過去拍手・其の三十三 (2009/11/11〜2010/02/07)
某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 032〜034
032:届く
見張り台から見下ろすと、風呂上りの剣士の姿が見える。
タオルを首にかけた男の体からはほかほかと体から湯気が立っていて、一人だけ夏のような格好だ。
どこから取ってきたのか、酒瓶を片手に持って時折口をつけてあおっている。
「ゾロ」
小さな小さな声で、呟くように呼んでみた。
高いこの場所からは、いくら静かな夜とはいえ波や風の音に吸い込まれてしまうはずだ。
だがゾロは、顔を上げた。
「何だよ」
よく通る声で、無愛想にそう返事をしてきた。
「何が」
「今呼んだろ」
「……呼んでない」
「………あ、そ」
ゾロは空耳と自分で判断したのか、そのまままた酒瓶に口を付けながら歩き出す。
男部屋への入り口の手前に立ったところで、今度はもっと小さな声で呼んでみた。
最早口にすら出ていない、空気のような音。
「だから、何だよ」
扉に手をかけようとしていたゾロは、うんざりとした様子でまた顔を上げた。
無言で首を振って、返事代わりにする。
「……次は無視するぞ」
ゾロが扉を開けたところで、今度は心の中で叫んでみた。
少し遅れて、溜息とともに扉を開けたままゾロがこちらを見た。
じろりと睨んできたが、こちらが引かないのを見ると呆れたようにまた溜息をついた。
「何なんだてめぇは」
意味ありげな笑顔を返すと、怪訝そうなゾロはそのまま男部屋に下りて行った。
届いたこと、ただそれだけが嬉しかった。
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某詩集より、2月1日。
033:日常
「ウソップ、ちゃんと行ったか?」
見張りを終えてキッチンへと入ってきたゾロに、サンジはそう声をかけた。
「半分寝てたぜ」
「まぁ、上で朝飯食ったら起きんだろ。てめぇもさっさと座れ」
ゾロは大きなあくびと共に、素直にテーブルについた。
すかさず目の前に湯気の立つスープの入った皿とスプーンが置かれる。
「これ昨日のか」
「文句言うな」
「いや、よく残ってたな」
この船において料理が余るなんてことはありえないので、昨晩と同じようなスープを目にしたゾロは素直にそう尋ねた。
「てめぇらの差し入れ用に取っといたんだよ。作り置きってヤツだ」
サンジはパンをカゴにいれて、それもテーブルに置いた。
「あとで長っ鼻にもあっためて持ってく」
「あの様子じゃ、寝てっかもな」
「…キノコでも入れるか…」
サンジはゾロの向かいに腰を下ろすと、2つあるカップの1つにコーヒーを注ぎ、自分の前に置いた。
ゾロに目で尋ねてから、もう一つにも注ぐ。
「……何つーか、平和だな」
「てめぇに最も似合わねぇ単語だなそりゃ」
「海賊のくせに、昨日の作り置きを今日食えるとかって、平和じゃねぇ?」
ゾロはそう言って、いただきますと手を合わせてからスープを飲み始めた。
「一晩経っても美味ぇもんだな」と呟いて、今度はパンにかぶりつく。
「……そうだな」
確かに平和そのものだと思いながら、サンジはゾロが頬を膨らませて食事をする光景を見つめていた。
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某詩集より、2月2日。
034:込める
上陸した島の小さな文具店は、その日が閉店セールの最終日だった。
ナミは当然喜んでそこへ入り、消耗品を安値でゲットしてほくほくだった。
インクやペン先以外にも紙の束を買っていて、チョッパーは「それは何だ?」と尋ねた。
「折り紙とか、和紙よ。 安かったから買っちゃった」
ナミは笑顔と共に、テーブルの上にそれらを並べた。
色とりどりの折り紙に、淡い色合いの和紙、薄いさらさらとした紙やツルツルの紙。
「綺麗だな!」
「でしょ? メモでもいいし、封筒にもなるわよ」
「封筒?」
「こうやって折って、ここを糊で留めて」
ナミは紙の一枚を取って、器用に折ってみせる。
チョッパーの目の前で、ただの紙だったそれは立派な封筒へと変わった。
「チョッパーも作る?」
「いいのか!?」
「手紙を出すとき、こういう封筒だと素敵でしょ?」
それから二人は色んな紙を選んで、色んな封筒を作り上げた。
どれも違う色で、どれも違う手触りで、どれも違う出来栄えだった。
「綺麗だなー」
「上手に出来たわね」
「これが一番の出来だ!」
チョッパーは自信作の一つをナミに掲げてみせる。
ナミはにっこりと笑って、自分の自信作を手に取る。
「一番綺麗に出来たのを、誰にあげるか考えるのも楽しいわよね」
淡い緑色の和紙で出来た封筒を手にしたナミは、チョッパーに「ね?」と声をかける。
そう言われて、チョッパーは自分の封筒をじっと見てから、ナミに満面の笑みを返した。
その日の午後、チョッパー自信作の封筒は、手紙と共にナミの元に届けられた。
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某詩集より、2月3日。
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