過去拍手・其の二十七 (2008/06/03〜2008/07/05)
某詩集から勝手にお題拝借シリーズ 001〜005
001:スプーン
「何だソレ」
「ハチミツ」
「……直接食うモンなのか、そういうのって」
「いいでしょ、別に」
瓶を丸ごと抱えているナミを見て、ゾロは不思議そうに首をかしげる。
キッチンの椅子に腰掛けているナミは、銀色のスプーンをヒラヒラと振ってみせた。
「何かね、落ち着くの。甘くてとろけて、舌の上から口一杯に広がって、体中に沁みるみたい」
「胸焼けしそうだな」
「バカね、スプーン一杯だけよ」
顔をしかめて話を聞いていたゾロに、ナミはクスクスと笑いながらそう言った。
「何だか優しい気持ちになれるの」
「ふーん」
「食べてみる?」
ナミは瓶の蓋をあけ、丁寧にハチミツを一杯掬い上げるとゾロへと差し出した。
「―――ま、こういうのも悪かねぇな」
「……あんた、色々台無しよバカ!」
真っ赤な顔のナミとは対照的に、ゾロはニヤリと笑ってキッチンから出て行った。
差し出したスプーンは行き場を失い、果たして甘かったのは何でしょう?
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某詩集より、一月一日。
とりあえず甘く甘く…いや、甘いでしょホラ。
002:花
「ナミさーん、どうか受け取ってください!」
「あらキレイな花! ありがとうw」
「貴女の美しさの前ではどうしても霞んでしまいますが――」
「ねぇ見てゾロ、サンジくんがこんなにたくさんくれたの!」
膝をついてうっとりとしているサンジを他所に、
ナミは甲板で昼寝をしようとしているゾロへと向き直って声をかけた。
「へぇ、よかったな」
「船中に飾ってもまだたくさんね」
「……ま、コレはあんま匂いがキツくねぇからいいけどよ……」
両手一杯に花を抱えて微笑むナミに、ゾロはくんと鼻を鳴らした後で苦笑した。
「大好きな空間に花を飾るのって、楽しいわよね」
「女はそういうモンか」
「そういうモンよよ。はい、ゾロ」
ナミは嬉しそうに笑顔を見せたまま、大きな花束から1本抜き取ってゾロの膝の上に置いた。
「それじゃ、部屋に飾ってくるわ」
花を揺らしながらパタパタと女部屋へと駆けて行くナミの後姿を見送って、
ゾロは自分の足の上の花をつまみあげるとフリフリと揺らした。
彼女自身の残り香のような、ほんのりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「……何で、そこに置くんだよ」
「あぁ?」
何となく存在を忘れられたようになっていたサンジは、顔をしかめてゾロを睨む。
「何で!『お前』のとこに!置くんだよ!!!」
「うるせぇな」
「ムカつく!!!!」
「いいじゃねぇか。どうせ今頃キッチンにも飾ってあんだろ」
「…………フン」
大好きで大切な空間に花を飾れば、もっと大好きで大切で愛しくなると思いませんか?
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某詩集より、一月二日。
花に興味の無い私ですが、かすみ草は好きです。
あのお得っぽさが(見た目の)(笑)。
003:夢
「ゾロは初夢、どんなだった?」
「さぁ…覚えてねぇな。お前は?」
「んーとね、メリー号でみんなで旅してた」
「それじゃいつもと同じじゃねぇか」
「そうなのよ」
そこで一呼吸区切って、ナミはボスンと枕に顔を埋めた。
「でも、ちょっと前までの私には、これが『夢』だったのよ」
「………」
「時々ね、今ここにいる私は、私が見てる『夢』なんじゃないかなって思う」
枕に顔を押し付けたまま、ナミは独り言のように呟いた。
隣に寝転ぶゾロは何も言わずにそれを聞いている。
「ずっと夢見すぎてて、現実だと思い込んでるだけなのかもって」
「ナミ」
遮るようにゾロは名を呼んで、ナミの頭をガシガシと乱暴に掻き混ぜた。
唐突に枕に押し付けられる形になって、
ボサボサになった髪に手をやったナミは顔を上げると抗議の色を込めてゾロを見た。
「お前がここに居るのも、おれたちと居るのも、現実だ」
「………」
「夢なわけねぇだろ。それに夢であっちゃ困る」
「…何であんたが困るの?」
「これが夢なら、現実のおれは何処にいんだよ」
ごそごそと体を動かして、ゾロはナミをぎゅうと抱き締めた。
「『これ』が夢で、現実ではお前と逢えねぇってのは困る」
「………」
目を丸くしたナミが、体をよじってゾロの顔を見上げると、
自分でもらしくないと自覚したのか耳まで赤くしたゾロがそこにいた。
「……まだ早ぇ、寝るぞ!! 目ぇ閉じろ!!」
「………はーい」
夢見た夢が叶っても、それでも私は夢を見る。
どうかこんな時間が、明日も明後日も続きますようにと。
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某詩集より、1月3日。
何かこんな話ばっかり書いてた気がする(笑)。
004:キス
今までだって何度もあった。
ケンカして、別れようとどちらからともなく言い出して。
だけど3日もすれば、やっぱりどちらからともなく顔を合わせて、
謝って、笑って、時には泣いて、それからキスをする。
それはいつだって、まるで初めてするみたいなキスだった。
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某詩集より、1月4日。
このくらい短くたっていいじゃない、人間だもの。
005:太陽
冬のど真ん中での、夜明け前の見張りほどキビシイものは無い。
だが、嫌いではない。
水平線の向こうから朝日が真っ直ぐな光と共に上ってくる。
冷たく澄んだ空気がピリピリと肌を刺し、
そんな凍った体も心も、生まれたばかりの朝日に少しずつ溶かされ、浄化されていく。
そんな時間は、好きだった。
「あ、ちゃんと起きてる」
「……失礼な。どうした、天気はいいぜ?」
「何か目ぇ覚めたから、来ちゃった」
振り返ったゾロと目が合うとナミはフフッと笑って、柵を乗り越えて見張り台へと足を下ろした。
「お前、ちゃんと厚いコート着て来いよ」
「だってゾロのがあるし、と思って」
「追いはぎか」
その返事にナミは冗談めかして眉をひそめたあとゾロの胸の前に立つと、
コートをゴソゴソと動かし、すっぽりとおさまった。
ゾロは背後から腕をまわして、コートで包むようにナミをしっかりと抱き締める。
「ほら、あったかい」
「…てめぇ、病み上がりだって自覚してんのか?」
呑気なその笑顔に、ゾロは苦笑してさらに強くナミを抱き寄せた。
それに満足気に微笑んだナミは、ふと前方の朝日に目をやった。
「今日もいい天気になりそ」
「あぁ」
「キレイな太陽」
「あぁ」
「……ルフィってさ、太陽みたいよね」
「…あ?」
何故ここでいきなりルフィが出てくるのか分からず、ゾロは片眉を上げる。
ナミはちらりとゾロを見上げたあと、再び太陽に目を戻す。
「ルフィは、夏の太陽」
「……夏?」
「眩しくて大っきくて、近づいたらきっと平気じゃすまないのに、
それでも向かって行っちゃう。付いてっちゃうのよ」
「…ふーん」
「チョッパーも、そんな風に思ったのかもねー」
仲間になったばかりの愛らしくも頼れる船医の姿を思い出して、ナミはクスクスと笑った。
「ま…確かに似合ってんな、夏の太陽」
「ね」
「じゃあ、お前は冬だな」
「え?」
ナミは首を曲げて、背後のゾロを見上げる。
だがしっかりと抱き締められているので姿勢が苦しくなって、結局前方に視線を戻す。
「冬って?」
「冬の朝日だ」
「どういう意味?」
「さぁな」
説明をしてくれないゾロにナミは首をかしげながら、上りきった太陽を目を細めて見つめる。
「夏の太陽もいいが」
ゾロはナミの首筋に顔を埋めて、抱く腕に力を込める。
「おれはコレが一番好きだ」
「………ふぅん?」
それ以上聞いてもきっと答えてくれないことは分かっていたし、
聞かなくても十分に嬉しくなったので、ナミはそれ以上は何も言わずにただ笑っていた。
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某詩集より、1月5日。
ゾロにしては素直な告白。
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