戦してません・・・。
がふっ。
こんなもんで・・・すんません!
キッチンで何したんだろうね?(笑)
2005/11/21
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