嵐。






 「ナミーー!!! いつになったら抜けるんだぁー!!??」



ウソップが悲痛な声で叫ぶ。



 「多分もう少しよ!! 気合入れなさい!!」



ナミも声を荒げて叫ぶ。








現在メリー号は、嵐の海をひた走っている。














もはや雨のせいなのか海水なのか分からぬほど全身をびしょぬれにして、クルーは船の上を走っていた。

油断すればあっというまに波にさらわれて転覆してしまいそうな嵐の中、
ナミはひたすらクルーたちに指示を出し、どうにかこの海域をくぐり抜けようとしていた。
叩きつける風と雨にあおられて、何かに捕まっていなければ立ってもいられない。
全てを飲み込まんばかりの勢いの波が休むことなくメリー号を激しく揺らす。










帆を畳むゾロが目にしたのは、それまでの規模を遥かに超える大波だった。

航海士ナミがいるとはいえ、強烈すぎる嵐に翻弄されるメリー号は、
真横からその大波を受ける形になった。

船底の補修をしていたウソップ、舵を握っていたチョッパーとサンジ以外のクルーは甲板におりその大波に気付いたのだが、
気付いたその瞬間にはその波はメリー号を飲み込んでいた。










転覆こそ免れはしたものの、甲板上の物を根こそぎ奪われたメリー号を残して、波は海へと戻っていく。
それを最後に、嵐は収束の兆しを見せる。




 「すっげー波だったなー!」



ゴムの腕を伸ばしてマストにからめていたルフィは、麦わら帽子を押さえながら呟いた。
マストにしがみついたまま、ルフィは声をあげる。




 「全員いるかー!?」




ルフィの呼びかけに答えようとした瞬間、ゾロは気付いた。







階段の一番下で手すりに捕まっていたはずの、ナミがいない。








 「おい、ロビンちゃんは!?」



舵をチョッパーにまかせて、2階からサンジが飛び出してくる。

大波の直前までロビンはサンジたちと共にいたが、甲板での作業を手伝うため出て行っていたのだ。
開いた扉からサンジはその後姿を視界に入れていたが、
次の瞬間、突然の大波に甲板上の物が飲み込まれるのを目撃した。
波が引いたあと、さっきまであったロビンの姿も消えていた。



 「おい、ロビンちゃんはどこ行ったんだ!!! ナミさんもいねぇじゃねぇか!!」





サンジは叫ぶが、ゾロは返事もせずにひたすら海面に視線を巡らせる。
それに気付いたサンジはマジか、と呟いて同じようにロビンたちの姿を探すため手すりから身を乗り出す。
ルフィも慌ててマストから手を離して探し始めた。





そして3人がほぼ同時に、10数メートル離れた海面に2人の姿を見つけた。

うねる波の間から、2人の頭と、そして必死に動く手が覗いている。





 「ナミ!!!!」

 「ロビンちゃん!!!!」



ゾロとサンジは同時に叫んで、メリー号の手すりを蹴って海に飛び込んだ。
先程よりは静まってきたとはいえ、いまだ海は荒れて雨や風は激しいままである。
ナミとロビンの姿は、波にもまれてどんどんと遠ざかっていく。




 「ゾロ!! てめぇはナミさんを!!」



サンジの声は唸る風と波の音にかき消され、ゾロには届かなかった。
だがゾロは、まっすぐにナミに向かって泳ぎ始めていた。































女部屋で、ロビンは目を覚ました。

倉庫から出た瞬間に波にさらわれたため、ロビンは一瞬今の自分の状況が理解できなかった。



しばらく天井を見つめてようやく思い出し、助けられてベッドに寝ているらしいことを理解した。








 「起きたか」




少し遠くで、ゾロの声を聞いた。
ロビンは頭だけ動かし、自分の所から少し離れたナミのベッドの端に座っているゾロの姿を見つけた。
その手は、しっかりとナミの手を握っている。




 「・・・・航海士さんは・・・大丈夫・・・?」

 「あぁ、寝てる。 お前は? 大丈夫か?」

 「えぇ・・・・少し体が重いけど、平気」



力は無いがはっきり答えたロビンに、ゾロはそうかと小さく息を吐いた。









 「・・・・私の手は、握ってくれないの?」




ロビンはふふっと笑って、冗談めかしてそう言った。
からかうだけのつもりで。

だがゾロは、合った目をそらすことなく、呟いた。







 「・・・・あぁ」





声を張ったわけではない、それでも強い意思の込められた返事にロビンは思わず体を硬くする。







 「・・・・・・」

 「・・・こいつじゃないと、おれはダメだ」

 「・・・・・・そう・・・」

 「おれは、お前の手は握ってやれねぇ」




ロビンをまっすぐ見つめながら、ゾロは握る手に力を込めてそう告げた。








 「・・・そんな風にはっきりしてるほうが、やっぱりあなたらしいわ・・・・」





ロビンはそう言って、ゾロに背を向けてシーツを頭まで引っぱりあげた。













しばらく女部屋に沈黙が流れる。
それを破ったのは、サンジのノックだった。

軽くコンコンと叩いたあと、サンジは扉を開けて下りてきた。



 「おいクソ剣士・・・2人とも起きたか?」

 「・・・あぁ、ロビンは起きた」

 「そうか。・・・ロビンちゃん、チャウダー作ってきたけど、食べられる? あったまるよ?」



サンジは寝ているナミを起こさないよう、小声でそう言いながらロビンのベッドサイドに歩み寄る。



 「・・・・今はまだいいわ、ごめんなさい」

 「・・・・・・・・・じゃあ、あとでまた・・・来るからね」



シーツに頭までうずまったまま顔も出さずに答えたロビンに、サンジは優しくそう言った。
かすかに震えたロビンの声に、サンジが気付かないわけはなかった。





サンジはそのまま向きを変え、今度はナミのベッドの傍まで行く。



 「ナミさんは、どうだ」

 「・・・・寝てる」

 「無理に起こすなよ」

 「あぁ」




無愛想な会話が終わって、それでもサンジはそこに立ったまま、
ナミのベッドに座っているゾロを見下ろしていた。

じっとナミの顔を見ていたゾロだったが、動かないサンジの様子にチラリと顔を上げる。
そして、責めるように睨んでくるサンジと目が合った。




   『約束したよな』




サンジの目が、そう言っていた。

ゾロは目を逸らさず、サンジの目を見返す。




 「・・・・・・」

 「・・・・・・」




サンジは小さく舌打ちをして、クルリと向きを変えて部屋から出て行った。




ロビンのベッドから漏れるかすかな音を聞きながら、
ゾロはただ無言で、ナミの手を握り続けていた。




2006/04/29 UP

あれ・・・・4月なのにウソップが・・・ほとんど・・・・・。
いや、あくまでもゾロナミ前提の『巡』でございますから・・・・(言い訳)
何か微妙に長いので、これは5月に続きますー。
5月のSSは多めになりそうな・・・(詰め込み)。
『巡』で下がりまくってるゾロ株は果たして今後上昇するのでしょうかね(笑)。

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