奪。






11月10日、23時50分。

あと10分で、日付が変わる。


大事なあの人に、その日一番に『おめでとう』と言える。
一年に一度しかない、大切な一瞬。



あと10分で、日付が変わる。

・・・・・・・。



いまだ、待ち人来ず。




















次の見張り番のロビンに下から呼ばれて、
ゾロは目をこすりつつ見張り台から下りた。



 「ごめんなさい遅れて」

 「あぁ」

 「あ、コックさんが、コーヒーを用意してくれてるわ」

 「はいよ」





そのままウトウトしながらキッチンに向かったゾロは、
入ってすぐに『酒』と告げた。



 「大人しくコーヒーを飲め」

 「ちっ、シケてんなぁ」

 「うるせぇ」



それでも、段々と気温の下がってきたここらの海域での夜の見張り後では、
さすがにゾロと言えど体は冷えていた。

サンジの淹れたコーヒーを、ゾロは文句を言いつつも美味そうに飲む。




 「そろそろ見張り番、夜中の差し入れもしねぇとなぁ・・・」

 「ふーん、見張りでもねぇのになお前」

 「おれの仕事だからな」




夜の見張り番には、サンジは常に夜食を準備している。
春や秋などは、飲み物と食事の準備だけして寝るのだが、
夏場は冷えた飲み物、冬場は温かい飲み物と食事を用意するのが、サンジの仕事だった。
別に食事がぬるくなっていても、クルーたちが文句を言うことは無い。
だが見張りをする人間にきちんとした差し入れをすることが、サンジのコックとしてのプライドだった。

蒸し暑い夜には冷たいお茶を。
凍える夜には温かいスープを。





今メリー号が進んでいる海では、夜は大分空気が冷たくなってきている。
サンジは見張りのロビンのために、新しくコーヒー豆を挽く。

ゾロはそんなサンジの手つきをぼんやりと見ながら、自分のコーヒーをすする。









ふと、サンジが手を止めて、キッチンの時計を見上げた。





 「おう、おめでとうゾロ」

 「・・・・あ?」



くるりとゾロに向き直り、にかっと笑いながらサンジは言った。
何のことか分からず、ゾロは首をかしげる。



 「今、日付変わったぜ。誕生日だろ」

 「・・・あーーそうか。ありがとう」



短針と長針の重なった時計を見上げ、ゾロは日付を思い出したようで、
サンジに礼を言った。



 「おれが一番だな」

 「あぁ」

 「へへっ」



何故か嬉しそうにサンジが笑ったので、ゾロもつられて口元で少し笑う。



 「まぁ今夜は酒ガンガン出すからな、今はコーヒーで我慢しろ。おかわりいるか?」

 「あー、そうだな。貰っとく」



そう言ってゾロが差し出したカップを受け取ろうとした瞬間、
サンジは妙な殺気を感じた。


ガバリと顔を上げて、キッチンの窓の外を見ると、
そこには、じっとりと中を睨んでいるナミの姿があった。




 「・・・・・・・・・ナ、ナミさ・・ん・・・・・・?」




汗をダラダラ流しているサンジに気付いて、ゾロも座ったまま窓を振り返り、
ナミの姿にビビって机が大きな音を立てた。



 「ナミさん・・・どうしたの・・・?そんな怖い顔しちゃって・・・?」

 「ナミ・・・・?」

 「・・・・・・・」

 「ナミさん・・・?」




険悪な表情で2人を睨みつけたまま、ナミはキッチンへと入ってきた。





 「サンジくんのバカ・・・・・・」

 「へ?」

 「私が一番に言うつもりだったのに・・・・・」



ボソボソと呟くナミの言葉の意味が分からず、サンジとゾロは顔を見合わせる。




 「一番・・・?・・・って、あ・・・・・・」

 「サンジくんのバカ・・・・・」



サンジはようやく思い至って、ヤベ、と顔を引きつらせる。


先程自分がゾロに言った言葉。
ナミはおそらく、女部屋でゾロを待っていた。
見張りを交替して、日付変更直前に戻るはずだったゾロを、
自分がここに引き止めた挙句、一番に『おめでとう』と言う権利さえ奪ってしまった。

ナミの恨みがましい視線の意味を、ようやくサンジは理解した。




 「ご、ごめんねナミさん。悪気があったわけじゃ・・・・」

 「大体何なのよ・・・夜にコーヒーそんなに飲ませて、見張りの後に目ぇ覚ましたって意味無いじゃない・・」

 「・・・・・あ、うん、そうだね・・・・」

 「おいナミ」



ナミの言葉に、サンジは寂しそうに笑い返す。
ゾロが口を挟もうとするが、ナミは聞こうとしない。



 「見張り終わった人間、早く寝かせてあげようとか思わないわけ?」

 「・・・うん、ごめんね・・?」

 「それにゾロは私の恋人なんだから、誕生日だって知ってるんなら
  少しは気を遣ってくれてもいいんじゃないの?
  そんなに自分の淹れたコーヒーを人に飲ませたいんだ?」

 「ほんと、ごめんね」



興奮しているのか、普段とは違うナミの冷たい暴言に、
サンジは腹を立てる風でもなく、ただ笑って謝る。





 「大体サンジくんっていっつも・・・」

 「ナミ!」



突然ゾロが怒鳴り、ナミは体をこわばらせた。

その声が、怒気に満ちていたから。



 「てめぇ、何言ってるか自分で分かってるか?」

 「お、おいゾロ、いいから」

 「よくねぇよ!!お前はちゃんと仕事してるだけだろ。
  それをあんな言い方されて、黙って謝ってんじゃねぇよ!」

 「いいんだよ!」

 「よくねぇ!!!」



ゾロが大声を出すたびに、ナミは体をビクリと震わせる。

サンジはそんなナミをおろおろと見つつ、ゾロを宥めようとするが、
ゾロは怒りのこもった目でナミを睨んでいた。
ゾロがナミにこんな顔を向けることなど、滅多にどころか、一度も無かった。





 「今日はお前んとこにはいかねぇ。じゃあな」

 「おい、ゾロ・・・」

 「お前も来い」




ゾロはサンジの肩を掴んで、一緒に男部屋に引っぱって行った。



男部屋からは、ゾロの怒鳴り声に気付いてウソップが顔を出していた。



 「おい、どうした?何かあったのか?」

 「何もねぇよ」



恐る恐る聞いてきたウソップに、ゾロは機嫌悪く返事をして、そのまま男部屋に降りた。
サンジも仕方なく後に続く。







ウソップが気になってキッチンに行くと、
そこには呆然と佇んでいるナミがいた。



 「おいナミ、どうしたんだ?何かゾロの機嫌が・・・・」



ゾロ、という単語を出した瞬間、
固まっていたナミがぼろっと涙をこぼした。



 「お、おい!ナミ!?」

 「サンジくんのバカ・・・・ゾロのバカぁ・・・」

 「ナミ・・・・」



ウソップはどうしていいか分からず、ただ泣きじゃくるナミの隣に立っていた。












 「おいゾロ・・・・・」

 「・・・・・・・」



男部屋で、むすっとした表情でゾロはハンモックに転がっていた。
ソファに座ったサンジの呼びかけも、無視している。


サンジは、2人が喧嘩してしまったのが自分のせいだと自覚があるので、いたたまれなかった。
先程のナミの暴言も、感情が昂って思わず口に出ただけのことで、本心ではない。
そんなことは充分理解している。
ゾロが自分の代わりに腹を立ててくれた事は嬉しくないわけではないが、
そのためにナミが哀しむのは、見ていて辛かった。
キッチンから出る直前に見たナミの顔は、今にも泣き出しそうだった。




 「ゾロ」

 「・・・・何だよ」

 「いいのかよ」

 「・・・何が」

 「・・・誕生日だろ」

 「・・・・・」



その言葉に、ゾロはピクリと反応する。



 「今日一日、喧嘩したままでいいのか?」

 「・・・・」

 「おれは気にしてないから。・・・ナミさん、ずっと待ってたんだよ。」

 「・・・・」

 「行けよ、な? 泣いてるぞきっと」

 「・・・・」

















ゾロが男部屋から出ると、ちょうどウソップが戻ってきた。



 「お、ゾロ・・・」

 「・・・・あいつ、まだキッチンにいるか・・?」

 「あぁ、今お前呼びに行こうと思ってたんだ。・・・謝りたいってさ」

 「・・・・・あぁ」

 「あいつも悪気あったわけじゃないし、サンジも分かってるだろ」

 「・・・あぁ、おれも分かってるよ」

 「じゃ、な」

 「面倒かけたな」












キッチンに入ると、ナミは座っていた。
おそらくウソップが淹れてやったのだろう、前のテーブルにはコーヒーの入ったカップが置いてあった。
だが、中身は減っていないようだった。





 「・・・・ナミ」



ゾロの声に、ナミはゆっくり振り向いた。
目は真っ赤になり、頬には涙の乾いた後が残っていた。



 「・・・・・」



ゾロはそのまま無言で、ナミの正面の椅子に座る。
斜めに椅子に腰掛け、ナミとは目を合わさない。
ナミも俯いていたが、気まずい沈黙の中で話し始めたのはナミだった。




 「・・・・さっきは、ごめんなさい・・・・」

 「・・・・・あぁ」

 「・・・・何か、訳分かんなく・・なっちゃって・・・」

 「・・・・・・あぁ」

 「・・・・怒ってる・・・?」



素っ気無い返事しか返さないゾロを、ナミは泣きそうな顔で見つめる。
ゾロは視線だけをナミに送る。

目が合って、ナミの泣きそうな顔を見て溜息をついた。
腕を伸ばして、ナミの頭をわしわしと乱暴にかき混ぜる。



 「・・・おれじゃねぇだろ」

 「・・・・うん・・・」

 「ちゃんとコックに謝れよ」

 「・・・うん」

















数分後、ゾロと一緒に男部屋へ下りたナミは、
サンジに深々と頭を下げながら、謝った。


いいんだよ、と優しく笑うサンジに、ナミはまた泣きそうになり、
慌てたサンジとウソップにまたもや慰められることになった。




そして一緒に女部屋に戻るゾロとナミの後姿を、サンジは複雑な思いで見つめていた。

ナミへの申し訳ないという気持ち、
そして、自分でも分からない、何故か寂しい気持ち。


それでも、ゾロの誕生日に、
ゾロと、そしてナミが笑っていてくれればいい。
そう思って、サンジは改めてロビンへの夜食のためにキッチンに戻った。




「サンジに『おめでとう』を先越されるナミ」
11/3にメルフォでリクくれた郁さま!
・・・あれ?サンゾロ!?
思いっきりサンジ→ゾロじゃん!!!
でも、でも、決してサンゾロにはなりませんよ!
こんなオチですが、どうでしょうか・・・。

オチが・・・尻切れだ・・・・。
ナミさん視点にするはずが、すっかりサンジくん視点。
うぅむ。
リクはどっちか言えば『サンジ&ゾロ←ナミ』な感じだったのに、
『サンジ→ゾロナミ』になってるなぁ・・・。

2005/11/23

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