過去拍手・其の三十四 (2010/02/07〜2010/09/05)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 035〜037



035:しもばしら

ざくざくざく。

地面の上の霜柱を、音を立てて踏み壊す。
靴の底から伝わる妙な感覚を味わいながら、少しずつ移動してざくざく壊す。
朝早い公園にはまだ人気は無い。
近くの狭い道路にもあまり車が走っていないから、ざくざくという音が名に響く。

『サンジってさ、結局ただの女好きでしょ?』
『いい人だしかっこいいから付き合ってもいいかなって思ったけど、さすがにちょっとね(笑)』
『だって、高校入ってからアタシで何人目?』
『だからごめんね、別れよ』

そんな言葉を電話口で残して、彼女はあっさり通話も二人の関係も終わらせてしまった。

確かに女の子は大好きだけど。
それでもおれはいつだって本気だったんだよ。
それなのに『(笑)』ってあんまりじゃね?

心の中でそう叫びながら、ざくざくざくざくざくざくざくざく霜柱を壊し続ける。

今度の彼女も、1週間で破局だ。
じわりと視界が滲んできて、何かもうおれだめだーと呟いた。

ざくざくざくざく。

これでは傍から見たら、「ちょっとアヤシイ人」以外の何者でもない。
一人きり、だったら。


「なぁ」

ざくざくざくざく。

「学校行こうぜ。寒ぃ」

ざくざくざくざく。

「マジ風邪引く。置いてくぞ」

背後でそう言う友人は、自分が薄着してるくせに風邪引くとか言いながら、おれの奇行を眺めているんだろう。
おれは返事をせずにざくざくざくざく壊し続ける。
チッという舌打ちが聞こえて、友人の足音が離れていくのが分かる。
それでもおれは振り返ることはせずに壊し続ける。
朝イチの電話で起こされて呼び出されて、クソ寒い公園でのウサ晴らしに付き合わされて。
愛想尽かして置いてくのが普通だろう。
だがおれは知っている。
おれの親友は、おれを置いてなんかいかないってことを。

「おい」

戻ってきた足音と、それからその声にようやく足を動かすのを止めて振り返る。
同時に放り投げられた缶コーヒーを上手くキャッチし、手袋ごしに伝わる温もりを無言で味わう。

「…そっちのメーカーんがイイ」
「…あーもう」

そう言いながら、友人は自分が蓋を開けようとしていたコーヒーを放ってきた。
受けとって、先程の缶を投げ返す。

カシ、と蓋を開け、お互い無言でそれを飲む。
お礼は言わないし、向こうだって恩着せがましい言葉を言うことはない。
無言のままで、二人とも飲み干した。

「何でおれいっつもこうなんかな」
「ま、お前の場合自業自得ってのもあるよな」
「でもおれ、女の子大好きなんだよ」
「知ってる」
「おれちゃんと将来結婚とか出来んのかな」

友人はおれの飲み干した缶を取ると、自分のと二ついっぺんに少し離れたゴミ箱に放り投げた。
どちらも外れることなく、見事にストライクだった。

「見つかんだろ、そのうち」
「…お前ってさー、おれのこと大好きだろ」
「寒さで頭壊れたか。ほら、学校行こうぜ」

露骨に嫌そうな顔をした友人が面白くて、おれはクックッと笑った。

「もう踏むとこも残ってねぇだろ」
「……そう、だな。行こか」

見渡す範囲の霜柱は、おれの両足によって踏み潰されている。
先に歩き出した友人の後に続いて、最後にざくりと音を鳴らして隣に並ぶ。

「あーあー、おれもナミさんみたいな彼女欲しー。てかナミさんがいいー」
「やらねぇよ」
「あーあー」

はー、と白い溜息を吐きながら、明るくなりはじめた空を見上げる。
釣られて顔を上げた友人が、今朝見たのであろうテレビの情報をポツリと呟いた。

「明日からあったかくなるらしいぜ」
「ふーん…」

友人の言葉に、もう霜柱は踏めないかなとぼんやりと思った。

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某詩集より、2月4日。


036:ご褒美タイム


自分だけのために、とっておきの豆を挽いてコーヒーを淹れる。
それから前の島で買った、チョコレート。
噂に聞いていたショコラティエの店が、その島にも新たにオープンしていたのだ。
一箱に3粒しか入っていないのにあのお値段。
だがそれに見合うだけの見栄えと味は保証されている。

テーブルにそれらを並べて、席につく。
夕飯の後片付けも終えた。
見張りの夜食も食べさせた。
朝飯の仕込みも完璧。
そしてこれから。
月に一度の、御褒美タイムだ。

カップを手に取り、香りを楽しむ。
さぁ一口…というところで、キッチンの扉が開いた。

「あ」
「…ナミさん」

彼女はテーブルの上のチョコレートとコーヒーを目に留める。

「まだ起きてたんだナミさんww コーヒー飲む?すぐ淹れるよ!」
「あ、いーのいーの。お酒一本もらえれば」
「でも、チョコもあるよ?」
「だってそれ、サンジくんのご褒美でしょ?」
「…………し、知ってた、んだ?」
「うん。何回か見たから。今月は今日だったんだねご褒美タイム」
「はは…お恥ずかしい」

彼女は棚からワインを一本とグラス2つを取ると、くるりと振り返った。

「サンジくん、チョコ好きだったんだ?」
「え?うん。でもおれが一番好きなのはナミさんだよww」
「はいはい」

呆れたように笑って、彼女は扉に手をかけた。
それからふと思い立ったようにまたこちらを振り返る。

「じゃあ、今年のバレンタインは手作りしようかな?」
「マジで!!!!」
「気が向いたら、だけどね!」

無邪気な笑顔を残して、彼女はキッチンから出て行った。

彼女と一緒に過ごせたならば、それが一番のご褒美だったんだけどなぁと苦笑いして、
ご褒美タイムはゆっくりと始まった。


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某詩集より、2月5日。



037:プレゼント


「ねぇ何が欲しい?」
「何もいらないわ、ありがとう」
「次の島まで大分あるけど、着いたら一緒に買いに行こうよ。服?アクセサリー?本?」
「パーティーしてくれるだけで十分よ、私は」
「でも誕生日よ。何かあげたいの」

芝生甲板に置いたテーブルとチェアに、二人は並んで座っている。
テーブルの上にはサンジの用意した紅茶とスコーン。
比較的暖かな日の、午後のお茶の時間だ。
ロビンは広げた本のページを時折めくりながら、
テーブルに伏した状態で自分を見上げてくるナミにフフと笑いかけた。

「あなたがおめでとうって言ってくれるなら、それだけですごく嬉しいわ」
「でも私はもっと嬉しくさせたいの」

ロビンは本当に欲しいものなどなかった。
洋服やアクセサリーは特に必要としていなかったし、
本も前の島で大量に購入した。
それに誕生日など今まで祝ってもらった覚えなど無いから、
こうして仲間の共に同じ舟でその日を迎え、なおかつパーティーの準備までしてもらっている。
ただそれだけでも、ロビンにはこのうえなく幸せなことなのだ。

だがナミはしつこく食らいつく。
ナミはナミで、仲間の誕生日を祝えることが嬉しかった。
それにロビンは船で唯一の同じ女性。
そんな彼女へのプレゼントを選ぶ行為自体も楽しいのだ。

「高くても奮発するわよ?」
「本当にいいの」
「ねぇ、何か考えて」
「……そうねぇ、それじゃあ」
「なになに」

懐いてくる子供のようなナミに、ロビンにほんの少しのイタズラ心が働いた。

「ゾロを、一日私に貸して」
「………え?」
「私の好きに」
「……ロビン、ゾロのこと、好き、なの?」
「えぇ」

もちろん、ナミが尋ねた意味での「好き」ではない。
だが仲間として人間としてなら、答えは「好き」だ。嘘にはなっていない。
ロビンはすぐに冗談だと言おうと思っていた。
ついつい可愛い女の子は苛めたくなってしまうのだ。
だが口を開こうとした瞬間、ナミの顔を見て固まってしまった。
ナミは耐えるようにかすかに震えながら、はらはらと涙を流していた。

「ナ、ナミちゃん」
「ロ、ロビンが、ゾロがいいなら、わ、私」
「ナミちゃん、ナミ、冗談だから、ね? 泣かないで」
「一日なら、私」
「大丈夫だから。そういう意味の好きじゃないのよ。冗談なの、ごめんね」
「ほ、本当に? 我慢してない?」
「本当に本当に。泣かせるつもりはなかったのよ、ごめんなさい」

ボロボロ我慢泣きするナミを、ロビンは必死に慰めた。
頭を撫でられながら冗談だと説得され、ナミはようやく泣き止む。
ごしごしと目元をこすりながら、ちらりとロビンを見つめた。

「…本当に、ゾロいらない?」
「えぇ、大丈夫よ。祝ってくれるだけで十分。ほら、顔洗ってきたら?」
「ん……」

ナミは立ち上がり、鼻を啜りながら女部屋への階段へ向かった。
ちょうど男部屋から出てきたゾロが、ナミが泣いているのに気付いて顔をしかめた。
階段の途中で足を止めたナミは何か説明をし、それから部屋へと入って行った。
甲板に出たゾロが、いつものように眉間にシワを寄せた顔でテーブルのほうへと近づいてくる。

「ケンカか?」
「ちょっと意地悪しちゃったの」
「あんま苛めてくれんな。お前の前だと精神年齢下がるんだ、あいつ」
「えぇ、ごめんなさい」

ゾロが軽く笑って、キッチンへの階段を登っていく。
途中でふと立ち止まり、片手でテーブルの上を指差した。

「夜は豪華らしいぜ、あんま食うなよ。コックがやたら張り切ってっから」
「えぇ。分かったわ」
「誕生日おめでとう」
「…ありがとう」

その姿を見送りながら、ロビンはフフと笑う。

「…『冗談』は、もったいなかったかしら?」

ナミが戻ってこないのを確認したうえで、ロビンはこっそりと呟いた。


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某詩集より、2月6日。


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