小さな町だった。
1週間前に獲った海賊の賞金もまだ大分残っていて、この町で別に稼ぐ必要はなかった。
とりあえず、酒だ。
そう思ってぶらぶらと歩いていった。
しかし活気の無い町だ。
観光地ではないようだから仕方ないかもしれないが、
地元の人間の活気が普通もう少し溢れてるもんだろう。
そう思ったが、自分には関係ないことだった。
手っ取り早く港に一番近いバーを選んで入ると、やはり客はいない。
人の気配はするから、おそらく店主は奥にこもってるんだろう。
カウンターに座って、刀を脇に置いた。
 「おい、酒くれ」
声をかけると、奥から足音がした。
 「めずらしい、お客さんだ」
姿を現したのは酒場にはふさわしくない、少女といってもおかしくないせいぜい15,6の女だった。
『少女』と言ったが、そういう自分もまだ16だが。
 「酒、何か適当にくれ」
少女は慣れた手つきで酒をグラスに注いだ。
 「・・・お前が店主なのか?」
 「ここは父の店。でも今はあたしが店主、かな」
 「そうか」
さして追求もせずに、出されたグラスを飲み干した。
このあたりの海ではよく出会う酒だ。悪くない。
 「もう1杯」

 「お兄さん、剣士なの?」
 「ああ」
少女は興味深そうに3本の刀を見つめていた。
 「刀3本で・・・腹巻、黒い布」
少女はさらにまじまじと見つめてきた。
 「もしかして・・・あの”海賊狩り”の・・・・ロロノア・ゾロ?」
 「海賊狩りってわけじゃねぇが・・・おれの名前はロロノア・ゾロだ」
 「・・・・本当に!?本物!?・・・・すごい!!!」
何がすごいんだか、少女は目を輝かせて手をたたいた。
 「ロロノアさん!!あたしも剣使うんだよ」
 「へぇ・・・見えねぇな」
普段ならバーに入って店主や女に話しかけられても適当に流しているが、
今日は何故か会話を続ける気になった。
 「父が剣士でね、兄とあたしにも教えてくれたんだ」
 「親父さんは、今」
 「・・・もう死んだよ、兄もね」
 「そりゃ・・悪かった」
 「ううん、いいの。・・・・・ロロノアさん」
 「ゾロでいい」
 「・・ゾロ、どうして海賊狩りをやってるの?」
少女は新たに酒を注ぎながら聞いてきた。
 「・・別に、やってる気はねぇよ。周りが勝手に言ってんだ」
 「・・そうなの?」
 「生活費稼いでるだけだ。修行だよ。世界一の大剣豪になるための」
 「今でも充分強いんじゃないの?」
少女の言葉に、グラスを一気に飲み干して答えた。
 「・・・・あの男を倒さねぇと、世界一にはなれねぇ」
 「・・・倒したい相手がいるんだ・・・」
少女は一瞬顔を引き締めたように見えた。
 「お前もいるのか?」
うつむき加減になった少女に尋ねた。
 「・・・うん。・・・父と、兄のね、仇なの」
 「仇討ちか」

 「この町、元気ないでしょ?昔は違ったんだよ。
  でも3,4年前に海賊が町の港に来て・・・散々荒らしてったんだ」
少女は無理な笑顔で話し出した。
 「この町が、何か気に入ったらしくてさ、居座ってるんだよ。今もね」
海賊に支配された町。
 「そいつら、めちゃくちゃするヤツらでね、まぁ海賊だから当たり前なんだけど、
  女子供、年寄りも容赦しないんだ」
あぁ、なるほどな。それで親父が・・・・
 「父は我慢できなくなって・・・・。父はね、町で一番の剣士なの。
  負けたことなかったのよ。でも・・・あいつら、結構強くてね。
  懸賞金もそれなりの額がかかってたみたい。・・・・結局、負けちゃった」

殺された町の人間、乱暴された女子供。
向かっていった父。
その仇をとるために、2年前に兄も同じ行動をとって、・・・そして、負けた。

 「家族の仇を討つために・・・・あたし、ずっと修行してるんだ。
  今のあたしなら、あの頃の兄よりも、父よりも強いと思う」
少女は自分にもグラスを出してきて、飲んだ。イケるクチらしい。
 「あいつらね、そろそろ此処を出るらしいんだ。
  こんな状態の町じゃ、居てもあんまり意味ないもんね」
 「へぇ・・・よかったじゃねぇか」
 「・・・・だから、あたしは行かないと」


無謀なことを。
この少女が、海賊連中に勝てるほど腕がたつとは思えない。
おそらく父親と、兄と、同じ運命を辿るだろう。
 「町を出るんならもういいじゃねぇか」
死ににいくのか。
 「決めたんだ。父に、仇をとるって、約束したんだ」
少女は笑う。
 「死にに行くんじゃないよ。でも死ぬ覚悟はできてる」
少女はお互いのグラスに酒を足し、自分のグラスとこっちのそれをカチ、と合わせた。
 「今日で店、たたむつもりだったんだ。あなたが最後のお客だよ、ゾロ。
  今日、”海賊狩りのゾロ”と出会えたのはきっと運命だね。
  ・・・・明日、討ちに行く」
何も言う気はなかった。
少女の決めた道だ。他人がどうこう言うものではない。ただ・・・・
 「生きて帰ってこい」
グラスをあわせ、お互い一気に飲み干した。


宿が無い、と言うと、
少女は自分の家を提供してくれた。










ベッドに横になっていれば、ふと扉から明かりが漏れてきた。
 「・・・どうした」
上体を起こして見ると、少女が思いつめた表情で立っていた。
 「明日、討ちに行くの」
 「・・あぁ」
 「お願いが、あるの」
少女はゆっくりと近づいてきた。
 「あたしはずっと父に剣を教えられてきて・・・ずっと強くなりたいと思ってきた。
  父と兄が死んで、自分ひとりが生き残って・・・・・自分が女であることがずごく嫌だった」

   『ゾロはいいね・・・男の子だから』

 「あたしがもし男だったら、もっと強く、強くなって、
  父も兄も、町の皆も死ななかったかも・・・って」

   『女の子は世界一にはなれないんだって・・・』

 「でもね、女に生まれたのが悪いことだとは思いたくない。
  女でよかったって・・・思いたいの」
少女はベッドのすぐ傍までやってきて、顔を伏せた。
 「だから・・・・、あの・・・・」
少女の頬に触れると、身を固くするのが伝わってきた。
 「本気か?」
 「・・・あたしはあなたに憧れてた。強くて、海賊を狩ってくれる人。だから・・・・」




















 「あたしが目的を達成できなかったら、ゾロがあいつらを狩ってくれない?
  賞金もかかってるし、・・・・・約束ね?」

隣で目覚めた少女は、冗談でも言ったかのように明るく笑って、
自分の刀を手に、出て行った。









数時間後、家を出ると、町の空気が違っていた。
・・・・血の匂い。
小さい町だ。騒ぎが起こればすぐに気配で分かる。

辿っていくと、少女はいた。









親友と同じように悩みを抱き、
しかし親友と違う思いも抱いていた少女。
自分と同じ、決意を胸にしていた少女。


決意を果たすことなく、その生を終わらせた少女。




町の住民は、動かない少女を囲んで、嘆いていた。

どうして。
あいつらは今日町を出て行くつもりだった。
なのに、何故、わざわざ。
















海賊どもはまとめて町に置いていった。
 「きちんと弔ってやってくれ」
町の復興の足しにもなるだろう。
住民はおれの行動に驚いていたようだったが、
少女の事を言っているのだと気づくと、大きく頷いた。






仇討ちは、好きじゃねぇ。


初書き。
ショボくて涙が出るわ・・・。
涙でキーボードが見えないよ!!(爆)
やっぱり人の作品読むのが楽しいなぁ・・・・(ページの存在意義消滅的発言)

2004/02/12

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