過去拍手・其の三十一 (2009/05/11〜2009/07/02)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 021〜025



021:遠回り


道を歩いていて、ふと足を止めた。
この角を真っ直ぐ行けば、ゾロの家だ。
10分もかからない場所にある。
さっき駅を出るときに電話をしたから、ゾロは家で待っているはずだ。
だけど、少し考えてから右に曲がってみた。
家に行くのをやめたわけではなく、ただ、少し見てみたくなったのだ。
ゾロが見ているかもしれない景色を。
迷子癖のあるゾロは、駅から自宅への道ですら時折迷う。
普通では考えられないが、当人にも何故曲がる場所を間違えるのか分からないらしい。
だからきっとこの道も、ゾロは何度も間違って曲がっているはずだ。
一軒家、小さなアパート、古ぼけた喫茶店、ラーメン屋…。
特別に面白いものがあるわけではないけど、ゾロがここを迷子になっているのかと思うと、
何か目印を探してあげたくなる。

まぁ、教えたって迷子になるんだろうけど。

一人でクスクスと笑いながら、のんびりと遠回りして歩き続けた。



「遅かったな」
「ちょっとね、迷子になってたの」
「あぁ?」


=============================================
某詩集より、1月21日。


022:回り道


この10分、無言になってしまったゾロの後ろを、同じように無言で付いていく。
さらに数分して、ゾロがぴたりと足を止めて振り返った。
「…すまん、迷った」
改めて言わなくても分かってるわよ、という言葉はさすがに飲み込んだ。

たまにはお洒落な店に行きたい、と何の気なしに呟いた私の愚痴のために、
友達の友達がやっているというカフェをわざわざ調べてきてくれたのだが、
かれこれ1時間、いまだに辿り着けないでいる。
ゾロの迷子癖にはもう随分と慣れてきたし、ゾロ自身も普段は気にしていない。
だがこの日は、自分が案内すると言った手前何だか申し訳無さそうな顔をしていた。
なかなか見られない、珍しい顔だ。
くすりと笑って、ゾロの手を取る。
「こういうデートもありじゃない?ある意味ゾロらしいわよ」
指を絡ませて手を繋ぎ、隣に並ぶ。
私の機嫌が悪くないことを知って、ゾロが安心したのが分かる。
「ほら、あそこのケーキ屋さん美味しそう! 迷ったおかげで発見できたのかもよ?」
少し歩いた先の四つ角で、左に曲がった所にある店を指差す。
「………てか、あの店だ…」
「………」
さすがに絶句する。
この四つ角は先程から何度も通過しているのに。
しかもあんな分かりやすい、いかにも・なカフェの外観なのに。
「……いや…何か……、悪ぃ」
「ここまでくるとゾロ、あんたって本当…」
「だから悪ぃって」
「…私ケーキ3個食べるからね。高くても知らないわよ」
「喜んで奢らせて頂きます」

私のために、慣れない場所の美味しい店を調べてきて、それなのに迷子になっちゃうかわいい人。
でも次は事前に場所や店名を教えておいてね。
3個も食べたらさすがにカロリーオーバーだわ。


=============================================
某詩集より、1月22日。


023:キセキ


「奇跡よね」
「何が」
「あんたと私が、地球上で出逢ったこと」
「意味分かんねぇ。えらい大袈裟な話だな」
「同じ時代に同じ国に生まれて同じ学校に通って出逢うこと。ほら、奇跡」
「それなら、同級生は奇跡の出逢いばっかじゃねぇか」
「そうだけど、あんたは違うじゃない」
「何が」
「同じ時代、同じ国、同じ学校…それで、お互い好きになってこうして一緒に居るのよ」
「……ふーん」
「初めて好きになった人と、もしもの話だけど結婚して死ぬまで一緒に居たら、やっぱりすごい奇跡の出逢いでしょ」
「おれらが死ぬまで一緒に居たら、奇跡なのか」
「まぁ、うん」
「えらい簡単な奇跡だな」
「……『簡単』って、簡単に言っちゃダメよ。明日には別れてるかもしんないのに」
「おい」
「それは冗談だけど…もし違う学校とか違う国だったら、出逢わなかったかもしれないのよね」
「…それでも出逢うのが、奇跡ってヤツなんじゃねぇの」
「……出逢ってたと思う?」
「おれと逢ったのは、奇跡なんだろ?」
「……あんたって、時々ロマンチストよね」
「うるせぇ。お前が言い出したんだろ」


=============================================
某詩集より、1月23日。


024:知らないフリ


私は卑怯者だ。
彼の気持ちに気付いてて、知らないフリをした。
自分の都合のいいように振舞って、それでも彼は笑っていたから、
それが何だか哀しくて腹が立って、さらにまたフリを続けた。
自分のことは棚に上げて、言えばいいのにとイライラした。
でもどうしても言えない彼の気持ちも理解できた。
今までその手にしていたものを失ってしまうのは、怖い。
告げることと引き換えに失うものは、あまりにも大きくて、愛しすぎた。
自分も彼と同じなくせに、生まれ持ったものの違いだけで優位に立っている気になっていた。
あの人はおそらくそんな事は気にしない。
でも唯一それだけが彼と私の圧倒的な違いだったので、私はその事実と彼のモラルと優しさにしがみついて、
そして知らぬフリをし続けたのだ。
こんなズルい女には、彼の告白を、彼の勇気を羨む資格なんて無い。

両手で包んだ温かい缶のカフェオレは、彼がいつも私に買ってくれていた。
彼は温かいココアで、私はカフェオレ。
あの人はブラックを飲みながら私たちの姿を見て、苦笑していた。

彼は今、一人でココアを飲んでいるんだろう。
私は何も言うことはできない。
ただ、彼が一人冷たく泣いていませんようにと祈るだけ。


=============================================
某詩集より、1月24日。


025:おしおき


脱衣所で体を拭き、白いタオルをくるりと体に巻いたところで、携帯電話が震えた。
画面を確認して、ボタンを押す。
「もしもし?」
「お前、今どこだよ」
「知らない」
「…いい加減、機嫌直せ。どこにいんだよ」
「だから、知らない場所。駅もどこだか忘れちゃったー」
「……おい」
「で、適当に銭湯に入ったら美人のお姉さまと友達になって、湯上りコーヒー牛乳おごってもらったところ」
同じようにバスタオルを巻いた黒髪の美女から、コーヒー牛乳のビンを受け取り、笑顔を返す。
電話中だが、構わずゴクゴクと一気に半分飲んだ。
「おーいし!」
「……早く帰ってこい」
「いやよ。もう遅いから、そのお姉さまが今晩泊めてくれるって」
「おい…その女、その…大丈夫なのか?」
「いい人よ。あんたには関係ないでしょ」
「…なぁ…、悪かったって。帰ってこいよ」
「……明日の夕方までにはちゃんと帰るわ」
「………」
「もちろん帰ったら、花束とケーキとプレゼントが用意してあるわよね? じゃあね!」
「おい―――」
返事は聞かずに、ブチっと電話を切った。
電源も切ってやろうかと思ったけど、さすがにそれはやめておいた。
バッグの中に放り込んで、小さいタオルでポンポンと髪の水分を取る。
「いいの、帰らなくて?」
「いいのよ、結婚記念日忘れる男なんて放っとくに限るわ」
「本当はそんなに怒ってないんでしょ」
「……うん、まーね。 ついでにふらーっと出てみたくなっただけ」
「帰る? 泊まるのは構わないけれど」
「ううん、あいつがどんな準備するか楽しみだから、今日は泊まらせて?」
「じゃあ、今夜はワインパーティでもしましょうか」
「賛成!」


=============================================
某詩集より、1月25日。


拍手/NOVEL/海賊TOP

日付別一覧

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送