過去拍手・其の二十九 (2008/09/29〜2009/01/18)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 011〜015



011:距離


例えば車だったら、6時間。
新幹線なら2時間半。
飛行機なら1時間と少し。

逢おうと思えば逢えるけど、逢いたいときにすぐには逢えない。

離れた距離がもどかしくてひどく不安にもなるけれど、
空気の澄んだ静かな夜に、耳のすぐ傍で受話器越しに声を聞きながら、
同じまん丸な月を見上げて他愛も無い話をする。

そんな時間を幸せだと愛しく感じられるなら、
遠距離恋愛も悪くないかなと思う。


でもまぁ、やっぱり逢いたいので早く帰ってきてくれればいいなと毎日思うのだけれど。


=============================================
某詩集より、1月11日。


012:ひかりをあびる


「おはよう、ゾロ」
「………ぉう……」

ナミが声をかけると、ゾロは起きる事を静かに拒否するようにごそごそと布団に包まって、
だが努力して小さな返事を寄越した。


それは毎朝の光景であった。

幼馴染の2人は物心ついた頃から一緒に居て、
小学5年生になったあたりから、朝にゾロを起こすのはいつの間にかナミの仕事になっていた。
高校生になった今でも、それは変わっていない。

何年も幼馴染を起こし続けてきたナミは、
だからゾロの寝つきの良さと寝坊癖については、その両親以上に知っていた。

この日もナミはゾロの母親に挨拶をしたあと、2階へと階段を上りゾロの部屋に入る。
3つセットされた目覚ましはどれも見事にストップされており、
携帯電話のスヌーズだけがいつもと同じように無意味に振動していた。
それを止めて、ナミはゾロに声をかけながらカーテンを思いきり開ける。
意外にも整頓されている部屋の中に一気に明るい太陽の光が差し込み、
ゾロはそれから逃れるように体をよじりながら、それでも起きようとはしない。
当然ナミの方も、相手がこんなことで素直に起きるとは思っていないので、
カーテンをくるくると纏めたあとで、ベッドサイドにしゃがみこむ。
一応返事はしたのにしっかりと目を閉じたゾロの顔を、横からじっと覗き込む。

この寝てばかりの幼馴染への想いが恋心だと自覚したのは、一体いつからだったろうか。

はっきりとは覚えていないが、ゾロを起こすのが恒例になってからしばらくして、
こうして寝顔をじっと見つめることもまた習慣になっていた。

まだ彼女の居ない(らしい)幼馴染のこんな姿を見れる女は、きっと自分だけだろう。
いつか終わりが来るのだろうけど、それまではこの特権を存分に味わわせていただこう。
まだ『幼馴染』から抜け出す勇気は、持てない。

まっすぐな視線を送っているにも関わらず相変わらず目を覚まさないゾロにほっと安心して、
ナミは手を伸ばすと、男の鼻を抓んで塞いだ。

「起きなさいゾロ、朝だってば」
「………」
「枕で窒息したいの?」
「………」
「布団剥ぐわよ?」
「…………起きる……」

ようやくゾロはごそりと体を起こし、眠そうなぼんやりとした目をナミに向ける。

「おはよ、ゾロ」
「……はよ……」
「じゃあ私は戻るからね」
「…ぉう…」

軽やかに立ち上がると、スカートの裾を翻してナミはゾロの部屋から出て行った。


本日の幼馴染特権、お終い。
今日も一日頑張ろう!


=============================================
某詩集より、1月12日。


013:ぬくもりを、きみに


「ちゃんと髪も拭いてね」
「うん」

振り返ると、風呂場から出てきたサンジは貸してやった大きめのスウェットの上下を着ていた。
綺麗な髪からぽたりぽたりと雫が落ちるのを見て、ナミは苦笑する。
キッチンから離れてサンジの前に立つと、その首からタオルを取ってごしごしと髪を拭いてやる。
サンジはその動きに合わせるように首を前に倒して、されるがままに立っていた。
ある程度水分が取れたところで、ナミは手櫛で金髪を軽く整えて、それからにこりと微笑んだ。

「座って、あったかいスープ作ったから」
「うん」

キッチンのテーブルに着いて、サンジはナミが鍋から皿にスープを注ぐのを無言で見つめる。

「本物のコックさんには物足りないと思うけど」
「ナミさんの手料理だったら、どんな高級料理も適わないよ」
「あら、いつもの調子に戻ったわね」
「…そう?」

ナミはそうよと笑って答えて、サンジの前に皿を置いた。

ほかほかと柔らかい湯気が立つスープは、大きめにカットされた野菜がごろごろと入っていて、
豪華さや派手さは無いが、美味しそうな香りを漂わせていた。
透明なそれにスプーンをくぐらせて、サンジは一口すする。

「美味いよ、ナミさん」
「そうでしょう、愛情たっぷりだからね」
「本当に? 本気にしちゃうよおれ」
「出来ないくせに」
「………」

返事の出来なかったサンジは正面に腰掛けたナミに気まずそうな笑顔を見せて、またスープを口に運ぶ。

「私はね」
「うん」
「私はサンジくんが大好きだから、傷ついてほしくないの」
「………」
「だから、今日みたいに雨の中でびしょ濡れになる前に、私のところに来て」
「……ありがとう、ナミさん」
「サンジくんの恋の相手が誰か、なんて追及はしないから」
「でも、もう知ってるんだろ?」
「明日会ったらぶん殴っちゃうくらいには、知ってるわ」

視線を合わせた2人は、それから声を揃えて笑った。


=============================================
某詩集より、1月13日。


014:月


「今日の月はまん丸だね」
「そうだな」

電話の向こうの女がそう言うので、窓際に移動してカーテンを少しだけ開けた。
この部屋の窓から見える月も女の言葉どおりに丸くて、なぜだか笑顔になった。

「ちょうど満月だな」
「そっちも丸い?」
「当たりまえだろ」
「ちゃんと見えてる?」
「あぁ」

よかった、と耳元で小さな声が聞こえて、
その声が妙に寂しそうだったので名前を呼ぼうとしたら、女の方が先に口を開いた。

「私も見えてる」
「…そうか」
「これから、欠けていくんだよね、この月」
「あぁ」

見上げる夜ごとに形を変える月を、浮気と称したのは誰だったか。

バカらしい。

「同じ月だろ」
「え?」
「おれが見てるのも、お前が見てるのも、同じ月だ。何も変わんねぇよ」
「…そう、だね」

受話器越しに、クスクスと笑う声が聞こえた。

「そうそう、こないだね、ルフィたちと出かけたときに――」

それから聞こえてくる声は楽しげで、おれはいつものようにただ相槌を打っていた。


何度か満月を迎えたら、きっと隣同士で月を見上げることが出来るから、
だからそれまでは、こうして声を聞いてお前を想おう。


=============================================
某詩集より、1月14日。


015:ちから


「決めたの?」
「決めた。今日、言うわ」
「そう」
「玉砕したら、慰めてね」
「もちろん…と言いたいところだけど、そんな心配いらないと思うわよ?」
「……ロビンはいつもそう言ってくれるけどさ、私全然自信無いんだけど」

そう言って不安げに眉を下げる彼女の姿は本当に可愛くて、
知らず零れた笑みに彼女は子供のように唇を突き出した。

「玉砕したら、我儘言いまくってやるからね!
 あーーもう、怖い! ダメだったらこれからどうしよう!!」
「じゃあこのまま、ただの仲間のままでいいの?」
「……それも、イヤ」

小さいが、はっきりとした返事にまた笑顔を返す。
頬を紅潮させたままの彼女は、よしと呟くと立ち上がり扉へと向かった。

「――あぁ、待って、ナミ」
「え、何? どっか変?」

彼女は振り返り、買ったばかりの可愛らしいワンピースや、
いつもより丁寧にセットした髪へと慌てて手を動かした。
その姿にまた頬を緩めながら、立ち上がり自分の棚の引き出しを静かに開けた。
中にあった黒い箱を開け、目的のものを取り出すと彼女の正面へと歩み寄る。

「……なぁにコレ、きれい」
「そんなに高いものではないけど…今のあなたに似合うと思うわ」

言いながら、彼女の髪色と同じ色の石のついたブローチを、その胸に丁寧に留めた。

「これって、めのう?」
「えぇ、オレンジアゲートよ」
「お守りね、ありがと」
「行ってらっしゃい」
「うん、何か勇気出た! 行ってきます!」

彼女はブローチを握り締めるように胸に手を当て、笑顔と共に部屋を出て行った。


彼女がこのあと戻ってくるときは、きっと今以上の綺麗な笑顔を見せてくれるだろう。
それを思うと自分のことのように嬉しくなって、私の心もまるで彼女のように高鳴るのだった。

=============================================
某詩集より、1月15日。



拍手/NOVEL/海賊TOP

日付別一覧

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送