過去拍手・其の三十二 (2009/07/03〜2009/11/10)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 026〜031



026:くちぶえ


口笛をふく。
どこで聞いたかは忘れてしまったが、だが何故かラインを覚えているメロディ。
波音に消されてさほど遠くまでは届かないが、船の上のクルーたちの耳にはその曲は響いている。
「ナミさんは音楽の才能もおありだ!!」「口笛ならおれだってうまいぞ」とサンジとルフィがやりとりするのが聞こえて、クスリと微笑んでまた続きを吹く。

「あんまやるなよ、それ」
いつのまにか隣に立っていたゾロが、手すりに背もたれて呟く。
吹くのをやめて、手すりに両肘をついて組んだ手に顎を乗せ、何でと尋ねる。
それからまた吹いた。
だが唐突にふさがれた唇に、音も息も閉じ込められた。
すぐに解放はされたが、飲み込まれた音は出てこない。
「……なに」
「迷信があるだろ」
「夜に吹くと蛇が出るってヤツでしょ、それは」
「そういう言い方もある」
「何なのよ」
「他所で吹かなきゃ問題ねぇよ」
ニヤリと笑って、ゾロが言う。
「…じゃあ、あんたの前でならいいのね?」
同じように笑い返して、わざと短く吹く。
再び音が飲み込まれる

今度は随分と長い間、解放されなかった。


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某詩集より、1月26日。


027:手


「マッサージしてあげようか」
そう声をかけると、ゾロは静かに笑った。

ゴツゴツとした、筋張った手。
爪は元々キレイだったが、今でも私がきちんと切り揃えている。
だが、長い指には過酷な修行のせいで古いタコの痕がいくつもあり、
指先から腕にかけて小さな傷は数え切れないほどにある。

この男は、これまで、この手で握る刀で、
どれだけ戦ってきたのだろう。
どれだけ人を斬っただろう。
どれだけ命を奪っただろう。

どれだけ、守ってきただろう。

シワも増えて、カサついた頬にその手を寄せる。

私はどれだけ、この手に救われただろうか。


「……あんまり、ケガしないで」
「…努力する」
「私を、守らなくていいから」
「…惚れた女も守れねぇで、大剣豪になれるかよ」



そう笑った、いつかのゾロを思い出す。


「じゃあ私のためには死なないって、約束して。 私のために生き延びて」
「…あぁ」



私も、あんたも、たくさん生きたね。
約束、守ってくれてありがとう。

もう刀を握ることのないその手を、私は優しく包んだ。


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某詩集より、1月27日。


028:ふかふか


休日の朝から部屋中をキレイに掃除して、ぽかぽかのお日様の下でふかふかになった布団を取り込む。
枕も毛布も、洗い立ての真っ白なシーツも、全部が太陽の匂いがする。
ベッドの上にふっくらと整えて、飛び込みたい衝動をぐっとこらえる。

一段落してさぁティータイム、と思ったところで形態が鳴る。
帰ってきたと彼からの電話。
予告をしないのは彼なりのサプライズか、それともそんな暇も無かったほど必死に作ってくれたお休みなのか。

慌てて支度と整えて玄関へ向かって、だがふと足を止める。
ふかふかの布団へ、いってきますと声をかける。

悔しいけど、あそこへ一番に飛び込む権利は彼にあげよう。


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某詩集より、1月28日。


029:山のうえ


山が大好きで、山と共に生きた彼の姿を見ないようになって、もう何年経っただろう。
おれは死なないと笑って彼はいつも言っていて、私もそれを信じようとして、
実際彼はどんな状況でも生き延びてきたから、十分に信じられる言葉だったのだけど。
彼が誰かを救助するたび、彼の背中で誰かの命が終わるたび、彼が誰かの動かぬ姿を見つけるたび、
次は彼の番なんじゃないかと不安になった。
戻ってきた彼の笑顔に安心はしても、不安は決して消えることはない。
私が別れを告げたとき、彼は悟ったように、
自分は山に生きる男だけど、お前はそうじゃないからと、少し眉を下げて笑った。
あのとき私は彼に付いていくことは出来なかったし、彼に山を捨てろと言うことも勿論出来なかった。

今、窓の外の冬山を望むたびに、あそこに行けばひょっこりと彼が下りて来るんじゃないかと思う。
彼はあの山が好きだったし、きっと居るだろう。
いつか彼に会いに、山に登ってみようか。

彼が山を捨てられないように、私にも、いまだに捨てられない想いがあるから。


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某詩集より、1月29日。


030:シロップ


「どうしたルフィ」
「あの雲、うまそうだなー」

小さな船の上に寝転び、ぼんやりと空を見上げていたルフィは、そう答えて勢い良く空へと腕を伸ばした。
だがその手は何も掴むことはなく、バチンと音を立てて元の場所へと戻ってくる。

「いくらなんでも届かねぇだろ」
「あーーー腹減ったーーー」
「気持ちは分かるけどな。 つーか食糧なしとか有り得ねぇだろ」
「はっはっは」
「笑って誤魔化すな」
「なー、シロップとかかけたらうまいかな」

呆れるゾロに構わず、ルフィは相変わらず空を見上げている。

「あ?」
「雲」
「うまいっつーか…そもそも水だろ?」
「カキ氷だって水だ」
「まぁ…な。 …要はシロップ水になんのか…?」
「不思議水か、いいな!!」

ルフィはにししと笑ってもう一度、腕を思い切り伸ばす。
結果は同じだったが、ルフィは諦めきれずうーんと唸った。

「いつか空に行ったら、食おう」
「死んだら行けるぜ」
「そっか」
「まぁこのまま遭難してりゃ、近いうち行けそうだがな」
「はっはっは」
「いやだから笑い事じゃねぇよ」

それでもなおルフィは笑って、また腕を伸ばす。

ぐんぐん伸びるそれを見上げながら、こいつならいつか本当に雲に届きそうだとゾロはぼんやりと思った。


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某詩集より、1月30日。


031:存在


「おれさ」

死ぬまで言うつもりなんてなかったんだ。
嫌な思いをさせたくないし、気を遣わせたくない。
友達でいられなくなるのも、嫌だった。
いっそ嫌ってくれればすっきりするのだが、その後自分がどうなってしまうのかが怖かった。

「好きなんだ」

それなのに言ってしまったのは、耐えることに耐えられなくなってしまったからで、
こいつの口から出るあの人の話を聞くことに耐えられなくなったからで。
勇気を出す、なんて偉そうに言ってみても、結局そんな自分の弱さのせいだった。
『その日』を待つ死刑囚のように、この想いを絶てる日をずっと待っていて、
でも待つ時間が苦しくて、最後には自分でそれを終わらせた。

だから、あいつを悩ませたり苦しめたり、あんな風な顔をさせたかったわけじゃ、なかったんだ。

もう戻れない。

お前、全然知らなかったろ?
親友のフリ、完璧だったろ?
結局壊してしまったけど、演技には自信がある。
これからだって、完璧に、ただの友達を演じてみせるから。

だからどうか

おれの気持ちを『否定』しないで。


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某詩集より、1月31日。


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