過去拍手・其の二十五 (2008/02/02〜2008/06/02)

涙の滲む10のお題 6〜10


06:もう、音の鳴らないオルゴール


「何やってんだお前」
「あ、ゾロ。 ちょっと部屋の中掃除しようと思って」
「何でまた急に」
「……いいじゃない、別に」
「ふーん」

女部屋に下りてきたゾロはそう言って大きなあくびをした。

「手伝おうか」
「……何、珍しいこと言うわね」
「そうか?」
「でもいいわ、大した荷物じゃないし。気持ちだけありがたくもらっとくわよ」

ナミがそう答えたので、ゾロはポリポリと頭を掻いて女部屋の中を見渡した。
どうやら自分なりの基準でもあるのか、本棚に並べる本と箱に詰める本、
同じようにタンスにしまう服と箱に詰める服。
その他諸々ゾロには何に使うのかさっぱり分からない道具たち――。
ナミは一つ一つ選別しながらの作業を繰り返している。

「……まぁ、力仕事でもあったら呼べよ」
「うん、ありがとう」

ゾロはそれだけ言って、階段を上ろうとしてふと足元の、壁際に押しやられた箱に気付いた。

「こっちはいいのか?」
「え? あぁそれ、元々そこの引き出しに入ってたのよ。多分カヤさんのじゃないかと思って」
「ふーん」

ゴーイングメリー号はウソップの幼馴染であるお嬢様・カヤからもらったものだ。
彼女の私物が残っていたとしてもおかしくはない。

「でも置いたままってことは、いらねぇんだろ」
「そうだろうけど、ま、一応ね」

箱の中を覗いてみたが、どうにも必要なものだとは思えない。
ゾロはナミが示した引き出しの中も覗いてみた。
大きく引き出すと、一番奥にまだ何か残っている。

「おい、まだ残ってんぞ」

そう言いながらそれを取り出す。

それは掌におさまるような、小さなオルゴールだった。
豪華な装飾がしてあるわけでもない、シンプルな四角いオルゴール。
ひっくり返すと、曲のタイトルが刻んであったらしき場所は古くて削れていて、読み取れなかった。
つまみをねじってみると、ゆっくりと曲が流れ始める。
ゾロはその曲を聴いて、片眉を上げた。
だがすぐに音は止まり、今度は巻くこともできなくなってしまった。
音に気付いて振り向いていたナミが、ゾロの動きを見て呆れたように溜息をつく。

「壊したの?」
「元々だ」
「もう」
「………おい」

ゾロはそれをナミに向かって放った。
驚いたナミだが、床にぶつかって砕けてしまう前に何とかキャッチすることができた。

「何?」
「お前にやる」
「…やるって、元々カヤさんのじゃない?」
「知るかよ、おれが見つけたんだからおれのモン」
「何よそれ」
「またお嬢様に会ったとき返せばいいだろ」
「ていうか壊れたんでしょ、何て曲だったの?」
「……知らなくていい。でも持っとけ」
「何よそれーー」

呆れたような、でもどこか嬉しそうなナミの顔を見て、ゾロは緩く微笑んだ。

久しぶりに、そしてようやく、ナミに送ることができた笑顔だった。


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オルゴールを無理矢理出してみる。


07:君の夢が叶った、その時に


何でお互いの夢の話になんてなったのか。
多分、ルフィが腹減った腹減ったと唸りながらバラティエで怒鳴られているのをメリー号の甲板からぼんやりと2人で眺めていて、それからどちらが言ったのかあれで海賊王になんてなれるのかと笑ったのがきっかけだったと思う。

「大剣豪になる瞬間はお前は特等席で見せてやるよ」
「…特等席って、子供みたい」
「うるせぇな」

皆を騙して船を奪って、逃げようとしているなんてきっとこの男は考えてもいない。
だからそんなことが言えるのだ。
それでも、それでも嬉しかった。
この男が自分の未来に私の居場所を作ってくれていることが嬉かった。

「じゃあ、私が」

私が、世界の海図を書き上げたら――

そう言いかけて、やめた。
あんな一方的に別れておいて、そしてこれからもっと一方的に裏切ろうとしている私が、
一体どの口で、何を言おうというのか。

「お前が海図を書き上げたら」

俯きそうになったら、ゾロがそう言った。
思わず顔を上げると、まっすぐな目とぶつかった。

「おれに一番に見せろ」
「………見てくれる?」
「当たり前だ」

そうしてゾロは笑ってくれたけど、私は涙をこらえるのに必死になってしまって上手く笑えなかった。


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ちなみにもう別れてますよ、この2人。


08:二人、歩む道は最初から分かれてたのに


オルゴールを持ったまま甲板の手すりによりかかって、つまみを回そうとした。
だがそれはどうやっても動かず、タイトルも曲も分からないただの四角い箱を手にして溜息をつく。

「どうしたナミ、なんだそれ?」

男部屋から上がってきたウソップが、それに気付いて声をかけてきた。

「ウソップ、これ音が鳴らなくなっちゃって」
「ん?オルゴールか。ちょっと待ってろ」

ウソップはそう言ってオルゴールを受け取ると、そのまま男部屋へと引っ込んで行った。


10分程して、満足気な顔でウソップは戻ってきた。

「直ったの?」
「あぁ、キャプテンウソップにかかりゃこの程度の修理は朝飯前だ!!」
「ありがとう!!」

ツマミを回して見ると、澄んだ音が流れ出す。

「…何て曲か知ってる?」
「いや…おれそういうの詳しくねぇからなぁ…ルフィ…も知らねぇだろうな。
 ゾロとか……あぁ、バラティエのコックなら知ってんじゃねぇか?」



お昼ごはんを兼ねてレストラン内に入ると早速、
金髪碧眼のスーツ姿の男が他の男性客の相手を放り出してクルクル回りながら近づいてきた。

「んナミすわぁーん! こちらへどうぞーーー!!!」
「ありがとv」

何も言わずとも次々と料理が運ばれ彼の優雅な給仕をたっぷり堪能し、
デザートの頃合になってから足の上に置いていたオルゴールを彼の前に見せた。

「オルゴール?」
「うん、あなたなら何の曲か知ってるかと思って」

そういいながらつまみを捻り、音を出す。
しばらく耳を傾けていた彼は、笑顔と共に口を開いた。

「あぁ、知ってるよこの曲…5年か…もう少し前のですよね。
 ちょうど音楽家来てるから、リクエストしてこようか?」
「いいの?」
「貴女のためならいくらでも」

膝をついてナミの手を取りそう告げたコックは立ち上がり、
他のテーブルの前で演奏していた音楽家たちに声をかける。
コックが何か言うと、音楽家は承知したように頷き、ナミの傍までやってきた。

「では美しいお嬢さんのリクエストに答えて、『やわらかい月』を――」

そう言って彼らは歌い始めた。

オルゴールの澄んだ音で聞くよりもしっとりとしたその曲を、
ナミはもちろんまわりにいた客たちも静かに聴いていた。


やわらかい月にたどり着くまで
どれくらいの時が流れればいい
かたくなに閉じたこの手をそっと開いて
思いが解き放たれてゆく それだけを祈ってる
まだこの心に光があるのなら
ゆるしあえる日がきっと来る その時を信じてる



「……ナミさん?」
「………何でもない」

ナミは俯いて、ぶんぶんと首を振った。
コックは何か感じたのか、それ以上聞いてはこなかった。


自惚れることは許されるだろうか
私がこれから取ろうとしている行動を知っても
私の本当の姿を見ても
それでも変わらず信じてくれると
想ってくれると
愛してくれると

夢みることは
許されるだろうか


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著作権とかそのへんはアレだその何だアレだよアレ。


09:いつも深すぎる愛に抱かれてたなんて


「笑っていて」

はっと目を覚ますと、そこには見慣れつつある船の天井。
海上レストランの横に停泊したままのメリー号は、
穏やかな夜の波に揺られ妙に体に慣れたリズムを刻んでいる。
腕で顔を拭うと、汗なのか涙なのか、ひんやりと濡れていた。

「ベルメールさん」

口に出してみてもそれはこの部屋の静けさを強調するだけで、
あぁ私は一人なんだと実感して何だか無性に叫びたくなった。

「ベルメールさん」

ベルメールさん。
私はもう、あんな風には笑えないよ。
ウソで固めて、思いを隠した笑顔しか出来ない。


「ナミ?」

突然自分以外の声がして、びくりと体が強張る。

「……ゾロ?」
「どうした」
「…別に、ただの寝言よ」

声が聞こえてしまったらしく、男部屋と通じる扉の向こうからゾロがそうかと返事をした。
ウソップを起こさないようにしているのか押し殺したその声に、それでもほんの少し安心する。
一人ではない。
だけど、すぐに一人になる。

おやすみ、とムリヤリ会話を終わらせてシーツにもぐりこんだ。
ゾロからの返事は無い。
その代わり、カタンと扉が静かに開く音がした。

「ちょ、」
「泣いてたろ」
「……泣いてない」
「うそつけ」

そう言いながらゾロは何の遠慮も無しに女部屋への侵入を果たした。
壁を作るようにシーツをたぐりよせて、ベッド代わりのソファの上で体を起こして背中を丸める。

「……夢見ただけ」

表情を隠すため立てた膝に額を押し当ててそう言うと、ゾロはムリヤリに両腕を取って顔を上げさせた。

「ナミ」
「泣いてないってば」
「頼むから一人で泣くな」
「泣いてない」
「うそつけ」

小さな声でそう言って、ぎゅうと抱き締めてくれる。

甘えてはいけない。
私は、この男を捨てたのだ。
裏切って、傷つけて、拒絶して。
それなのに、離れられない。

私は、卑怯者だろうか。


「……あんたなんか、大っキライ」
「………」
「嫌い」
「…泣くなよ」
「泣いてない…」
「………お前は本当、ウソばっかりだ」
「嫌いよ……」


明日、出て行こうと決めた。


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お互い好きすぎて大変。


10:久方ぶりに見上げた青空


一歩踏み出せば、足元のガレキがガラガラと崩れていく。
転ばないようにゆっくりと、一歩ずつ進む。
きっとこのあたりが、私の『部屋』だった場所。
ぐるりと360度見渡せば、そこには何も無い。
そびえ立つ建物も、立ち入るものを拒む門も、そして魚人たちの姿も。
それらは全て崩れ落ちて、私の足元でただのガレキと成り果てている。

終わった。
全部、終わった。

ボロボロの姿で仲間だと叫んでくれた男の、男たちの姿を、私はきっと永遠に忘れないだろう。


ガラッ、と崩れる音がして振り返ると、そこには胸にグルグルと包帯を巻いた男が立っていた。

「ゾロ、動いちゃダメじゃない」
「あんな消毒液くせぇとこで寝てられっか」
「血が滲んで――」

そう言って歩み寄ろうとしたら、崩れたガレキに足を取られて体がよろめいた。
不安定な足場など全く感じさせずあっという間に駆け寄ってきたゾロが、
ガレキに倒れこむ前に私の体をしっかりと抱きとめる。

「お前の方こそ、フラフラしてんじゃねぇよ」
「ご、ごめん」

ゾロの胸に抱き寄せられたまま、顔を上げた。


「――――ゾロ」
「ん」
「空はこんなに広かった?」
「あぁ?」

ゾロから体を離し、真っ直ぐに自分の足で立って空を見上げる。
私に釣られたゾロも同じように顔を上げる。

吸い込まれそうな、眩暈のするような、青い空。
広くて広くて、それはどこまでも続いているように見えた。

「窓から見る空は、もっと小さかったの」
「………」

海に出ても、どこに行っても、
結局とらわれたままだった私にとって空はいつまでも四角く切り取られたあの大きさだったのだ。
でもあの部屋はもう無い。
今の私の目には、青く広い、無限に続く空が映っている。

いつまでも見つめていると、ふいにゾロに背中から抱き締められた。

「ナミ」

耳元で、小さなゾロの声が響く。

「おかえり」



ベルメールさん

ベルメールさん

私は今、笑ってるよ。
ウソの笑顔じゃなくて、
ガマンするための笑顔じゃなくて、
泣かないための笑顔じゃなくて、
本当に、心から、幸せで。

見て、くれている?

青い空の下、私はきっとどこまでも進んでいける。



「ただいま」



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最後は笑顔でね!!


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