過去拍手・其の二十 (2007/03/01〜2007/03/31)

離れ離れの彼らに10のお題 6〜10


06.以心伝心なんて信じない


「本当、悪かったな」
「いいさ、こういう事態じゃあな」
「本当悪い、ちゃんと今度埋め合わせすっから」
「あぁ、とりあえず今は静養しとけ」

金髪の男は、本当に申し訳無さそうに眉を下げた。
白いシーツにくるまって、病院のベッドに横になっているサンジははーーっと長い溜息をつく。

「お前、まとめて有休取ってたろ? どっか旅行でも行くはずだったんじゃ…」
「まぁ…な」

ベッドの横に置かれたパイプ椅子に腰を下ろし、言葉を濁す。

「彼女と旅行とかか?」
「いや…あいつは今外国に住んでんだ」
「え?そうなのか? てかお前の彼女の話、聞いたことねぇぞ」
「まぁ………普通のヤツだよ、今はその…留学中だ」

おそらくこの国の人間なら大抵はその名と顔を知っている女優だ、などとは言えず、
再び曖昧に誤魔化しながらも、サンジの目が好奇心に光るのを見て小さく息を吐く。

「で、で? 美人なのか? 写真の一枚くらい今も持ってんだろ?」
「美人」
「うわぁ即答したコイツ!!」
「………」
「で、で、名前は? おれにも紹介して!」
「……有休で会いに行く予定だったんだが…」
「…………」

テンションの上がっているサンジを目を細めて見下ろすと、
途端にしゅんとしてシーツにもぐりこんでしまった。
その姿に苦笑して、布の上から頭をポンと叩く。

「冗談だ、気にすんな」
「いやもう本当申し訳なく…、退院した後でまたおれが引き継いでもいいんだけど…」
「んな中途半端な仕事できっか。それにアイツにももう言ったしな」
「……怒ってたろ、彼女」

シーツから顔を出したサンジに言われ、最後の電話のやりとりを思い出す。

「さぁな…怒ってたし、泣いてたな」
「……あーーーもう、本当すまん」
「ま、分かってくれるだろ、仕事だし」
「…お前、でもそれ、ちゃんとフォローしとけよ?」
「フォロー?」

上半身を起こしたサンジは、ビシリと指を突きつけてくる。
思わず指の先を見つめながら問い返した。

「お前がウキウキと有休取って楽しみにしてたように、彼女だって楽しみにしてたんだろうからな」
「………」
「お前のことだから、仕事だってあっさり言ったんだろ?」
「…まぁ、そんな感じで言ったな」
「それ言ったあと、また連絡したか?」
「いや、さすがに何となく…」
「しろよ、おれが言うのも何だけどな」

珍しく真面目な顔のサンジに言われて、言葉に詰まってボリボリと頭を掻く。
サンジは呆れたように肩をすくめた。

「あいつも…分かってるだろ、そのへんは」
「甘い」
「……」

ぴしゃりと言われて、眉を寄せてサンジを睨むが逆に睨み変えされた。

「以心伝心ってのは、こういうときは信じねぇ方が無難だぜ」
「……」
「まぁおれが言うのも」
「本当にな」

八つ当たりではあるが何となく腹が立ったので、言葉の途中で止めてやった。
再び凹むサンジもフォローしてやらない。


てめぇに言われなくても分かってらぁ、ちくしょう。


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遠距離恋愛なお題、後半です。
サンジくんはどうして入院したのか、そのへんはツッコまないように(笑)。


07.思い出より、今が欲しいのに


ソファに寝転んではしたなく足を伸ばし、写真を一枚一枚眺めていく。
まだここに来る前に撮った写真。
アルバムに整理する暇が無くて、無造作に箱に入れたままだったのだ。

写真の中の私は笑っている。
仕事で見せるフィルムや雑誌の中の笑顔とは、何となく違う気がする。

ゾロの前だから見せる笑顔。
ゾロにだから見せる笑顔。

写真の中のゾロも笑っている。
目つきが悪くて、初対面の人には大抵怯えられる顔つきなのに、
私の前ではこんなにも優しくて柔らかい表情を見せてくれる。
それがすごく嬉しくて、独り占めできることが幸せだった。

写真の中の2人は、変わらない。

今のゾロはどうなんだろう?
写真のゾロはずっと前のもの。
たかが数ヶ月でも、これは今のゾロではない。


本当なら、今頃ゾロと2人でこの部屋に居るはずだった。
せっかくのお休みで、何ヶ月も前から計画していて。
それなのに。

仕事だというのは分かっている。
私だって、仕事に行き詰ってゾロに冷たくしてしまったことだってある。

分かっている。
分かってはいる。
だけど。
逢いたいと、ずっと思っていたから。
逢えるものだと、ずっと思っていたから。


写真のゾロが、ぼやけてくる。

動かないゾロじゃ、いやだ。
私の名前を呼んでくれないゾロじゃ、いやだ。

ゾロの笑顔が見たい。
ゾロの声が聞きたい。

ゾロに、触れたい。

逢いたいよ、ゾロ。


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ナミさん乙女モード?
書いてて照れるよ(じゃあ書くなよ)。


08.君との予定が空白の手帳


どうにか残業を終えて、この日は日付が変わる直前で自宅に帰ることができた。
途中で寄ったコンビニの袋を床に放り投げて、そのままベッドに倒れこむ。
ふーーっと息を吐いて、ごろんと転がり天井を眺める。
仕事が忙しいのも事実だが、進んでその量を増やしている気がする。
何も考えずにすむように。
気まずい事から目を逸らしているのを誤魔化すように。

ナミにはあれから連絡をしていない。
本当は今頃ナミの傍に居るはずだった。
仕事が入ったと連絡したとき、ナミは怒っていたしおそらくは泣いていた。
だが慰めることもせず、切れた電話もそのままにした。
元々口が立つ方ではない。
だがサンジの言うとおり、何か言うべきだったのだろう。

ごそごそとポケットを探り、携帯を取り出す。
向こうは今は何時だろうか。
オフのはずだから構わないか。
待ち受け画像も何も無い、時計だけの画面を見ながらぼんやりと考える。
ふと思い立って、スケジュールの画面を出した。
今日の日付の前後には、予定が入ったままになっている。
それが虚しくて、小さく舌打ちをする。
以降の日付にも、仕事の予定しか入っていない。

携帯を閉じて、八つ当たり気味に放り投げた。
床の上に転がってゴンと大きな音を立てたが、そう簡単に壊れるものでもないだろう、
そのまま放っておいて目を閉じる。

ナミとの予定をいちいちスケジュールに登録するようなことは、普段はしない。

だが今は。

空白のそれが、妙に不安だった。


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悶々とするロロノアさん。


09.子守唄はいつもあなたの名前


『ナミ』

懐かしい声を聴いて、目を開けた。
もう見慣れた天井が目に飛び込んできて、ぼんやりとそれを見つめる。
手には写真が握り締められたままだった。
どうやら写真を眺めながら、ソファに寝転んで転寝をしたらしい。

夢か。
ふっと笑って、また目を閉じる。

ゾロの声は好きだ。
低くて、時々少し掠れて。
その声が私の名を呼んでくれるのは、心地良かった。

仕事が忙しかったり、精神的に追い詰められてしまったとき、私はよく不眠になった。
寝不足の顔でクマを作って仕事に行くわけにもいかず、
時々病院に行って安定剤や睡眠剤を貰うこともあった。
でもできれば薬には頼りたくなかったので、それらはあまり飲まずにいた。
そういうときは、ゾロに一緒に居てもらったのだ。
ゾロと一緒にシーツにくるまって、ゾロの胸にしがみついて、頭を撫でてもらう。
私が寝付くまで、ゾロは優しく髪に触れながら名前を呼んでいてくれた。
ゾロだって仕事があったのに、一晩中そうしていてくれたのだ。
ゾロの声は、私にとっては薬よりもよく効いた。

今、目を閉じても眠ることができない。
さっきの夢の続きが見たいのに。
ゾロの夢を見て、ゾロの声を聞きたいのに。
ゾロに名前を呼んでもらえなければ、眠って夢を見ることもできないのか。

瞼を開けると、目の端から溢れた涙がこめかみを伝うのを感じた。

「ゾロ」

声に出して名前を呼んでみる。
返ってくる音は無い。
静けさが哀しくて、もう一度呼んだ。


それに返すように、携帯が鳴った。


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その頃のナミさん。
一人寂しくオフの夜を過ごしてます…。
さてさて。


10.100万回「好きだ」って言って


ガバリと跳ね起きたナミは、テーブルに置いていた携帯を掴み、
画面を確認することもなくボタンを押した。
相手が誰かなど見なくとも分かった。
何故だか分からない、そんな気がしたのだ。

「もしもし!」
「……おれ」
「……ゾロ」

電話を通してでも、その声が聞けることがナミは嬉しかった。
あの電話からたかだか10日かそこらだというのに、妙に懐かしく感じていた。

「……元気か?」
「…何とかね」
「そうか」
「………」
「………」

ゾロは何となく無言になってしまい、ゾロの言葉を待っていたナミも無言で返した。

「…ナミ」
「………なに」

ゾロにとってはただ名前を呼んだに過ぎない。
だがナミはそれだけで泣きそうになっていた。
それに気付かれないようにしながら、返事をする。

「…行けなくて、ごめんな」
「……いいよ、仕事だもん」

ゾロが素直に謝るのは珍しい。
ナミはふふっと笑って、目尻にたまっていた涙を指で拭った。
それから十数秒、ゾロは何も言わなかったが急かすことはしなかった。
電話の向こうにゾロがいる、それを感じられるだけでも幸せだった。

「逢いたい」

唐突に、ポツリとゾロが漏らした。
ナミは一瞬聞き間違いかと思った。
それは、ゾロの口からは初めて聞いた単語だったのだ。
だがナミの耳は確かにその言葉を聞いていた。

「ナミ」
「…私も、逢いたいよゾロ」

ナミが小さく鼻をすするのを聞いて、ゾロは電話の向こうでボリボリと頭を掻く。

「次は絶対行くからな、休みが合わなくても」
「撮影中でも?」
「24時間仕事ってわけでもねぇだろ? 現場違うんなら、そこに行けばいいしな」
「…そうだね」
「あのな、……楽しみにしてたのは、お前の方だけじゃねぇんだぜ」
「……そうだね、こないだはごめん」
「おぅ…おれもあのあと連絡しなくて悪かった」

お互いの素直さに可笑しくなって、2人は同時に噴出して笑った。

「ねぇゾロ」
「何だ」
「好きよ」
「………」
「……何か言ってよ」
「お前なぁ……」

ゾロがそんな事を口にするようなタイプではないと、当然ナミは知っている。
ナミ自身は口にすれども、ゾロにそれを求めることはなかった。
だが今日は。

「今日のゾロ、素直なんだもん。言ってよ」
「てめ…」

ナミは電話の向こうのゾロの顔を想像して笑った。
眉を寄せて、口元を引きつらせて、頬を少し赤くして。

「好きよ、ゾロ」
「……」
「ゾロ」
「…………」
「……」
「…、……好き、だ」
「……どもったらNGよ?」

嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように、ナミはそう返した。

「演技じゃねぇだろバカ」
「私も好きよゾロ」
「…おぅ」
「あれ、もう言ってくれないの」
「…また次の機会に」
「ケチ」

ナミがクスクスと笑うと、誰がケチだとゾロの笑い声が返ってきた。



100万回『好き』と言えば、1回の『好きだ』を返してくれる。
それでも構わない。

そのたった一言を聞くために、私は何度でも言いましょう。


あなたが好きです。


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甘っっ!!!!
最後予定外に甘い!!!!
何でこんなことに?(笑)
遠距離関係無ぇし!!!!!

とりあえずコレにて終了。


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