過去拍手・其の二十八 (2008/07/06〜2008/09/28)

某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 006〜010



006:おなじかおり


「あ、もう無くなったか」

サンジは一人そう呟いて、シンクの下の扉を開けた。
右隅の奥に何個か積み上げられている小さな箱の一つを取り出して、封を開ける。
その中のさらに包みを開け、白い石鹸を取り出した。
真新しくさらりとしたそれを片手で持って、鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。
女の子が喜びそうな綺麗な色が付いたわけでも、良い香りがするわけでもない。
安物で、どこにでも売っている白い石鹸。
表面に彫られたレリーフを指でなぞって、やっぱりコレが一番だと微笑んでから、
サンジはそのまま蛇口から流れる水へと手を伸ばした。

「サンジくん、さっきのコーヒーまだ残ってる?」
「あ、ナミさん! まだあるよーww ちょっと待ってねー!」

サンジは目をハートにして、泡まみれの手のままで顔だけ振り返った。

「何洗ってるの? …石鹸?」
「清潔第一ですからね」
「そうか、そのにおいだったのね」

ナミは隣に立って、石鹸を握ったままのサンジの手に少しだけ顔を近づけた。

「サンジくんの手、いつもいいにおいがするから」
「…普通の石鹸だよ?」

ナミはにっこりと微笑んで、自分の手も水で濡らすとサンジの手から石鹸を取った。

「すごくいいにおいよ」

石鹸をなじませて、泡をからませる。

「サンジくんって感じで、安心するわ」
「……じゃあ、これでお揃いですね」
「そうね」

2人は微笑み合って、それから一緒に同じにおいの泡を流した。


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某詩集より、1月6日。


007:心を配る


「……お前が作ったのか?」
「そうよ」
「何でコックじゃねぇんだ」
「私が作りたいって言ったから」
「ふーん」

ゾロはベッドから上体を起こすと、ナミから盆を受け取り太腿あたりの布団の上に置いた。
一人用の鍋の蓋を開けると、真っ白の粥の中央に、赤い梅干の色がうっすらと見える。

「えらいサラサラだな」
「五分粥よ。今のあんたにはそのくらいがちょうどいいわよ」
「食った気になんねぇよ」
「あんたね、何日も意識失っててその間何も食べてないんだから、
 いきなり普通の食べたらおなか壊すかもしんないでしょ」
「そんなヤワな腹してねぇ」
「うるさいわね、いいから食べなさい」
「………」

ゾロは口答えするのをやめて、大人しくスプーンで白いそれを掬うと口に運んだ。

「……どう?」
「……まぁ、思ったより不味くはねぇよ」
「当たり前でしょ、美味しいはずよ」
「何で」
「愛情たっぷりだから」
「……真顔で言うか?」
「言うわよ」
「…次からは別に、他のヤツらと同じでいいぜ」
「ダメよ、私が作るわ」
「面倒だろ」

ゾロは粥を口に運び、それからナミの返事が無かったのでチラリと目を上げた。
ナミはまっすぐにこちらを見つめていて、あまりにそれが真剣な目だったから思わずゾロは手を止めた。

「……あんたが目を覚まさない間、私がどんな気持ちだったか分かる?」
「………」

もしかしてこの女は泣いていたのかもしれない。
ゾロはふとそう思ったが、彼女はそんな素振りは少しも見せないし、
もちろん涙の痕などはカケラも残してはいない。

「作らせて」
「……分かった」

泣いていようがいまいが、自分が粥を一口食べるたびにこの女が安心した顔を見せるから、
何となく傷の治りも早くなりそうだとゾロはぼんやりと思った。


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某詩集より、1月7日。


008:白いコート


前の島で買ったばかりの、白いコート。

ふわふわのコートが彼女の体をくるんで、だがスタイルの良さは少しも隠してはいない。
新しいそれに袖を通して、彼女はモデルのようにくるりと回った。

「うん、似合うよナミさん」
「ありがとサンジくん」

声をかけると彼女は嬉しそうに笑った。
彼女にそんな笑顔をさせるのは今のおれの言葉なんかじゃなくて、
例えばこれから町へ買い物に行くからだとか、
一緒に行く相手が密かに想いを寄せる男だからだとか、
前の島でその白いコートを選んだのが想いを寄せるその剣士だったからだとか、
多分そういうことなんだろうけど、それでも彼女は本当に幸せそうだったので、
おれはまぁいいかと笑顔を返すことしか出来なかった。

他の男を想って笑う彼女の顔を見れるだけで幸せだなんて、相当間抜けだとは思うけれど。


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某詩集より、1月8日。


009:伝える言葉


「あ、ネコ」
「ノラだな」

 にゃおん

「……何だ今の」
「鳴き真似」
「…全然似てねぇ」
「うるさい」
「逃げるぞ、ネコ」
「え、うそ」

 にゃおん

「……何よ、今の」
「鳴き真似」
「何であんたそんなに上手いの」
「さぁな」
「あ! ネコ反応した!! 立ち止まった!」

 にゃおん

「あ、こっち来た! 何あんた、何なの。何て言ったの」
「さぁなー」
「…何かすごい懐かれてるけど…まさかネコ語で口説いたの?」
「さぁなー」
「天然たらしのうえに、ネコたらしなのね」
「何だそれ」
「うるさい」

 にゃおん

「……逃げちゃった」
「逃げたな」
「何を言ったの?」
「別に」

 にゃおん

「……何? 今何て言ったの?? 私ネコ語分かんないわよ」
「分かんなくていいんだよ」
「………口説いたの、今?」
「さぁなー」
「もう、言うなら普通に言ってよね!!」
「誰が言うか」


真実はあの子が知っている。


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某詩集より、1月9日。<BR>


010:夜の遠吠え


「すっかり暗くなっちゃったねー冬だなー」
「お前、もう待たなくていいぞ。暗いし危ねぇだろ」
「いいもん、ゾロが送ってくれるし」
「親が心配すんだろが。お前部活入ってるわけでもねぇのに」
「ゾロが終わるの待ってるって言ってるから、大丈夫」
「大丈夫なのかソレで」
「ちゃんと送ってくれるの知ってるから、大丈夫よ」
「……ならいいけどよ」

ゾロが漕ぐ自転車の後ろに立って、冷たい風に肩をすくめたナミは暖を取るようにゾロの背中に体を寄せた。

「あんまり動くな、こけるぞ」
「だって寒い」
「そんな短ぇスカートはいてっからだ」
「それはそれ。あ、今流れ星!! 止まってゾロ!!」
「あぁ!?」

いきなりグイグイと肩を揺さぶられ、ゾロは慌ててブレーキをかけて地面に足を付けた。

「何だよ」
「だから流れ星!! 上見て!!」
「………」
「………」
「……そうそう流れるモンじゃねぇからなぁ…」

星の流れる気配の無い空を見上げて、ゾロはポツリと呟いた。

「うーん残念。でも星が綺麗ね」
「冬は特にな。明日はいい天気だ」

2人は自転車にまたがったまま、空を見上げる。
遠くで車の走る音がして、近くの家からはテレビの音が漏れてくる。
白い息が呼吸に合わせて姿を見せ、黒い夜空に吸い込まれて消えていく。
どこからか、犬の長い遠吠えが聞こえた。

「……ゾロが吠えたのかと思っちゃった」
「何でだよ」
「だって、遠吠えしてるみたいな格好なんだもん」

逸らした首を戻したナミは、変わらぬ姿勢のゾロを見下ろして笑った。

「犬扱いすんな」

ナミはくすくすと笑うと、少し腰を屈めた。
冬の風を受けて冷たくなった、少し広いゾロのおでこに、ナミの唇が軽く触れて離れる。

「忠犬ロロノアにご褒美」
「……犬じゃねっつーの」
「さぁ漕げロロノア! 家までスピードアップ!」
「命令すんな!!」

ゾロはそう叫んで、ぐんとペダルを踏み込むと冬の夜道を走り出した。


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某詩集より、1月10日。


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