過去拍手・其の三十五 (2010/09/05〜2010/11/29)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 038〜040


038:不意打ち


気持ちの良い、春の近付いた甲板で。
デッキチェアに寝転んで、テーブルの上にはおいしいドリンク。
表紙買いして当たりだった小説を広げて、時折青い空を見上げながらのんびりとした午後を過ごす。
空も海も平穏で、敵の気配もなし。
そうなると、いくら小説が面白くても眠くなってくるのは当然で。

そうして開いたままの小説をくるりと裏返して腹の上に置いて、ゆっくり目を閉じた。
視覚が遮断されると聴覚がやたらにするどくなって、眠いはずなのに船の上の音がやけにはっきり聞こえてくる。
キッチンで料理する音。
少し離れた場所でどたばたと走り回っている音。
それから、ダンベルの上下する音。
あぁ、いつもの船だ。
そう思って安心して、だんだんと眠りに落ちていく。

意識を取り戻してしまったのは、そんな安心するいつもの音が聞こえなくなったからで、
さらに言えば聞きなれた足音が近づいてきたからだった。
でも目を開けることはできず、ただ意識だけは徐々にはっきりとしていった。

その足音はデッキチェアの横でぴたりと止まり、その足音の人物がこちらを見下ろしているのが分かった。
目を開けて「何?」と聞けばいいのだろうが、何かしらの興味が湧いてきて、じっと目を閉じ寝た振りを決め込んだ。
その人物は離れていく気配は見せず、ただ無言で見下ろしながら立っている。

それからふと、顔に影が差すのを感じた。
目は開けなかった。
だが分かった

あぁ、キスされるな。

それでもまだ目を開けずにいると、唇に降ってくるかと思われたキスは、ちょんと鼻の頭に落とされた。
そのあとすぐに、その人物が小さな声で告げた。

「寝たフリしてんじゃねぇぞ」

パッと目を開けると、その人物は既にこちらに背を向けて歩きだしていた。
なんだか悔しくなったので、体を起こすとその背中「意気地なし」と言ってやった。

「うるせぇ、後でな」

振り返りもせずにそう答えたのでまた腹が立って小説を投げつけてやろうかと思ったけど、
続きが気になるのでそれはやめて、「バーカ」とつぶやくだけにしておいた。


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某詩集より、2月7日。



039:ゆらゆら揺れる


新しい船には大きな浴場がある。
クルーも増えて入浴の順番が回ってくるのに時間がかかるのもあるが、
この大浴場をみんなが楽しんでいるから、いつも余計に待ち時間が長くなる。

ナミのこの日の順番は最後のほうで、本来なら女性陣は優先的に最初に入浴をするようになっているのだが、
うっかり日誌を書くのに夢中になって他のクルーに譲っていたらこんな時間になってしまった。

後半とはいえ、お風呂のお湯は十分に温かい。
ナミは扉を開けて中に入ると、シャワーを浴びて頭や体を洗う。
湯船につかる前に、ナミはいったん外に出ると小さな容器を持ってまた戻った。
風呂の明かりを消し、それを持ったまま湯船につかる。

容器の中は淡い色のロウソクが入っていて、甘い香りとともにゆらゆらと炎を揺らしている。
ナミはゆっくりと、それを水面に浮かべた。
プカプカと揺られながら、それは暗い浴場にぼんやりとした明かりでナミの体を照らしていた。

ナミは目をつぶってクンと鼻を鳴らしアロマの香りを吸い込むと、フフと笑う。

「たまにはいいわよね、こういうのも」

そう呟くと同時に、浴場の扉が開いた。

「遅かったわね」
「そうか?」

ゾロは裸のまま入ってくると、ナミと同じように髪や体を手早く洗うと、湯船に入ろうとする。
だがふとその中に浮いているものに気づいて動きを止めると片眉を上げた。

「入っていいわよ、ゆっくりね」
「なんだそれ」
「アロマキャンドル。お風呂に浮かべて使うの」
「ふぅん」

ゾロはそれを沈めてしまわぬようゆっくりと自分の体を沈め、水面に揺れるロウソクの炎が散った。

「たまにはこういうムードも、いいでしょ?」
「まぁ、な」

そう答えると、ゾロはザブザブと音を立てながらナミの背後に移動する。
お湯が波を起こして、ナミは慌ててロウソクが倒れて沈まぬように容器を両手で支えた。

ナミを背後から抱きかかえるような位置について、ゾロはようやく落ち着いたのかふーっと息を吐いた。

「ゆっくりだってば。沈んじゃうじゃない」
「縁にあげとけよ。沈むぞ」
「沈むようなことしないで」
「する」


結局風呂に浮かべるロウソクは、数分後には浴槽の外に出されていた。


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某詩集より、2月8日。



040:溶かすもの


「うー、寒い寒い。サンジくんあったかいの何かちょうだい!」

ナミがそう言って自分の体を抱きしめながらキッチンに入ると、そこにはサンジではなくゾロがいた。
ゾロは小さなカップのお茶をすすりながら、入ってきたナミのほうに首を向ける。
黒いコートを羽織ったナミの肩や髪には、白い雪が積もって固まっていた。

「雪か?」
「うん、急に降ってきた。サンジくんは?」
「倉庫に食材調達。これ飲むか、とりあえず?」
「飲む」

ナミは鼻の頭を赤くして、差し出されたカップを両手でそっと握りしめる。

「何、中国茶?」
「八宝茶だと。よくは分からん」
「ふぅん?」

とりあえず体が温まれば何でもいいと、ナミはそれ以上は聞かずにゆっくりと一口飲んで「おいしい」とつぶやく。

「あー、溶けそう」
「本当に溶けてるぞ」

そう言って、ゾロは笑いながらナミの頭や肩の雪…凍って氷になっていたが溶け始めているそれをはたいて落とした。
ナミはそれに今気付いたのか少し驚いて、「雪だるまになるとこだったわね」と笑った。
それから小さく「あ、」と呟いてパチパチと瞬きをする。

「どうした」
「ほら、睫毛も凍ってた。湯気で溶けちゃったけど」
「どれ」

自分を見つめてくる女の濡れた睫毛をベロリと舐めて、「本当だな」とゾロは笑った。


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某詩集より、2月9日。


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