看。
本日、11月11日。
ゴーイングメリー号のキッチンでは、
剣豪殿の誕生日を祝して、盛大なパーティーが開かれていた。
いつもと騒がしさはそう変わらないのだが、
料理の品数や手の込みよう、酒の量が、
一応お誕生日仕様となっている。
クルーたちはワイワイ騒ぎながら食事や酒に手を伸ばしているが、
当の剣豪、ロロノア・ゾロは、どうも浮かない顔であった。
「ちょっとゾロ、あんた今日の主役なんだから、少しは盛り上がりなさいよ。照れてるの?」
「いや・・・別に・・・」
ナミが冗談めかして隣に座るゾロを睨む。
ゾロは、ぼんやりとした表情でぼそっと言葉を返した。
「・・・なんか、さっきよりテンション下がってるわよ・・・?」
「そうか・・・・?」
「ていうか、あんたちょっと」
うっすら充血しているゾロの目を覗き込んで、ナミはゾロの額に手を当てる。
「やだ!熱あるじゃない!!」
慌ててゾロの額から手を離し、もう一度しっかりと押し当てる。
「熱・・・?」
「そうよ、めちゃくちゃ熱いわよ!?」
2人のやりとりを聞いて、他のクルーも食事の手を止めゾロを見る。
「ゾロが熱!?」
「な、何だ!?どっかケガでもしてたのか!?」
「つーか普通に風邪じゃねぇのもしかして」
「マリモが風邪引くなんざ、世も末だな」
「うるせぇなてめぇら・・・・」
それぞれ好き勝手に言うクルーたちを、ゾロはギロリと睨む。
だが熱を帯びてトロンとした目では、何の迫力もない。
「いや本当珍しいけど、これ結構あるってば・・!!」
「わっ、本当だ!!」
チョッパーがゾロの額に触れ、ナミと同じように驚いて手を離す。
「本格的に風邪引いてんじゃねぇかてめぇ」
「誕生日に風邪引くなんて、お前も大変だなぁ・・・」
「残った肉はおれが食ってやるから心配すんなよ!」
「喉痛いとか、鼻が出るとかないか?」
とりあえずルフィの発言は無視しておいて、
チョッパーはぴょんとゾロの隣の椅子に飛び乗って、
首筋に手を当てたり、口を開けさせて喉を覗く。
「いや別に・・・何か頭がぼーっとする・・・」
「そりゃそうよ!こんだけ熱あるんだもん!」
「とりあえず、ゾロは部屋に戻って寝ろ!おれ薬準備してくるから」
そう言ってチョッパーはキッチンから飛び出して行った。
「ゾロ、行こ?立てる?」
「あぁ・・・」
ナミがしっかり寄り添ってゾロを立たせ、2人は女部屋に戻った。
「主役が抜けちゃ話になんねぇな・・・お開きにすっか」
「えーーー!!!まだ食い足りねぇ!!!」
「ルフィ、お前ゾロが心配じゃないのか?」
ゾロの残した肉を虎視眈々と睨んでいたルフィは、猛然と抗議した。
それにウソップが呆れていると、ルフィはししし、と笑った。
「ゾロなら大丈夫だ!チョッパーがいるし!何より、ナミがいる!」
それを聞いてサンジとウソップは互いに顔を見合わせ、
仕方ない、と溜息をついた。
「・・全く、しょうがねぇな。まぁ勿体無いし、とりあえず食うか。
ナミさんとチョッパーの分は別に取るからな」
「おう!」
「おれは風邪引きマリモのメシを作り直さねぇとな・・」
「38.4度」
「・・・それ、高いのか?」
体温計を睨んで呟いたチョッパーに、ベッドに横になったゾロは不思議そうに声をかける。
「当たり前だ!何でもっと早く言わないんだよ!」
「・・・悪ぃ・・・」
いつものチョッパーからは想像もつかない、ものすごい剣幕で怒鳴られて、
ゾロはたじろぎながら謝った。
「とりあえずコレとコレ、すぐ飲んで。
熱が全然引かないようなら、この薬を1錠。ナミ、分かった?」
「うん、大丈夫」
枕元に椅子を出して座っていたナミに、チョッパーは錠剤を渡しながら説明する。
「じゃあ、大人しく寝てるんだぞ。ナミがいるから大丈夫だと思うけど・・・また様子見に来るから」
「しっかり見張っとくから、大丈夫よ」
「分かってると思うけど・・・酒、呑むなよ!!」
「・・・・・へーへー」
ちっ、という表情で、ゾロはチョッパーが出て行くのを見送った。
「・・・・まったく、早く言いなさいよね。やせ我慢しちゃって」
チョッパーが出て行ったあと、ナミはゾロの頭に濡らしたタオルを乗せながら言った。
「浮かれてるところ、邪魔すんのもなぁ・・」
冷たさが気持ちよかったのかゾロは目を閉じて、呟く。
「主役はアンタなんだから、関係ないでしょ。黙ってて倒れられるほうがタチ悪いわよ。
心配するコッチの身にもなりなさい」
「・・・悪かったよ」
「・・・分かったら、大人しく寝てなさい」
「おう・・・」
「おーい、おかゆ・・・・」
サンジが盆を抱えて女部屋へと下りると、ゾロの寝息が聞こえてきた。
「あ、サンジくん」
「寝てんの?」
小声で聞きながら、サンジはベッドに近づく。
「うん、やっぱ結構しんどいみたい」
「こいつも人並みに風邪なんか引くんだなぁ」
「ほんとね」
いつもより2割り増しで眉間に皺の寄ったゾロの寝顔を覗き込んで、
サンジはしみじみと呟いた。
「あ、ナミさん、これおかゆとリンゴ。起きたら食わせてやって。
さっきロクに食ってなかったし、腹は減ってると思うから」
「ありがと、そこ置いといて」
サンジの差し出した盆を受け取らず、ナミはテーブルを目で示す。
「・・・・・・・・あー・・・、了解」
最初サンジは気付かなかったが、ふと目を下ろして、理解した。
ナミの手は、ゾロの手としっかり繋がっていた。
離さないのはナミか、ゾロか。
「・・・ま、風邪っぴきに免じて今日は見逃してやろう」
「あはは」
「・・・・・・まだいたのか・・・・」
目覚めたゾロは、すぐにナミに気付き、掠れた声で言った。
「あら、離さなかったのは誰?」
そう言ってナミは、繋がった手を少し持ち上げる。
気付いたゾロは苦笑する。
「・・・お前じゃねぇの」
「お互い様よ」
気付いてもなお、2人とも手は離さない。
「まだしんどい?」
「ちょっと、ラクになった・・・ような・・・」
「熱、少し下がったからね。おかゆ食べる?サンジくんが作ってくれたよ」
「あぁ・・・」
ナミに手伝ってもらい、ゾロは体を起こした。
「つーかさ・・、お前あんまココにいるとうつるぞ」
自分で食べれる、と言うゾロを無視して、
ナミはゾロの口元におかゆを一口ずつ運ぶ。
「あんたの隣は私の指定席なんだから、私にうつって当然よ。
それに、人にうつせば治るって言うじゃない」
そうナミは平然と言ってのけた。
「・・・お前にうつして治ったって、意味ねぇな」
「何でよ」
不満そうに睨むナミに、ゾロは笑いかける。
「すぐにお前からまたうつる」
「・・・・・・・・あら、私が風邪引いても、こんな風に手握っててくれるの?」
「・・・・・お前が離さねぇからなぁ」
「だーから、お互い様だってば」
後日、本当にナミにうつしてすっかり治ったゾロは、
ナミに「しんどい!!」と恨み言を吐かれながら、つきっきりで看病する羽目になった。
「誕生日に風邪引くゾロと看病するナミの甘い話」
10/20に拍手でリクくれた方。
甘いと思ってください(笑)。
私にうつして治せばいいと言っておきながら、
実際うつされるとムカついてるナミさん・・・。
2005/11/18
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